twilight番外編7 | ナノ





twilight 番外編7

 不意に動いた気配に目を開けると、チトセが毛布をかけてくれるところだった。いつの間にか、眠っていたらしい。彼は気づかずに、寝室を出ていく。ルカはすぐに戻ってくるだろうと思い、目を閉じたが、彼はなかなか戻ってこない。 
 ベッドから下りて、明かりのついているキッチンへ向かう。こちらを振り返ったチトセが、腕で顔を拭い、笑みを浮かべた。目元が赤い。ルカは近づき、彼の頬へ触れる。
「明日は昼も一緒に食べるか?」
 会社まではバスで三十分の距離だが、チトセも同じ地区で働いているため、時おり、昼食を一緒に食べている。大丈夫か、どうした、という言葉では、チトセを救えない。ルカはこういう時、いつも明日の話をした。
 チトセは軽く頷き、胸に顔を埋めるように抱き締めてくる。互いに両親からの愛情というものを知らない。ルカはもう求めることに疲れ、手に入らないものを待ち望むのはやめていた。自分の手にできるものだけで進むのが人生だと悟ったからだ。
 だが、チトセがそれを理解できるまで、まだ時間がかかるだろう。彼はいい意味でも悪い意味でも健気だ。いまだに罪の意識を持ち、父親から認められることを望んでいる。いじらしさは同時に、愛しさへと変わった。
 チトセは母親の呪縛から逃れられなかった頃の自分だ。ひたむきに耐え、その先には幸せが待っていると信じている。今あるものだけで幸せになることができるのだと、ルカに現実を見せたのは、施設にいた職員達だった。
 だが、チトセに同じように、現実を何度も直視させようとは思わない。チトセも十代の子どもではない。そんなことは理解しているだろう。ただ、気持ちがついていかないだけだ。
「明日も二十時上がりか?」
 頷くチトセの額へキスを落とし、「なら、店で待ってるから、一緒に帰ろう」と言葉にする。週三日、レストランで働くチトセは、たいてい昼頃から二十時頃までの勤務だ。時おり、彼の働くレストランのカウンター席で、彼が上がるまで待っていた。
 ベッドへ寝かせたチトセの髪をすき、うしろから抱き締める。頬に触れると、指が濡れた。あの時のように、厳しく明確に、求めるのはもうやめろとは言わない。彼のうなじへキスをしながら、握った指先をゆっくりなで続けた。
「ルカ」
 小さな声に手をとめる。だが、その先の言葉はなく、ルカは目を閉じた。チトセの体が動き、目を開けると、彼は体をこちらへ向けていた。黒い瞳を伏せ、彼の手が股間をまさぐる。
 チトセと同じく、ルカ自身、性行為はあまり好きではなかった。籍を入れた今でも、行為におよぶのは記念日や誕生日だけだ。そういう気分ではなくても、愛しいと思い、人生をともにすると決めた相手から愛撫を受ければ、ルカの中心は熱を帯びる。
 ルカは手を伸ばして、チトセの手をつかんだ。チトセを抱く時、ルカは支配する側の人間になる。チトセに強く言わないのは、自分自身、まだ折り合いをつけていない部分があるからだ。
「明日はにわか雨だ。厨房から空は見えるか?」
 頷くチトセの額へ口づける。
「晴れ間が見えたら、空を見ろ。虹が出るかもしれない」
 おまえと一緒に生きる約束をしたのは俺だから、俺と生きる未来だけを考えていろ、とルカは言葉にして言うことができない。愛してる、という大切な言葉すら、母親や男達が安易に口にしているのを聞いたせいか、簡単には出てこない。
 だから、ルカは明日の話をする。起きてしまった昨日までの出来事は変えられないが、明日のことは希望を持って話せる。
 チトセの手が左胸へ触れた。彼はまるで鼓動を聞くかのように、顔を横にして耳を当ててくる。
 二人で重ねていく日々が、いつかチトセの闇の中に光を灯せればいい。ルカは彼の手を握り、大きな腕で抱き込んだ。


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