on your mark番外編44
史人の指先が前をくつろげていく。
「浮気してないかな?」
彼の言葉に今度は敦士が笑う番だ。
「するわけないだろう」
敦士も史人の衣服を脱がせ、肩へ鼻を押し付けるようにして、ソファへと押し倒す。衣服を着ている時は線が細く見える史人だが、水泳で鍛えた体は決して華奢ではない。何度もキスを落とし、彼のペニスへ直接、手を伸ばした。すでに硬くなったそこは、敦士が軽く握るだけで先端から先走りを垂れ流す状態だ。
「きついか?」
「うん」
俺も、と言葉を返し、敦士は擦り合わせるようにして、一度、精を吐き出す。ソファを汚しても怒る人間はいないが、久しぶりに史人を堪能したいと思い、彼を横抱きにする。
「っわ、ベッド行く?」
「あぁ、もちろん」
ゆっくりとベッドへ下ろした後、潤滑ジェルを取り出す。早く中に入れて感じたい。敦士は焦る気持ちを抑えて、史人の背中を指先でなでた。くすぐったそうに肩を揺らす彼のアナルの中が締まる。
「もういいよ、来て」
史人はそう言って、振り返るが、敦士は、「まだだ」と返す。
「明日、辛い思いするのはおまえのほうだぞ」
三本目の指を入れて、中を解すと、史人は枕へ頬を押しつけて、深く息を吐いた。あまり時間をかけ過ぎてもいけないことは学んだ。前戯に時間を割くと、いきなり寝息が聞こえてくることもあるからだ。
「もういいって、早く」
中指の先にある前立腺への刺激で、史人のペニスは大きくたち上がっていた。敦士はようやく指を抜き、彼の中へ己を沈めていく。うしろから覆い被さるようにして、彼の手に自分の手を重ねた。
「あーくん、動いていいよ」
目を閉じて、史人の熱を感じていると、じらさないで欲しいとこちらを見返す彼の視線と交じり合う。敦士は彼の腰をつかみ、体を引いた後、突くように動いた。
「っ」
史人の嬌声を聞くのも久しぶりだ。それだけで敦士はいきそうになる。いく、と最初に言ったのは史人だった。かすかに震えた彼は背をそらす。敦士も我慢できずにそのまま射精したが、すぐに彼の体を回転させ、今度は向き合う形で抱き合った。
まだ疲れているかも知れず、悪いとは思ったものの、間を空けると寝てしまうと考えたからだ。目を閉じている彼の首から胸元にかけて、キスをしながら、敦士は彼を感じた。
二度目の射精の後は、史人の隣へ寝転び、そっと抱き寄せる。大きく呼吸していた彼に、「あや?」と呼びかけると、彼は目を開けて、笑みを見せてくれた。
「木曜はデートしよう」
次のオフの話をされ、敦士は史人の髪を指先でいじりながら返事をする。
「あぁ。行きたいところ、あるのか?」
足元まで下がっていた毛布を引き上げ、史人の胸のあたりまでかけてやる。
「特にないけど、二人でぶらぶらしたい」
頬にキスをして、右足を史人の足へ絡めた。彼はこちらへ頭を寄せ、眠る体勢になる。毛布越しに軽く背中をなで、三分と経たないうちに眠り始めた彼の髪へ顔を埋める。
昔、遼も同じようなことをしていた。眠っている直広を抱き寄せて、彼の頭や肩へ自分の顔を近づけて、じっとしていた。遼は見られていると分かると、照れ笑いを浮かべて目を閉じていた。
明日も史人は命を救いに行く。敦士は最善を尽くして救った命に涙する彼や、ままならない結果に怒り、泣いたりする彼が、ただ深く安らかに休息できる場所でありたいと願っている。
敦士は目を閉じて、小さく聞こえる寝息と頬で感じる体温にほほ笑んだ。 |