on your mark番外編43 | ナノ





on your mark番外編43

 呼び出しがないまま、十九時になり、敦士は史人を起こすため、扉をノックした。彼の眠りの深さにはいくつかのパターンがある。今日のように夜勤明け、呼び出しがなさそうで、少なくとも明日の夕方まで休みの場合は、いちばん深い眠りに落ちているはずだ。
 ノック程度では起きず、敦士は中へ入り、照明をつけた。
「あや」
 もぞもぞと動いた体が丸くなる。好きなだけ眠らせてやりたいが、睡眠時間がばらつくと余計に疲れるから、と史人はいつも五時間睡眠を心がけている。
「あや」
 もう一度、呼びかけて、頭をなでると、今度は目を開けた。
「うー、五時間、経った?」
「十九時ちょっと過ぎだ」
 あくびをしながら起き上がり、ベッドの上で上半身のストレッチを始めた史人は、「お昼、食べ損ねた」と腹を押さえる。
「すぐ温める。風呂もわかしてあるぞ」
 軽いキスを頬に与え、敦士はキッチンへ戻る。冷蔵庫へ保管しておいた豚肉のしょうが焼きを取り出し、もう一度さっと炒め直した。キュウリとモヤシの酢の物を一品として加え、テーブルへ並べていく。
 寝癖ではねている髪を気にも留めず、史人は手を合わせると、さっそく手と口を動かした。敦士は史人にゆっくりと寛いで食事をして欲しくて、食べている時は必要以上に話しかけない。
 今日は五時間寝た後だから、ちゃんと覚醒しているが、帰宅してすぐに食事を希望する時などは、箸を持ったまま眠っていることもある。史人の研修先は救命救急センターにも指定されており、夜勤の時はそちらを手伝う場合もあるようだ。
 もっと楽な研修先を選んで欲しかった。風呂から上がり、さっぱりした様子の史人は、ソファに寝転び、チョコレート菓子の袋を開ける。大学の時より、彼は体重を落とし、目の下にはくまがあった。
 寝転がったまま、ガラステーブルの上にあるリモコンを何とか手で取ろうとする史人を笑い、敦士はリモコンを手渡す。
「ありがと」
 史人は礼を言い、テーブルに置いてある戸建てのカタログへ視線をやった。
「決めた?」
 遼と直広からのすすめで、戸建て住宅の購入を検討していた。正直、ここは育った家であり、離れがたいと思う。だが、このタワーマンションも老朽化しており、史人が趣味と息抜きを兼ねて泳ぎに行っていたプールも閉鎖されてしまった。
 史人も離れがたい気持ちを持っているようで、乗り気ではなかったし、彼の場合、寝返りしても落ちないベッドさえあればどこでもいい、とカタログすら見ない。
「そんな簡単に決められないな」
 史人の足元へ座り、敦士は彼のふくらはぎをつかんだ。そのまま優しくマッサージを始めると、彼は気持ちよさそうに目を閉じる。
「……パパ達の別荘はすごいけど、白が強すぎるよ」
 研修医になる前に二人で遼達を訪ねて、プーケットへ飛んだ。長期間の休みは、あの時以降、取っていない。仮に取っても、史人は呼び出しに応じられる範囲にいなければならない。そのため、毎年、遼達のほうがこちらへ帰省していた。
「あーくん」
 思い返してみると、あれだけセックスに没頭できたのはあの時までだ。白い壁と同じく白いシーツに映えた史人の肌を思い、敦士は溜息をつく。少し硬いふくらはぎを揉んでいた手をゆっくりと上へ滑らせた。
「あーくん、手の動きがいかがわしい」
「え、あ、あぁ、ごめん」
 ハーフパンツの裾から太股をなでていた手を引く。
「それと、すねに当たってる」
 史人は体をひねらせ、敦士の股間へ視線を投げた。ソファの上に座り、そのまま敦士へまたがるように移動した史人は、両肩へ手を置く。そして、誘うように首を少し傾けた。
「何日してない?」
 敦士は史人の腰へ触れながら、苦笑する。
「十六日目だ。でも、精神的には三年くらいしてない気がする」
 史人の首をなめ、耳元でそうささやくと、彼は声を立てて笑った。

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