samsara9 | ナノ





samsara9

 ユハはデミアスの命令に従うだけで、実際に外で起きていることは知らない。今年は猛暑と雨が極端に少なかったことから、多くの農作物が枯れ、漁業のほうでは異常なほど赤潮が発生していた。
 外交では東の大国が隣国を脅かしている。その大国の軍事関係者が聖地グルントを訪問したという話は巷の噂になっていた。
 ヴァリオの目に、ユハの笑みはのんきだと映ったようだ。デミアスはユハに何も言わず、ヴァリオに向き直る。
「書簡だけか?」
 ヴァリオは頷くと、ユハを一瞥して出て行こうとする。横を通り過ぎる瞬間、ユハはヴァリオの着衣の裾をつかんだ。ヴァリオは驚いてはいないが、利き手がしっかりと帯剣している鞘へ触れている。
「ユハ殿、何か?」
 ヴァリオが素っ気ない声で尋ねる。ユハは無意識の行為に恥ずかしくなりながら、すぐに裾から手を離した。
「な、何でもありません……あの、どこかで会いませんでしたか?」
 ヴァリオはすぐに行ってしまうかと思ったが、しばらく考えているようだった。
「ユハ、そろそろ戻ったほうがいい」
 デミアスの言葉にヴァリオが視線で問う。
「体調があまりよくないそうだ」
 ユハは促されて、謁見の間を出た。デミアスが書簡を持って後を追ってくる。
「あれは何だ? 新手の口説き文句か?」
 笑いをこらえているデミアスを横目に、ユハはヴァリオの強い視線やたくましい体を思い出す。体に残る傷痕はヴァリオがこの聖地を守るために戦ってきたことを意味していた。戦場で剣を持って戦うことと体を使って欲望にまみれること。立場は異なるが、ユハはヴァリオと同じものを守っていることに誇りを感じた。

 深いグレイッシュブルーの瞳を一度閉じてから、ユハはもう一度目を開いた。ベッドの上で体が揺れる。上級神官の一人が夜半に部屋へ来て、ユハを抱く。日常になっているその行為をユハは抵抗もなく受け入れていた。
「っあ、アァ、ん、もっと……」
 受け入れてねだれば、優しくされることも学んでいた。乱暴に突き上げてくる上級神官の動きに合わせながら、ユハはヴァリオのことを思い浮かべていた。ヴァリオはどんなふうに愛しい人を抱くのだろう。そんな相手がいるのかどうか知らないが、ユハはたとえ一晩の相手でも、ヴァリオに抱かれる相手をうらやましく思った。
 どこかで会ったことがある、懐かしいと感じたことに嘘はないが、ユハがヴァリオと以前に出会っている可能性はなかった。ユハは生まれた時から身寄りがなく、両親の顔を知らない。ユハの世界は孤児院のある寒村だけだったから、ヴァリオに出会うことはない。
 ベッドが大きくきしんだ。上級神官はユハのアナルからペニスを抜くと、満足げにユハの頬を指の背でなでた。媚びるように目を閉じ、その愛撫を受ける。上級神官が出て行った後、ユハはベッドから下りて、レース越しに外を見た。月明かりがあったが、小川のある部分だけが色濃くなっているだけで、景色を楽しむことはできない。
 テーブルの上にある果物を手に取った。ナイフで自らを傷つけられては困ると、デミアスがずいぶん前に使用人へ言いつけて、それからはナイフが必要ない、皮をむかずに食べることができる果物しかない。ユハはまだ幼くて、そこまで考えが至らなかったが、今もしナイフがあれば、その道を選んだかもしれなかった。
 赤い実を房からつまむ。口の中で噛むと、果汁があふれた。ユハのアナルからも精液が流れていく。頬をつたう涙を拭ったが、込み上げてくる嗚咽を抑えられず、ユハはそのまま座り込んで慟哭した。

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