twilight20 | ナノ





twilight20

 立ち上がったルカは、チトセの左腕へ触れた。注射針を刺された痕が残っている。
「BETWはどこから?」
 ルカは特殊部隊所属だと聞いた。帝国内では禁止されているあの錠剤が、どこから出回っているのか、突きとめたいのだろう。だが、チトセはもちろん知らなかった。
「あれは……」
「イトナミ大佐かキリタ大佐からもらったとでも言うか?」
「え?」
 ルカはチトセの左手首を強く握り締めた。
「裁判の時、薬が抜けていて、あの場で発言することを許されていたら、おまえはそう言ってたのか?」
 自分の弱さを他人のせいにするのか、と言われている。
 裁判記録の証言は、ほとんどがチトセが任されていた第三小隊の兵達のものだ。共通して挙げられていたのは、チトセに少尉としての資質がないことだった。
 下士官はチトセが無線機の発信機能が使えなくなったことや、応援部隊が来ないことを秘密にしていたと証言していた。それは後々、第一、第二小隊と合流した際に、レイズへの侵攻が馬鹿げたものではないと意識づけるためではないかとあった。
 家庭を築きたいと口にするが、そのためにはレイズで女を調達する必要があると聞いたという証言が続く。
 タカサトは見たこと、知ったことをそのまま証言していた。大佐の簡易ベッドの上で、チトセは酩酊していた。胸ポケットの裏には錠剤を隠していた。そして、チトセの記憶から抜け落ちているその後の出来事も話している。
 薬を抜くために縛りつけたのに、水と食料を持っていった兵達に薬をねだり、それを得るためなら、何でもすると言葉にしていた。それは他の証言にも出てくるが、チトセは何も思い出せない。
 大佐達の証言に合わせて、夜中に大佐のテントで性交渉を、チトセから請うていたとあった。父親のようだ、優しく抱いて欲しい、といった言葉が並び、大佐に拒まれると、自分よりも階級の低い兵に命令して、性器をくわえさせたと記録されていた。
 この戦争は勝って終わらせる、と熱弁をふるうわりに、部下への指示ミスや責任を負うような判断は大佐へ任せると言って逃げていた。
 レイズへの侵攻を扇動し、最前線にいた兵達を惑わしたのは、無能な少尉だと印象づけられる証言だ。
 カウンセラーのところで、この裁判記録を目にした時、チトセは己の犯した過ちに後悔して泣いたわけではない。真実が嘘で覆われたことが悲しかったから、泣いていた。もう誰もチトセの言葉を信じない。
 すでに勘づいていた父親が会いにきてくれない理由を、きちんと目にして知った。チトセに許されるのは、静かに粛々と、与えられた役目をこなすことだった。そして、それはチトセ自身が望むものでもある。
 前線で少尉に力が及ばない、能力不足だと思われていたなら、今こそ軍人としての責任能力を証明するべきだ。
「あれは、買ったんだ、新高明通りの裏で、新しいのが、あるって、聞いて」
 それらしい場所を言った。ルカの手が離れていく。
「……おまえみたいな奴は、父親に泣きついて無罪放免にしてもらうんだと思ってた。薬なんかに手を出したのは、重圧のせいか?」
 チトセは自分でも気づかないうちに、口元へ笑みを浮かべていた。
「皆が望むなら、ちゃんと成し遂げるよ」
 ベッドへ横になり、目を閉じる。
「アラタニ?」
 ルカの孤独と自分の孤独は同じだと思っていた。だが、光を目指し、闇の世界から脱出したルカと、光を失い、闇の世界に落ちた自分は相容れない。タカサトとルカは恋仲ではなかったが、タカサトが心細い時、彼には肩を抱いて励ましてくれる仲間がいた。望まない性行為を強いられても、彼には受け入れてくれる恋人がいた。
 毛布を頭まで被る。しばらくすると、扉が閉まる音が聞こえた。ひゅっと喉が鳴る。枕へ顔を埋めて、チトセは小さな嗚咽を漏らした。


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