samsara14 | ナノ





samsara14

 靴音とともに明かりが近づいてくる。彼は体を起こして、鉄格子のそばへ寄った。ヴァリオが荒縄と鞭を持ち、ロウソクの明かりを掲げてやって来る。
 彼は寒さで震えながら、ただヴァリオを見上げた。ヴァリオの黒い瞳からは憎しみしか感じられない。
「……ヴァリオ殿」
 一度目に彼の命を奪った時のように、ヴァリオは冷たい視線でこちらを見ていた。こんなふうに見つめられたくない、と彼の心は悲鳴を上げている。だが、彼はヴァリオから恨まれて当然だった。
「思い出したか?」
 ヴァリオはロウソク台へロウソクを移すと、上着のポケットの中から鍵を取り出した。鞭を置き、荒縄だけを手にしたヴァリオが彼のそばでしゃがむ。
「その涙は悔いているということか?」
 彼は小さく頷いた。彼のあごをつかんだヴァリオは、厳しい表情で告げる。
「ならば、おまえの罪を話せ。本当に悔いているなら、何を悔い、どう償うのか、話してみろ」
 一度目を閉じた彼は、夢の中で見てきたことを思い出した。
 ユハはヴァリオの弟を救えなかった。
 ユハは法力を偽って上級神官の座に就いていた。
 彼の胸を去来するのは、人々の役に立ちたいという思いと、弟を失った時のヴァリオの慟哭と、そして、豪奢な部屋の中で行われた行為の数々だった。彼は涙を流しながら、ヴァリオを見つめ返した。
「私の罪は……人々を欺き、あなたの弟の命を救えなかったことです。それは私の命でもっても償えません」
 ヴァリオは彼のあごから手を離すと、小さく息を吐いた。
「ユハ……そうだ。おまえの命を六度奪った。禁術通りなら、おまえの命を七度奪うと、その魂を闇へ縛ることができる。復讐する俺を哀れだと思うか?」
 ユハは首を横に振った。
「それも私のせいです。私はあなたの魂の行く道すら狂わせた……」
 ヴァリオはユハの言葉に泣き笑いの表情を見せる。
「俺はこれまでおまえを見つけたら、すぐに殺してきた。だが、今回は違う。絶望を味あわせてやると言っただろう?」
 ヴァリオが手にしていた荒縄でユハの体を拘束する。
「あの時と同じだ。おまえは拘束され、鞭打たれ、ぼろぼろになるまで犯される」
 一つにまとめられた腕から伸びる荒縄が、支柱部分へかけられる。ユハの体は吊るされ、ヴァリオはユハの衣服を乱暴にはぎ取った。
 ユハは大人しくヴァリオにすべてを委ねた。ヴァリオの復讐は当然だと思えた。命でも償えないなら、魂で償うしかない。
「俺がどうしておまえを抱いてやったか、分かるか?」
 ヴァリオの温かい手が、ユハの左胸の痣をなぞる。
「おまえの生はどんな時でも不幸だった。親がなく、家もなく、頼る人間もいない。おまえは愛を知らない。家族愛も兄弟愛も恋愛も……だから、優しくしてやったんだ。おまえのほうが哀れだと思わないか?」
 ユハは嗚咽を漏らしていた。ヴァリオの言う通りだった。ユハは愛を知らない。
 覚えている限り、ユハには一度も親がいなかった。いつも一人で、ひもじく、耐えられずに体を使ったことがある。それがいつだったか分からないが、ユハは自分の生を恥じた。
 先の細い鞭が空を切ってしなる。背中に受けた瞬間、まるでロウソクをそこで燃やされているのかと思った。
 ヴァリオは三十分ほど鞭打ちを続けていた。ユハの背中はミミズ腫れがいくつもでき、ひどいところは裂傷になった。ユハは悲しみと痛みからずっと嗚咽を上げて泣いていた。
 非情にもヴァリオはロウソクを移し替え、出口へ向かっていく。ユハの周囲は暗くなり、やがて闇だけが残った。

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