vanish そのあと2 | ナノ





vanish そのあと2

 昼頃になって目が覚めた要司は、下着だけ持って階段を下りた。台所と居間を隔てる引き戸を開けると、こたつへ入って、本を読んでいた慎也が顔を上げる。
「あ、おはようございます。ごはん、食べますか?」
「先、シャワー浴びてくる」
 引き戸を閉めて、浴室へ向かいながら、要司は笑みをこぼした。慎也はすっかりこたつにはまり、毎年冬になると電気カーペットとこたつの組み合わせで暖を取り、本を読んだり、テレビを見たりしている。
 金曜の夜はいつも以上に飲むからか、土曜の最初のごはんは軽いものが多い。要司は慎也の作る料理が好きだ。洋食も和食もおいしいと思う。ここへ来た頃は冷凍食品を使うこともあったが、カフェで働き出してからは、料理を作ることが楽しいのか、わりと凝ったものもよく作ってくれる。
 テーブルの上には肉じゃがとほうれん草のおひたし、アサリのみそ汁が並んでいた。白飯の入った茶碗を渡されて食事が始まる。
「いただきます」
 自分ではそんなに飲んでいないと思っているが、土曜の最初の食事があっさりしたもので正直助かっている。魚料理ではなくて肉料理が並んだのもおそらく、自分が肉好きだからだろう。
「うまい」
 食べながら言うと、慎也が嬉しそうに笑った。
「今日どっか行きたいとことかあるか?」
 休みが合えば、たいていどこかへ出かける。慎也が何か答える前に、リクライニングソファの背にかかっている上着から音が聞こえてきた。要司はみそ汁の入った椀を置いて、携帯電話を取り出す。三上からのメールだった。
「悪い、慎也。そこの引き出しの中にメモリーカード入ってるから、取ってくれる?」
 ゲームのメモリーカードがあまっていれば、取りに行くから、貸して欲しいという内容のメールだった。
「これですか?」
 ピンク色のメモリーカードを差し出した慎也に礼を言って、三上が取りに来ることを告げる。
「すぐ来るから。来たら、どっか行く?」
 残りのごはんを食べながら、要司は聞いた。
「食料品の買い出しくらいですけど、一緒に来ます?」
「行くよ、荷物持ちとして」
 慎也は自転車で通勤していて、買物に行く時も自転車を使う。二人で出かける時のために、要司も自転車を買っていた。要司は免許を持っていて、この家にはガレージもあるが、原付バイクか自転車があれば、駅までも近く、遠出することがない二人に、車はまだいらなかった。

 三上がメモリーカードを取りに来た後、二人で買い物へ出かけて、夕方にはまた家へ戻ってきた。こたつに入りながら、ゲームをしている間、慎也は夕飯の支度をしている。台所には暖房がなく、慎也はいつも気をつかって引き戸を閉めていたが、要司は半分ほど開けて、彼を見ることができるようにしていた。
「なぁ、ハロゲンヒーターっていうの、買おうか?」
 セーブした後、要司はこたつから出て、引き戸を全部開けた。
「え、別にいらないですよ?」
「だって、台所、寒いだろ?」
「ずっと台所にいるわけじゃないです」
 慎也は家賃と光熱費を半分ずつ入れてくれる。いくら稼いでいるか知らないが、時給から考えて、だいたい要司と同じくらいだろう。要司は手取りで十五万ほどもらえる。家賃は五万円だから、光熱費やその他の費用を入れても、毎月貯金することができている。要司は自分を倹約家だと思っているが、慎也はそれ以上だった。例えば、欲しいものがあっても、すぐには買わない。買う前に何ヶ月も本当に必要か考えるタイプだ。

そのあと1 そのあと3

vanish top

main
top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -