twilight25 | ナノ





twilight25

 自分の存在を疎ましそうにしていたルカが、自分のために怒っている様子に、チトセは苦笑を漏らす。扉ののぞき穴から外にいた看守が、「あと五分」と告げた。
「馬鹿だな。買収したのか? 二度と来るなって言っただろう? ウェルチ大佐にばれたら、まずい。早く帰れ」
 薬が切れかけている時ではなくてよかったと、チトセは思った。ただの鎮痛剤なのに、六時間おきに飲まなければ、BETWを欲する時のような狂態を見せることになる。
 自分はここでうまくやっている。チトセが笑みを見せると、ルカは納得できないと言いたげに表情を曇らせた。チトセはここへ戻ってから伝え聞いたことを口にする。
「ヴェスタライヒは、空を飛ぶ船を発明したんだって? 輸送艦が主流の軍の中で、そんなものが出てきたら、帝国も降伏するしかなかったんだろうな。それなのに、俺は部下の命を危険にさらしてた」
 壁に手をついたチトセは、小さく息を吐く。
「……気に病まなくていい」
 ルカが視線をそらした。チトセの思った通りだ。彼は優しいから、自分を放っておけなくなっている。
「ここにいるのは俺の選択だ。それに、俺は……自害したりしない」
 自害しないと言えば、安心すると思った。チトセはうつむいてしまったルカに、背を向ける。以前は話しかけることすら億劫だった。だが、互いに思い違いをしていたらしい。それが分かっただけでも、チトセは喜びを感じた。
 外の看守がルカに出るよう促す。チトセは奥にあるシャワールームへ向かった。コンクリートがむき出しになっているシャワールームは、水しか出ないがないよりはましだった。
「アラタニ」
 呼ばれて振り返ると、ルカは鎮痛剤のシートを胸ポケットへ入れた。
「行くぞ」
 腕を引かれたが、チトセは走ることができるような体調ではない。それを察してか、ルカはチトセの腹を肩へ乗せた。扉の前にいた看守を一蹴し、ルカが駆け出す。
「え、あ、シ、シオザキっ」
 チトセには進行方向が見えないものの、追ってくる看守達は見える。銃を構える姿に、チトセはぎゅっと目を閉じた。ルカの足は速い。彼らが狙いをつける前に、特別房から一般房へ移動し、瞬く間に外へ出た。
「シオザキ!」
 後部座席へ投げ込まれ、チトセは肘をつき、上半身を起こそうとする。リアガラスに鈍い音が散った。
「防弾だが、頭は隠しておけっ」
 ルカは荒々しくハンドルを切り、車を発進させる。動悸とめまいを覚えながら、チトセはルカのうなじに流れる汗を見た。現状に頭がついていかない。彼はどうして自分を連れ出したのだろう。こんなことをすれば、もう二度と軍へ戻れないばかりか、彼も罪に問われかねない。
 狭い路地裏でルカは車を停めた。車を降りて、たむろしている若者達のほうへ向かい、しばらく話し込んだ後、彼は小走りでこちらへ戻ってくる。彼はドアを開け、チトセに上着をかけた。
「シ……」
「声を出すな。車を交換したから、移るぞ」
 ルカはチトセを抱え、古びた中古車へ移動する。煙草と酒のにおいがひどい車内だったが、ルカは窓を開けずにそのまま発進した。チトセは上着を頭から被ったまま、少しだけ外へ視線を向ける。
「北州へ行く」
 中央の一般道路から高速道路へ入る前に、ルカは金を下ろしにいった。北州と言ったのに、彼は一度、南西へ向かう進路を取る。
「シオザキ……」
 声をかけても、ルカはこちらを見ない。


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