vanish 番外編3 | ナノ





vanish番外編3

 玄関扉の前にうずくまっている青年を見た時、タカは慎也だと思ってエレベーター前からそこまで駆けていった。慎也と連絡がつかなくなり、ずいぶん経っていた。
 フード付きのパーカーを着て、目深にフードまで被っている彼は、よく見ると傷んだ髪をブラウンに染めていた。
「慎也?」
 疑問形になったのは、彼が髪を染めるようなタイプではなかったからだ。のぞき込むように、タカがしゃがむと、フードを被った彼はいきなり拳を突き出してきた。
「ぅわ、あっぶね」
 寸前で避けたものの、尻もちをついてしまい、手に持っていたヘルメットが転がる。タカは突き出された拳の人差し指にはまっている指輪を見て溜息をついた。
「修(シュウ)」
 彼の拳はけんかでもしたのか、拳割れを起こしている。タカは扉をふさいでいる彼を軽く足でつついた。
「立て」
 行動や言動は冷たいかもしれないが、二人が別れることになった事情を知れば、皆、タカの味方になってくれる。
 修はタカの元彼だ。タカが仕事へ出ている間に、修が男を連れ込んだ。自分の部屋の布団の上で抱き合う二人を見た時、タカは意外にも冷静だった。修と男を追い出した後から、修とは連絡を絶っていた。
「シンヤって誰?」
 うつむいたまま話す修の声はいらついている。そういうことが分かってしまう自分が嫌だった。
「関係ないだろ」
 鍵を開けて中へ入ろうとすると、修が手を伸ばして、タカの服をつかむ。蛍光灯に照らされた彼の手は白く細い。そして、血がついていた。
 タカは自分の性格が時々、嫌になる。小さく長い溜息の後、うつむいている修のあごをつかんだ。フードを払い、明かりの下に彼の顔をさらす。
「馬鹿」
 左のまぶたが腫れ、くちびるの端が切れている。ブラウンの髪は毛先にいくほど明るい色になり、髪の傷み具合がはっきりと分かった。
「ヘルメット、持ってきて」
 修がヘルメットを拾い上げる。タカはまず彼を中へ入れた。彼の浮気が原因で別れた。だが、こうして頼られると、タカはその手を振り払えない。手のかかるタイプほど、タカはより深い情をかけた。だから、修のしたことはたとえ一回だけでも十分な裏切りだった。
「ルリちゃんに聞いた。最近、そのシンヤって子に夢中なんだって? ルリちゃん、捨てられたって笑ってたよ」
 いつもの場所にヘルメットを置いた修が、救急箱を取り出してきた。修にも呆れるが、自分にも呆れる。彼を追い出してから、物の位置を変えていない。
「ルリとは付き合ってねぇ」
「エッチしたくせに」
 タカは冷蔵庫から缶ビールを取り出した。飲まないとやってられない。服を脱ぎ始めた修が愛嬌のある笑みを見せた。一見して、望まない体の関係を強いられたと分かる痣や擦り傷がある。
「スポーツってことで合意済だ」
 修はタカの言葉にけらけらと笑うと、シャワーを借りると言って、目の前を通り過ぎた。半分ほど残っている缶ビールを飲み干すと、タカは新しい缶ビールを取り出す。
 今さら、と思った。だが、修はあの指輪をまだ身につけている。あれは、タカが彼に贈ったものだ。未練たらしい。プルタブを開けてビールを飲む。
 三本目を空きっ腹へ流し込んだ時、明日が土曜だと気づいてうんざりした。丸二日、修はここへ居座る気だ。舌打ちして、時計を見ると、すでに三十分以上経っている。昔から長風呂する奴だったと思う半面、まさか倒れているんじゃないかと心配になった。
 風呂場へ行くとちょうど湯上がりの体をバスタオルで拭いている修がいた。
「タカ、相変わらず気が早いね。そっちもまだ早いの?」
 修がにやっと笑って視線で示したのは、股間だった。タカは修を家に入れたのは間違いだったと軽く頭を押さえた。

番外編4

vanish top

main
top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -