twilight18 | ナノ





twilight18

 それと同時に、かつてヴェスタライヒとの戦いの中で、帝国内にいたヴェスタライヒ人やルカのような混血児達が、どんなふうに扱われてきたのかも理解できた。チトセ自身がすべての報いを受ける必要はない。だが、チトセは冷めた食事を運ばれても、おむつをわざと替えてもらえなくても、暴行を受けても、静かにその状況を受け入れた。
 その態度が余計に相手をあおる。チトセが唯一嫌がる風呂の日は、体と髪を洗った後、わざわざリハビリテーションプールまで連れていかれる。明日がその日だと思うと、眠るのが嫌になった。
 チトセをあの刑務所の特別房から出してくれたルカは、あれから姿を見せない。話しかけてこたえてくれるのは、カウンセラーだけで、そのカウンセラーから、ルカはヴェスタライヒ軍の中でも特殊部隊に属していると聞いた。
 それ以上の情報は得られなかったが、比較的優しく接してくれるカウンセラーすら信頼できない。チトセの体にあるアザを見ても、彼女はそれを見なかったことにして、チトセが抱える闇を引き出そうとするからだ。
 カーテンが薄いため、外にある照明の光がカーテン越しに入ってきている。チトセは天井を眺めながら、右腕で胸のあたりを探る仕草を見せた。そこにはもうロケットペンダントがないことを知っている。
 刑務所に入る時に没収されたのだろう。刑期を終えたら、私物は返してもらえる。だが、裁判の記録では、終身刑と記されていた。母親の顔を思い出せない。あの薬があれば、目を閉じるだけで会いにいけた。
 今は、目を閉じたら、自分の弱さに涙を流すだけだ。

 朝食の後、すぐにバスルームへ引きずられた。チトセのおむつから放たれる異臭に、二人の職員が罵声を浴びせる。
「ほら、入って」
 シャワーで体をきれいにした後、髪を洗ってもらえる。浴槽に体を入れられないのは、水が怖いからだけではない。その水が冷たいと知っているからだ。
「割り当てられた時間は決まってるの。早くして」
 肉がついてきたとはいえ、チトセの体重はやっと五十キロになったばかりで、女性職員の手で、あっけなく浴槽の中へ滑り落ちる。チトセは冷たい水の中へ、頭まで浸し、体が底についているにもかかわらず、パニックになりながら、手足をばたつかせた。
「ちょっと、髪、汚いのに、つけないで」
 髪を引っ張られて、頭をバスタブから出される。目にシャンプーが入っても、シャワーで流す時に鼻に水が入っても、せき込んでも、誰も様子を見にきたりはしない。チトセのために昨日から交換していない浴槽の水は、秋の夜の寒さまで溜め込んだようで、タオルをかけられても、着替えが終わっても、チトセの体は震えていた。
「次、プールでリハビリ」
「っい、いや」
 チトセが首を横に振る。リハビリというのは形だけで、実際には拷問だった。チトセにとっては性行為を強要されるより、恐怖を感じる。みっともない泣き方はしなかったが、まぶたが腫れるほど涙を流し、チトセはプールまで連れていかれた。
 段階を追って入るならいい。だが、彼らはチトセを足のつかない深い場所まで引きずり、溺れるさまを笑って見ているだけだ。力尽きるまで放置されて、プールへ沈めば、引き上げられ、意識を取り戻すと、また同じことを繰り返す。
「今日は足のつくところで、やらせてやる」
 理学療法士なのか、病院職員なのか分からない男が、チトセの体をプールへ引きずり込んだ。心の準備もできていないチトセは、それだけで涙を流し、「嫌だ、怖い」とつぶやく。
「顔をつける必要はない。ただ足を前に出して歩け」
 チトセは息継ぎなしで五メートルほど泳げた。だが、それは昔のことであり、今は水の中に入っているという現実だけで、水への恐怖からパニックに陥る。
 一歩も進めず、「怖い」と言い続けるチトセをプールから引き上げたのは、ルカだった。チトセは先ほどの水風呂で体を冷やしたこともあり、ぶるぶると震えていた。


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