twilight26 | ナノ





twilight26

 チトセにはルカの考えていることが少しも分からなかった。このまま逃走すれば、ルカも追われる身になってしまう。
「北州に友達がいる。陸奥まで飛ばすから、少し眠れ」
 そう言われても、眠るわけにはいかない。チトセはもう一度、ルカを説得しようとした。
「俺が脅したって言う。だから、今からでも基地に行こう?」
 ルカはこたえない。外の景色は単調だった。時速百キロメートルで進む車に、チトセは彼自身もとまることができなくなっているのではないかと考える。
「……今まで積み重ねてきたもの、全部、失うかもしれないんだ。引き返せ」
「眠れ」
 チトセがかすかにくちびるを噛むと、ルカは前から視線を外さずに続ける。
「おまえが一度寝たら、次に起きるまで起こさない」
 軽く噛んでいたくちびるを強く噛み締める。視界がにじんだ。ルカは自分がどんな環境にいたのか理解している。薬の力で眠ることができても、訪問者の都合で起こされ、相手をさせられた。チトセに安眠が約束されることはなかった。
「っ、く、薬は、六時間おきに、飲んでる」
「分かった」
 醜態をさらさないように、あらかじめ伝えた。ルカは、「おやすみ」と小さく言う。久しぶりに聞いた言葉だった。
「おやすみ」
 たった数時間でもいい。自分の意思で起きるまで眠ることができる。チトセにとってはぜい沢な時間だ。それを味わってから、ルカを説得してもいい。その頃には彼も考え直しているかもしれない。チトセはゆっくりと目を閉じた。

 喉の渇きで目を開けたチトセは、ベッドのきしむ音に気づき上半身を起こした。間接照明がついた部屋は、ダブルベッドと小さなクローゼット以外に何もない。チトセが少し動くだけできしむベッドから下りて、薬を探した。
 確かルカがポケットへ入れていた。だが、肝心のルカの姿はない。チトセは焦燥感を覚えながら、あるはずのない薬を見つけるために、部屋中を見て回った。窓から外を見れば、そこが国道沿いのモーテルだと分かるものの、今のチトセには状況を把握する余裕はない。
 床の上へ這いつくばり、隙間まで見つめる。握った拳が大きく震えた。早く飲まなければ、また悪夢の中へ落ちる。チトセは呼吸を荒げ、涙を流した。首のうしろが焼けるように熱い。あの時もそうだ。動けないチトセの首を押さえ、誰かが笑った。
 チトセの手が無意識に胸元を探る。彼らは拘束されたチトセを犯しながら、チトセの大切なものを奪った。
「っう、あ、か、かえっ、ぅ」
 草いきれが立ちのぼる。自分の涙と汗が混じっていく。聞こえてくる声に、チトセは耳をふさいだ。その手首をつかまれる。
「っい、や!」
 振り払うと、すぐに離れていった。
「アラタニ」
「や、やめ……」
 その場で丸まり、防御しようとする。
「チトセ!」
 頭上から聞こえた自分の名前に、チトセは声の主を見た。荷物を抱えたルカが、荷物をベッドへ置き、錠剤を押し出す。
「飲め」
 水と一緒に差し出された薬を、チトセは奪うようにして取り、一気に飲み干した。


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