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samsara13

 血のにおいが充満していた。だが、ユハ自身、それに気づくことはない。公開処刑の日は七日後だと言われてから、何日経過したか分からない。ユハの両腕は鎖の拘束具で自由を奪われ、足のつま先がつかないように吊るされていた。腕からも出血していたが、いちばんひどいのは背中とアナルからの出血だった。
 罪人は処刑日までに鞭打ちを受けることが多い。多くの者たちが、ユハが何を使って地位を得、聖地グルントと各国の関係を壊したか知っていた。処刑を執行する者達は、ユハを鞭打つだけでなく、猛ったペニスでユハを犯した。ユハは何度も、もう終わりにして欲しいと願った。処刑日になればすべてから解放される。
 目は殴られ続けて開かなくなった。目尻から血と混じった涙が流れていく。口枷の間からは唾液が流れ、長く糸を引いた。ユハの耳にこつこつと音が響く。処刑執行人が来たのだろうか。ユハは少し期待しながら、その者が来るのを待った。靴音はユハのいる地下牢の前で止む。
 開錠する音の後、真っ暗なユハの世界に温かい手が触れた。その手はユハの左胸、心臓のあたりを押さえる。
「おまえがマールと密約を交わさなければ、あの戦は起きなかった」
 ヴァリオの冷えた声が鼓膜から入り込んで、ユハの心臓をつかむ。
「あの戦が起きなければ、弟は負傷せずに済んだ」
 ユハの左胸に冷たいものが当たる。
「っ、ン、グ……っウ」
 ユハは必死に言葉を紡ごうとした。言い訳などしない。ただ、彼の弟を救えなかったことを謝罪したかった。だが、ユハの口枷が外れることはない。
「こんなに身を落としても、男を誘うことは忘れなかったようだ」
 ヴァリオの手に握られた短剣が、ユハのアナルの近くをなでる。ユハが体を大きく震わせると、ヴァリオは嘲笑した。
「……おまえのことを信じてたのに」
 ヴァリオは彼よりも若い上級神官に好感を持っていた。偽造された噂話にしか過ぎなかったが、ヴァリオはそれを信じていたし、初めて会った時も好印象を抱いていた。それをすべて裏切られた。公開処刑という楽な死に方をさせたくないと思った。
 ヴァリオは短剣を左手へ持ちかえると、彼自身の右手を切る。人差指へ血を集めて、ユハの体に文字を描いた。
「おまえの魂を七回呪ってやる。おまえは俺に殺されるんだ」
 ユハには知識がなかったが、ヴァリオの始めた儀式は数百年前に禁じられた術だった。七回目の転生で、ユハの魂がヴァリオによって奪われた時、ユハの魂は永遠の暗闇に落ちて縛られる。術の代償はヴァリオの魂であり、ヴァリオ自身もその時、永遠の暗闇に落ちることになる。
 ヴァリオは右手に短剣を持つと、ユハの左胸に縦の線を刻んだ。
「まずは一回目だ」
 線を刻んだ後、ヴァリオはユハの喉へ切っ先を当てる。
「俺はおまえのことをすべて覚えている。来世で会った時、おまえが自分の罪を覚えていたなら……その罪を償うことができたなら……」
 ユハには見えなかったが、ヴァリオの声は涙で濡れていた。彼は呪いをかけるほどに自分の存在を許せないのかと思うと、ユハは苦しみのあまり心が張り裂けそうになった。
 喉が熱くなる。
 絶対に覚えていようと思った。
 自分の罪と、その罪を償うこと。
 ユハは急速に消えていく自分の熱を感じた。



 黒い闇の中で目が開く。
 彼は冷たく湿った土の上で震えながら、熱い涙を流していた。
「ヴァリオ……」
 彼の吐いた名前は闇の中へと消えた。

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