on your mark番外編41 | ナノ





on your mark番外編41

 遼はどうしても切り離したいと考えているようだが、敦士は仁和会や市村組と距離を置く気はなかった。彼がこれまで担っていた香港の組織との取引は、今後、敦士の会社が引き継いでいく。
 史人にとって暮らしやすい環境を整えるには、在宅の仕事がちょうどいい。携帯電話とパソコンさえあれば、場所を選ばない。
「組織と関わって欲しくないと言っただろう?」
 遼がこめかみを押さえながら、言葉を続けた。
「おまえがやろうとしているのは合法の仕事だが、その利益を市村組系の組織へ流すなら、話は別だ」
「もう流してる」
「……今はまだ、俺の名前で、だ。何かあっても、罪に問われるのは仁和会の人間で、おまえは関係ない」
 敦士は遼が嫌がる理由を知っている。彼の両親は組織によって殺された。直広も、彼が仁和会のトップであるがゆえに、命を狙われた。自分と同じ苦労をさせたくはないという気持ちはよく分かる。
「卒業したら会社を立ち上げる。軽い気持ちで決めたんじゃない。大切な人を守るだけの力が欲しいんだ」
 苦悩していた遼は、もう一度、溜息をついた。どんなに拒否されたとしても、彼が受け入れるしかないことは知っている。仁和会には敦士ほど広東語に通じている人間はいない。遼が直広との約束を延ばし延ばしにしている理由の一つだ。
 香港の取引先は、遼が引退すれば、敦士がすべて引き継ぐと考えているようだ。それは敬司の口から、すでに遼の耳にも入っているだろう。
「半端な気持ちじゃないことは分かってる。ただ……」
 遼は言葉を探し、口を閉じた。血のつながった親子ではないものの、実父以上の存在である遼が考えていることは、だいたい分かる。何かあった時、そばにいないのは不安だから、この際、日本に留まろうか、とか、そんなところだ。
「史人も俺も、いつまでも子どもだろうけど、俺達は二人から、ちゃんと生きていく術を学んでる。だから、そろそろ、直パパのためだけに時間、作れよ」
 心外だ、と言いたそうな遼に、敦士は首を横に振る。遼はおそらく、彼なりに直広のために時間を作ってきたと主張したいのだろう。
「家にいる時、喉が渇いたって思う前に、グラスを置いてくれる。それってさ、直パパがいかに俺達のこと見てるかってことだろ? 朝起きてから、夜寝るまで、直パパは自分以外の人のために動いてて、そのパパが、あんなに嬉しそうに別荘の話してるのに、また数年先まで待たせる気?」
 直広のことを持ち出せば、遼が反論できないことは今までの経験上、熟知していた。遼は歯がゆそうに、顔をゆがめている。
「誰に似たんだか……」
「パパの交渉術だろ」
 立ち上がって、部屋を出る。ソファに並び、別荘の写真や情報誌を見ていた二人が、こちらを見て、笑った。
「遼パパ、俺、絶対、遊びにいくね」
 敦士がうしろを振り返ると、遼が目尻を下げ、頷いた。
「長い間、留守にしたが、元気だったか?」
「うん。あ、ピスタチオ、全部食べて、ごめん。今度、買ってくる」
 史人の隣へ座った遼は、彼のうしろから手を伸ばし、直広の髪をなでた。直広はふと視線を上げ、遼へほほ笑みかける。敦士も史人へ視線を向けたが、彼は写真を見るのに忙しいらしい。
「あや」
 小さく呼びかけると、ドライフルーツをあさる手をとめ、史人がこちらを見た。
「あーくんも食べたい? 何がいい?」
 そうじゃない、と言いたかったが、史人らしくて憎めない。敦士は向かいに座り、これからは自分がこの家族を守る番だと思った。

番外編40 番外編42(その後の二人)

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