ゆらゆら9 | ナノ





ゆらゆら9

 一成がもう一度、口でくわえる。
「っ、ひ、あ」
 自ら腰を揺らした孝巳に、彼はゆっくりと舌でペニスをなめながら、口を離した。先ほどまで幸喜の姿を探すように動いていた孝巳の視線は、彼へと釘付けになる。彼の瞳へ言葉にならない感情を訴えた。
 頭では、合意ではない、という考えがめぐる。だが、体は解放を求めて、それをそのまま瞳に語らせていた。一成は軽くたっていた自身のペニスをしごき、慣れた手つきでコンドームを被せる。
 嫌だと言えるだけの理性は残っていなかった。理性に勝る、いきたいという欲望にとらわれた孝巳は、初めて幸喜以外の男性に抱かれた。
「あ、っく」
 孝巳はまるで息ができなくなったように感じた。だが、それは一瞬のことで、すぐに大きな快感の中へ沈む。それは沈むというよりは、浮上するような感覚にも似ていた。合意ではない行為なのに、痛みがないことを不思議に思った。
 望まないことだと思いながら、孝巳の体は一成の動きに合わせて、より快感を得ようと動く。幸喜との性交で、こんなに激しく深い絶頂を得たことはなかった。アルコールのせいかもしれないが、長引く快感と恍惚感に、孝巳はぎゅっと一成の背中に回した腕へ力を込める。
 一成は孝巳の肩を押さえつけ、奥をえぐるように腰を動かした。孝巳の口から漏れるのは、意味のない音だけだ。傍から見ても、強姦には見えない。
「最高だ」
 耳元に響く一成の言葉に、孝巳は目を閉じる。熱を持ったペニスが喜びに震えるのが分かった。目尻からこめかみへ、激しい行為とは打って変わり、優しいキスが寄せられる。彼は一度、ペニスを抜いた。こんな時、意識を失えたらどんなにいいだろうと考え、意識を失うほうが危ないのだと思い直す。
 孝巳はにじんだ視界にぼんやりとした照明の光を映していた。その視界がくるりと反転する。
「っん」
 うつ伏せにさせられた孝巳の腹へ、一成の手が回った。腕は力強く孝巳の体を支え、尻を突き出すような格好のまま、また犯される。
「っあ、や、う……やめ」
 一成は先ほどと同じく、孝巳の体をしっかりと固定して、深く大きく突いてくる。感じてはいけないと思えば思うほど、孝巳のペニスはたち上がり、解放に向かってひくひくとうごめいた。

 何度目か分からない絶頂の後、孝巳は、指先で畳の目に触れた。ふわふわとした心地からしだいに体が重くなり、目を閉じる。自分の精液だろうか、畳の目に触れた指先はぬるぬるとしていた。
 ぜんぶ夢だと思う。一成と『なごみ』で食事した後、自分で考えるよりも酩酊していたから、こんな淫らな夢を見たのだろう。夢と同じように、指先で畳の目に触れた。柔らかな感触に目を開ける。
「……あ」
 孝巳はベッドで眠っていた。見渡さなくとも、ベッドの沈み具合やシーツの感触で、ここが自分の部屋だと分かる。
「なんだ、やっぱり」
 夢だった。
 長く深い息を吐き、安堵しながら、孝巳はベッドから廊下へ向かう。日の高さを見る限り、すでに昼は過ぎていると思われた。
「だるい」
 孝巳は体のだるさとかすかな頭痛に苦しみ、何とか階段を降りて、広間へと向かった。座椅子に体を沈め、丸テーブルの上にあった水差しから、グラスへ水を注ぐ。
「孝巳、やっと起きたのね!」
 母親の声に顔をしかめ、孝巳は水を一口飲んで振り返る。


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