vanish それから1 | ナノ





vanish それから1

 慎也はテーブルの上に置いてあった携帯電話に手を伸ばした。台所にいた時には気づかなかったが、メールが来ている。水曜定休のカフェでキッチンスタッフとして働き始めて、もうすぐ三年になる。
 要司から帰宅時間をメールで知らされた。今日は教えて欲しいと先に言っていたからだ。去年、購入したオーブンレンジでピザを焼くため、要司の正確な帰宅時間が知りたかった。
 ピザはもう何度も焼いている。今日はベーコンとポテトのピザだ。生地もカフェで教えてもらった方法で作っている。
 テレビをつけて夕方のニュース番組を聞きながら、慎也は携帯の中に保存してある写真を眺めた。要司と暮らし始めて三年が経とうとしている。春はタカ達と花見に行き、夏は海へ行った。秋は紅葉狩りに出かけて、冬は鍋パーティーをしている。毎年、似たようなことばかりだったが、携帯の中にはたくさんの写真が思い出とともに保存されていた。
 最近、要司の髪をリタッチした時の写真まである。慎也の手も写っているから、おそらくタカが撮ったんだろう。慎也とタカの恋人である修(シュウ)が一緒に台所に立っているところや、慎也と要司が何か話しているところが写っていた。慎也は写真を見て笑った。他にも何枚か慎也の知らない写真があった。
 タカからこっそり言われたことがある。要司は今まで同性から誘われても必ず誘いを断っていた。だが、今は慎也と付き合っている。それだけ彼は慎也に本気なんだ、というような内容だった。
 要司が本気でいることは確信を持てる。彼はこの三年、慎也に負担をかけるようなことは一切せず、言葉にも出さなかった。普通、付き合っていれば、不満が出てもおかしくない。しかも、慎也はキスしかできない。恋人としては不出来だと言われても仕方なかった。不満があっても当然だと慎也自身すら考えているのに、要司はいつも満足げに笑っていた。
 回数は減っているが、慎也がうなされれば、そっと抱き締めてくれるし、泣いていると、どうしたのかと聞いてくれる。
 大丈夫、という言葉に半信半疑だった慎也も、長い間、要司のその言葉を聞いていると、本当に大丈夫だと信じられるようになってきた。自分が考えるほどに、恐ろしいことは起きず、要司はいつだって自分の味方だと思えるようになった。

 時計を見た慎也はオーブンレンジを温め始める。要司が帰ってきたら、彼がシャワーを浴びている間にピザを焼く。しばらくすると、原付バイクの音が聞こえてきた。勝手口のほうから要司が入ってくる。
「ただいま」
「おかえりなさい」
 道具を持っている時や塗料による汚れがひどい時、要司は勝手口から入ってくる。
「風呂、行くな」
「はい」
 セメントか何か分からなかったが、白いしぶきがニッカポッカに飛んでいる。
「具、何?」
「ベーコンとポテトです」
 勝手口で下着一枚になった要司は、寒いと言いながら、浴室まで駆けていく。肌を目にするのは始めてではないが、要司の上半身はよく焼けていた。細身なのに筋肉もしっかりついていて、ただ細いだけの慎也は羨ましいと思ってしまう。
 要司がシャワーを浴びている間、ピザをオーブンレンジへ入れてから、彼の汚れた服を洗面台へ置いた。汚れがひどい時は、洗濯機へ入れる前につけておくようにしている。ピザを気にしながら、二階へ上がり、要司の着替えを用意しておいた。
 シャワーを浴び終わった要司が、礼を言いながら、着替えてこたつの中へ入る。まだ電気カーペットの電源しか入れていない。台所のハロゲンヒーターを持ち上げて、居間へ置くと、要司が笑った。

そのあと4 それから2

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