twilight番外編8 | ナノ





twilight 番外編8

 先日、塗り直したばかりの白いガーデンフェンスに、ペチュニアの花が咲いていた。ピンクサーモンのような色合いから、真ん中だけが白いものまで、きれいに手入れされている。ルカは鉄格子の扉を閉め、玄関へ続く階段を上がる前に、裏庭へ続く道を歩いた。藤棚の下をのぞくが、いつもそこに座っているはずのチトセの姿がない。
 飲み物でも取りに行ったのか、と掃き出し窓からリビングへと入る。
「チトセ」
 帰ったことを知らせるために、彼の名前を呼んだ。返事はなかったものの、キッチンへ行くまでの間、半分開いている寝室の扉の向こうに、彼を見つけた。
 ルカは鞄を置き、かすかに笑みを浮かべる。チトセはベッドで眠っていた。呼吸に合わせて動く肩まで、薄手のタオルをかけてやる。
 最近、疲れが溜まるとこぼしていた。本人は年齢のせいだと苦笑いをしていたが、顔色はあまりよくない。ルカはそっと頬をなで、部屋着へと着替える。そろそろ定期健診の時期であり、今回は付き添うことを考えた。
 ベッドの端へ座り、靴下を脱ぐ。シュヴィーツに来て、八年が経った。もし、チトセと生きていく選択をしなければ、ルカはヴェスタライヒの特殊部隊に留まっていたと思う。戦争がなくても、軍人というのはある程度、尊敬される職業だった。現職の上司や同僚にも、なぜ辞めたのかと聞かれることも多い。
「ん……ルカ?」
 肩を揺らしたチトセが回転して、こちらへ転がってくる。ルカは自然と笑みを浮かべて、ベッドへ手をつき、彼の頬へキスをした。
「調子はどうだ?」
「……いいよ」
 一瞬だけだが、チトセの視線がさまよう。焦点を合わせるのに、右目の反応が遅れていた。ルカは親指で優しく、彼の頬へ触れる。
「何?」
 チトセの問いかけに、ルカは何でもない、と首を横に振った。自慢できる特技ではないものの、ルカは人の行動を観察することに慣れている。食事の準備を始めたチトセを見て、疑問は確信へと変わった。
「チトセ」
 驚かせないように、彼の左隣に立ち、彼の手から包丁を取り上げる。
「何?」
 イモの皮をむいていた彼の仕事をそのまま引き継いだ。
「俺がするから、おまえは座ってろ」
「ありがとう」
 かすかに首を傾げていたが、チトセは素直に礼を言い、椅子へ腰かけた。シンクへ落ちている皮とごつごつとしたイモを見て、ルカは振り返る。
 チトセはテーブルの上にあった雑誌を手に取り、黙読していた。ルカは手早くビーフシチューを作り、食事の最中に、一緒に風呂へ入ろうと誘った。少し頬を染めた彼は、小さく頷く。

 去年、買い替えたバスタブは二人で入っても余裕の大きさだ。チトセの好きなラベンダーの香りがするバスオイルを垂らし、彼のことを呼んだ。裸になった彼の右側に回る。途端に、彼は大きく体をひねり、こちらを見上げた。
「何?」
 ルカは頭の上にキスを落とし、チトセの右半身へ視線を移す。ところどころにある小さな青アザを確認して、「いつからだ?」と尋ね返した。
「何の話?」
 チトセは意味が分からないという表情で、「先に入るよ」とバスタブへ片足を入れた。
「いい香り」
 ほほ笑んだチトセはヘアゴムを取り、少し高めの位置で髪を結び直す。
「ルカ」
 ルカはチトセのことをうしろから抱き締めるようにして、バスタブの中へ入る。熱めの湯が、心地良い。


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