ゆらゆら14 | ナノ





ゆらゆら14

 母親の経営するジュエリーショップへ出向いたのは、十五時を過ぎてからだった。携帯電話の電源は落としたまま、事前連絡もなしに訪れたため、彼女は驚いていた。
「さっそく来てくれたのね」
 孝巳は頷き、入ってすぐの目立つ場所にある『mirai』のショーケースを見つめた。店内中央にある階段と出入口の交差する場所には、主力の商品が置かれる。『mirai』は国内のみならず、世界中のセレブリティ達からも愛されているジュエリーブランドだった。
 シンプルなデザインの指輪を見つめていると、「いらっしゃいませ」という店員の声が聞こえた。母親も、「あら、本当にお越しくださるなんて」と続ける。孝巳はショーケースから出入口へ視線を向け、そこに立つ一成に怯んだ。
「近くまで来たものですから」
 笑みを浮かべて、母親へあいさつをした一成は、孝巳の前にやって来る。
「まだ顔色が優れないね、孝巳君」
 孝巳は一成を見上げ、彼の瞳の奥にある愉悦の色に気づいた。どうして、自分を構うのか分からない。
「孝巳、体調が悪いの?」
 母親が隣に来て、そっと額へ触れてくる。
「だ、大丈夫。昨日、ちょっと気分が悪かっただけだから」
 もう帰るね、と続けた。彼女は心配そうにこちらを見つめ、その様子を見ていた一成が、親切心を丸出しにした表情で言葉を発する。
「車で来ているから、送りましょうか?」
 それは孝巳へ向けた言葉ではなく、母親への確認だった。孝巳が拒否する前に、彼女は返事をする。
「そうして頂けると助かりますわ。この子、送迎の車を使わないで、いつも公共機関を使うんですよ。一番下の子で何かと甘やかしてきたから、心配で……」
 母親の心配はありがたいものだが、今日ばかりは無用のものだった。
「あ、あの、結構です。俺、電車で帰るの、好きだし、それに、あの、茅野さん、仕事」
「できる男はどんな時でも余裕があるんだ。遠慮しないで、おいで」
 助けを求めるように母親を見ても、彼女は全幅の信頼を寄せた目で一成を見ていた。
「孝巳、携帯電話の電源、ちゃんと入れておいてね」
 見送りにかけられた言葉に嘆息し、孝巳は大通りを見渡す。走って逃げようと考えていた。一成は少し前を歩いている。道路脇に停車したままの車から、運転手が出てきて、ドアを開けた。
「乗れ」
 母親の前とは異なり、孝巳の知る一成が車内へ入るよう急かした。機会をうかがい、車内へ乗り込むように見せかけて、通りのほうへ体をひねる。だが、一成の大きな手が左腕に絡みついた。痛みに顔をしかめると、強引に押し込まれる。
 孝巳は小さく震えていた。本当に家まで送ってくれるのか、不安だった。左腕をつかんでいた手は、ゆっくりと、頬へ触れ、髪をすいていく。
「俺が怖いか?」
 窓際へ寄っていた孝巳は、強張った体を少し動かす。
「な、なんで……」
 孝巳の疑問に、一成は小さな笑みを作り、手で顎を押さえた。目を閉じる暇もなく、口づけを受ける。一成も目を開けたままだった。
「っう」
 無理やりこじ開けられた口の中に、彼の舌が入る。彼はようやく目を閉じ、孝巳の中を味わうように舌を動かした。
「っむ、ぅう」
 孝巳は一度、ぎゅっと目を閉じ、両手で一成の胸を押し返そうとした。


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