vanish 番外編4 | ナノ





vanish番外編4

 シャワーを浴びた修の傷を手当てしてやると、彼は軽く礼を言った。タカは冷蔵庫の中を物色しながら、タバコを吸う。煙たいと思い、修を見ると、彼もタバコを吸っていた。
「勝手に吸うな」
 タカはそう言ったものの、実際にはタバコなんてどうでもよかった。それは修も分かっているようで、彼はのんきな声で空腹を訴える。
「あー、うっさいなぁ。だいたい、来るなら、手土産くらい持ってきて当然だろ?」
 あまり料理は得意ではない。とりあえず冷蔵庫からハムとタマゴを取り出した。白飯ならあるから、チャーハン程度ならできるかもしれない。
「持ってきたじゃん!」
 煙を吐き出した修がタカの体へ擦り寄る。
「何を?」
 修は右手に持ったタバコをタカの体から離した。それから、満面の笑みで答える。
「俺。生身の俺。風呂上がりの俺」
 修の左手がタカの股間へ伸びてくる。
「ごはんくれたら、お礼にこれ食べてあげる」
 タカはもう溜息しか出てこなかった。

 おいしいとは言えないチャーハンを食べた後、タカはシャワーを浴びた。奥の部屋ではもう修が寝息を立てている。二年近く音信不通だったが、こうして戻ってきたのは、頼れる人間が他にいなかったからだろう。
 あれからどうしていたのか気になる。修は出会った時からふらふらしていて、誰かが手を取ってやらないと危ないタイプだった。楽観主義で刹那主義の修は、当然、快楽主義でもあり、タカと関係を持った後でも要司や仲間達をベッドに誘っていた。放っておけばいいのに、扱いを知らない若い連中が絡むと、すぐに手を出してけんかを始める始末だった。
 面白いけど、破天荒過ぎる、というのが要司の意見であり、彼は修の面倒はおまえが見ろと言った。嫌だとは言えなかった。遊びと言いきれないほど体の関係を持っていたし、この面倒なタイプこそタカの好みだからだ。修を追い出したものの、特定の恋人を作らなかった理由はそこにある。
「あー」
 タカはがっくりと肩と落とす。今すぐ修を起こして色々と聞き出したいという衝動を抑えて、布団の中へと入った。

 気持ちのいい夢を見ていた。慎也が見せたキスの後の切ない表情を思い出すと、なぜかぐっとくる。だが、心に込み上げるものではなくて、中心へ迫ってくるものだ。
「っん」
 自分で処理しようと夢うつつの状態でペニスへ手を伸ばすと、その手を振り払われた。驚いて目を開くと、自分の股間に顔を埋めている修がいた。
「っしゅう、てめぇ……っ」
 怒りの声は半分、甘い響きを帯びた。褒めるべきところか分からないが、修はちゃんとタカの性感帯を心得ている。我慢できずに吐精すると、彼はすべて口の中へ含み、リビングからティッシュ箱を取ってきて、中身を吐き出した。
「朝いちのは生臭さがきついような?」
 独り言のように言った後、修は笑い始めた。
「でも、タカの場合はごぶさただっただけっぽい。シンヤ君はどうしたの? 口でしてくれない?」
 修をよく知らないと、すぐに彼を嫌いになるだろう。だが、タカは彼が口でした理由も、慎也にこだわる理由も分かっていた。
「修、そこに座れ」
 タカは自分もあぐらをかいて座り、修を真正面から見た。大人しく座っていられないのか、上半身ごと、きょろきょろと部屋を見回している。
「まず一つ目。体を担保にしてここにいようと思わなくていい。行くとこないんだろ? 昔のことはとりあえず水に流してやるから、いたいならここにいていい。それから二つ目。慎也は要司の友達。今、音信不通。おまえが勘ぐるような関係じゃなかった」
 面食らった顔をしている修の額を、タカは軽く押した。

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