vanish それから2 | ナノ





vanish それから2

 ハロゲンヒーターの電源を入れてから、どうして笑ったのかと視線で問うと、要司は首をかすかに振った。
「いや、それ買う時、おまえ最後までいらないって言い張ったなぁって思い出して」
 そういえばそんなこともあった、と慎也は思い出す。店でもまだいらないと繰り返した慎也に、靴下脱がせるぞ、と脅しをかけた要司が購入した。
 オーブンレンジは自分で買ったが、これを買う時も大騒ぎした。要司はビルトインにすればいいと言い出して、ついでにIHに取り換えようと大家さんにまで許可を取り、事務所の詳しい先輩にまで相談していた。費用は自分が出してもいいとまで言った要司に、慎也は現物を買ってくることでその計画を潰した。
 要司の顔をたてなかったことはよくないことだと分かっている。要司は慎也の行動力に驚いて笑っただけだ。後になって、タカと修から話を聞いた。要司はクリスマスプレゼントにしようと思っていたらしい。そんな豪華なプレゼントは考えられないし、受け取れない。だが、要司は慎也が楽しそうに料理するのを見て、夢中になることができるものなら、と台所改造に乗り出そうとしていたようだ。
 それを聞いて慎也は申し訳ない気持ちになり、謝ろうと思ったが、謝ればまた要司の気持ちを壊すことになるかもしれないと不安になり何も言わずいた。時々、自分は要司には釣り合っていないと考えることがある。要司は慎也に了承を得てから、この家に彼の友達や知り合いを呼ぶことがあるが、紹介する時、彼はいつも、「俺の彼氏」と慎也の名前の前につけた。初めて聞いた時、慎也は紹介された人間以上にとまどった。だが、要司があまりにも普通に言うので、皆、一瞬間は空くものの、すぐにあいさつをしてくれた。
 慎也はそんなふうに、要司のことをアルバイト先の人間に紹介できない。そのことを話すと、要司は吹き出していた。
「慎也って本当に真面目だなぁ。俺が周りの連中に紹介したからって、同じように俺を紹介しろなんて思わねぇよ。俺がおまえに一万円使ったからって、おまえも俺に一万円使わないといけないってことは絶対ないだろ? それと同じ。気持ちの表し方なんて人それぞれってこと」
 自分みたいな人間が要司から好かれていることは、奇跡みたいだと思った。要司の言葉はいつだって力強くて、優しい。きっと別れたいと言われても、離れられないくらい、彼のことを好きになっていた。
「慎也?」
 ピザを食べ終わった要司がグラスに残ったビールを飲み干した後、話しかけてくる。食べながら、昔のことを思い出して、ぼんやりしていたらしい。慎也はこたつから出て、立ち上がる。
「ビール、おかわりですか?」
「あ、うん。じゃ、もう一缶だけ」
 引き戸を開けて台所へ行き、冷蔵庫から缶ビールを取り出して居間へ戻る。
「そうだ、要司さん。これ、見てください」
 慎也は携帯電話を操作して、タカが撮った写真を見せた。
「お、写真? これ、タカが撮ったのか?」
「そうみたいです」
 要司は笑いながら、ボタンを押していく。
「海、懐かしいな。あ、この花見の時、珍しく三上が酔い潰れてたよな」
 二人で携帯電話のディスプレイをのぞき込んで、写真を見ていると、不意に視線が絡んだ。要司が頬にキスをくれた後、目を閉じてくちびるへもキスをしかけてくる。慎也はそれを受け入れながら、今夜はできるかもしれないと思った。ビール味の苦いくちづけを受けながら、慎也は要司の手を握る。
「要司さん……」
「ん?」
 優しくほほ笑まれて、慎也もほほ笑みを返す。笑みを浮かべて、言葉の代わりに自ら要司へキスをした。

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