on your mark番外編40 | ナノ





on your mark番外編40

 直広とともにショッピングモールまで出かけた敦士は、よく利用しているカフェで休憩をとった。出かける際に部屋をのぞいたが、史人はぐっすりと眠っていた。
「あやは、まだ十時くらいになる日もある?」
 フォークとスプーンを持ち、スープパスタを口へ運んだ直広の言葉に、敦士は頷く。
「実習がある日は遅いな。試験に向けての勉強もあるだろうし」
 直広の表情は史人の体を心配するように曇ったが、すぐに笑みを見せた。
「あやもあーくんも、きちんと自分の道を見つけて、すごいね。俺はそんなに勉強できるほうじゃなかったから、二人のこと、本当に誇りに思う」
 敦士は仁和会への出入りが多く、史人よりは直広の人生を知っているつもりだった。辛苦を味わってきても、自分達の前ではそれを見せず、愛情を示し、謙遜の意味を教えてくれる彼を、敦士も心から尊敬していた。
「直パパの育て方がよかったんだ」
 本心からそう言うと、直広は頬を染め、「そういうところ、遼に似たね」とはにかんだ笑みを浮かべた。ひいき目かもしれないが、彼は歳を重ねても、きれいで愛らしく、守りたくなる存在だった。遼はいまだに独占欲をひけらかすものの、それも仕方ないとさえ思える。

 家に帰ると、ソファに転がった史人がドライフルーツをかじりながら、テレビを見ていた。
「あ、おかえり」
 敦士は史人の髪をなで、その額へキスを落とす前に、手にしていた荷物をキッチンへ置いた。
「何か作ろうか?」
 ドライフルーツの瓶を抱えた史人へ、直広が尋ねる。
「いい。遼パパは?」
「少し遅くなるって連絡あったけど、もうすぐ帰ってくるんじゃないかな」
 直広はキッチンに立ち、荷物の中身を冷蔵庫へ入れていく。敦士は史人の足元へ座り、左手で彼の足をなでる。ふくらはぎを強くもむと、史人は声を出す。
「い、た、あーくんっ、もむなら優しくして」
 敦士はうつ伏せた史人のふくらはぎへ触れる。直広がローテーブルへジュースの入ったグラスを並べた。
「ありがとう」
「パパ、別荘、どうだった? 写真とかある?」
 顔を上げ、視線だけを直広へ向けた史人に、直広は笑みを浮かべる。敦士は昨夜すでに聞いており、興味はなかったが、今、手をとめれば、史人の機嫌を損ねると思い、立ち上がることはしなかった。
「ただいま」
 遼はリビングダイニングに集まっている家族を見て、いったんは笑みを見せたが、すぐに険しい顔つきになり、「敦士、ちょっと」と指を動かした。敦士は手をとめ、立ち上がる。直広が、「遼?」と呼びかけ、彼が隠そうとしている感情に不安を抱く。
「ちょっと話があるだけだ」
 遼はそう言って、寝転んでいる史人の肩へ触れた後、敦士を寝室へ入れた。事務所へ顔を出したなら、優あたりから聞いているのかもしれない。
「可愛い隠し事なら、笑って済ませるつもりだったが、笑えないな」
 キングサイズのベッドの向こうには、遼の書斎がある。書斎といっても、テーブルと椅子と小さな本棚しかないが、家に仕事を持ちかえることが少ない彼には、これだけの空間で事足りていたようだ。
「笑って済ませてもらうつもりじゃない」
 敦士の言葉に、遼は溜息をついた。
 

番外編39 番外編41

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