twilight30 | ナノ





twilight30

 朝食後、牛の放牧を終えたチトセは牛舎で除糞作業を開始した。きりのいいところで、一休みして、持たされているお茶を飲んでいると、反対側から作業していたサクラがやって来る。
「最近、また顔色よくないね? 大丈夫?」
 サクラの気づかいにチトセは笑みを見せ、「大丈夫です」と返事をした。
「もうすぐ二人で新しい土地に行くんだから、体調、整えないと。あ、そうだ、私の服、少し持っていって」
 ルカがどこまで話しているのか分からないが、サクラ達は軍から逃亡していることは知っている。
「シュヴィーツは軍もないし、今までの戦争の時だって、中立を守ってきたから、そこでなら、二人でゆっくり暮らせるね」
 二人で、という言葉に苦笑する。
「あいつには何の罪もないのに。サクラさん達も、こんなよくしてくれて、本当にありがとうございます」
 頭を下げると、サクラは慌てて、チトセの肩へ触れ、頭を上げさせようとした。
「何、言ってるの。友達が困ってたら、助けるのは当然でしょ。ルカは昔から正義感が強いし、あなた、とっても魅力的だから、放っておけないのよ。私だって、もし、あなたが一人でここまで来たとしても、助けを必要としているなら、絶対助けるわ」
「……俺は、罪人です」
 ワラに絡んでいる汚物へ視線を向け、チトセは自分をそれ以下の存在だと思った。
「北州にもヴェスタライヒの基地があるけど、こんな田舎まではあんまり情報が入らない。だから、あなたがどんな罪を犯した軍人なのか、知らないわ。でも、この数ヶ月、一緒に働いていれば、分かるわ」
 サクラが笑みを浮かべる。愛らしいえくぼに、チトセは思わず涙ぐんだ。人から優しくされることは少なかった。弁明しなくても、自分を正しく理解してくれる人もいる。
「寂しくなるけど、留まらないで、進むべきよ」
 チトセのことを軽く抱き締めたサクラは、首からかけていたタオルで涙を拭き、仕事へと戻っていく。あふれる涙で視界がにじんだ。

 シャワーを浴びたチトセは、夕食の準備の前に少しだけベッドへ横になった。しばらくして、髪をなでる手に気づき、甘えるように体を寄せる。夢だと分かっていた。父親なら、「みっともない」と怒るからだ。
 寒くはないが、温もりを感じると、とても安心する。薬に頼らなくても、こんなにいい夢が見られるのか、とチトセは目覚めたくない気持ちになる。その間も、手は休むことなく髪をなでていった。
「……る、ちゃん、と、する、から」
 チトセがそう伝えると、手がとまった。
「ご、ごめ、な、さ、ちゃん、と、りっぱ、に」
 手がとまったのは、自分が悪い子だからだ。チトセはもう目覚めないと、と思う反面、まだなでて欲しくて、必死に謝る。
「あ、ちゃんと、もっと」
 努力します、と続ける前に、体ごと抱き締められた。よかった、と目を覚ます。暗闇の中で、自分を抱き締めてくれる人が、父親ではないことに気づく。チトセは眠ったふりをしたまま、ルカの胸に頬を当てた。
 今だけだ。この瞬間は、自分達だけしかいない。ずっとこうしていたい。チトセは寝言の続きを装って、小さくささやいた。
「……すき」


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