ゆらゆら2 | ナノ





ゆらゆら2

 孝巳が幸喜と付き合い始めたのは、三年ほど前だ。幸喜のことはもちろん、兄達の友人として、幼い頃から知っていた。向こうも弟のように見てくれていたと思う。それ以上の関係を見出したのは、孝巳が高等部に進学してからだ。
 三人目は女の子が欲しかったらしい両親は、孝巳を娘のように大切に育てた。兄達も歳が離れていることもあり、とても甘い。足りないものなどなく、いつも満たされている生活の中で、孝巳は純粋さを失わずに成長してきた。
 その生活に彩りをもたらしたのが、幸喜だ。好きだという気持ちに気づいてから、孝巳は幸喜が遊びに来るたび、彼を見上げ、話かけた。
「っん」
 夏休みに兄達と幸喜で別荘へ遊びに行った。夜、二人きりになった時、どちらからともなくキスしたのが始まりだ。今みたいに、ゆっくりとくちびるを合わせ、ベッドへ押し倒された。
 幸喜のくちびるが、首から胸のほうへ下りていく。足の間から指先まで、甘い痺れが抜けていくような快感を覚えた。何も知らない体に、快楽を教えてくれたのは幸喜だ。彼とつながっていると思うと、それだけで嬉しい。
「っあ、こ、こう、き」
 背中に回していた手に力が入る。幸喜の手が孝巳のペニスを擦り上げた。声を漏らしながら、絶頂の前のくすぐったいような、かすかに痛いような感覚に目を閉じる。少し息を乱した幸喜が、ベッドのスプリングを揺らし、隣へ寝転んだ。孝巳は、彼の肩へ口づける。
 幸喜は腕を額へ当て、乱れた呼吸を整えていた。彼の汗ばんだ体を指先でなでていた孝巳は、ベッドから下り、キッチンへ向かう。大学を出てから、彼は一人で暮らし始めた。中心地に近いタワーマンションの高層階からは、街の明かりが星の海のように見渡せる。
 冷蔵庫を開けて、ペットボトルのミネラルウォーターを持ち、寝室へ戻る。脱ぎ散らかした衣服を避けて、ベッドに座り、幸喜の頬に冷たいペットボトルを当てた。
「つめたっ」
 上半身を起こした幸喜は、笑いながら、礼を言い、ミネラルウォーターを飲む。上下に動く喉を見つめ、孝巳はあらわになっている彼のペニスへ触れた。ナイトチェストへペットボトルを置いた彼が、孝巳の手を取り、もう一度、押し倒す。
「明日も会える?」
 孝巳の問いかけに、幸喜は一瞬、手をとめ、それから、キスを再開した。
「スペアキーを渡すよ。好きな時に来たらいい」
 孝巳が歯を見せて笑うと、幸喜の舌が口内を犯した。彼との仲は家族中が知っている。まだ希望でしかない、同棲したいという思いを伝えられる日は、そう遠くない気がした。

 クロワッサン二つとヨーグルトが用意されたテーブルを横目に、孝巳はバスルームへと向かう。幸喜はすでに仕事へ出ていた。バスルームの洗面台にある大きな鏡に自分を映し、伸びてきた髪をつかむ。
 兄達と同じ美容室へ行き、すべて任せている。大学へ入ってからは明るい色に染めていたが、今は暗めのブラウンにしていた。それでも、時間が経てば、色が抜けてしまって、明るく感じる。
 横に流している前髪以外はパーマがかかっており、孝巳は乾かした後、幸喜の使用しているワックスを借りて、髪を整えた。ついでに香水も借りる。さすがに衣服はサイズが違い過ぎるため、クローゼットへ置いてある自分の衣服を取り出した。
 選べるほど多くは置いていない。ジーンズにグリーンのシャツを着て、ジャケットは椅子へかけた。
 遅めの朝食を済ませ、携帯電話を確認する。友人からいくつかのメールが届いていた。卒業論文に追われている友人の一人が、資料集めに手を貸して欲しいと送ってきている。孝巳は悪いとは思ったが、笑ってしまった。今の時期から資料集めなんて、そうとう厳しい。
 孝巳は食器をキッチンまで運び、ジャケットを持って外へ出た。日に日に涼しくなっていく空気を感じながら、最寄り駅まで歩き出す。途中、長兄である俊彦(トシヒコ)からメールがあった。幸喜のところにいるのか、という問いかけに、今から大学に行く、と返した。


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