twilight17 | ナノ





twilight17

 ヴェスタライヒ領の基地内にある病院へ移ってから、チトセは毎日中和剤を打たれた。イトナミ大佐から飲まされた錠剤は、BETWと呼ばれている覚せい剤の一種で、一度でも摂取すれば、また求めてしまう、依存度の高いものらしい。
 最低三ヶ月は中和剤を打ち、離脱症状と戦わなければならない。中和剤を打ち始めてから一ヶ月ほどは、血中の薬物濃度が下がるとすぐに離脱症状が出て、チトセは薬欲しさに泣き喚いた。
 拘束具や口枷が外されたのは、最近になってからだ。季節は十一月になり、チトセはこの頃になって、ようやく流動食ではなく、通常の食事を提供されるようになった。本来なら、このままリハビリが開始され、薬の誘惑を断ち切るためのカウンセリングが始まるが、チトセに用意されていたのは、カウンセリングだけだった。

 寒さに震えながら、チトセはベッドから両足を下ろした。個室に入れてもらえたものの、この部屋の暖房がついたことはない。薄い病院服と毛布だけでは、朝夜の寒さをしのげなくなるのは時間の問題だった。
 リハビリを受けていないチトセは、床に素足をつき、体重を乗せた後、すぐに崩れた。そのまま四つ這いになり、扉まで進む。大人用のおむつが大きく膨らんでいた。冷たく重くなっているおむつの中で、また排尿すれば、あふれることは経験済だ。そして、あふれてベッドシーツを汚すようなことがあれば、自分を担当している看護師達に暴行される。
 ここが帝国内にあるヴェスタライヒ領の基地だと知ったのは、彼らの会話からだった。注意深く聞かなくても、病院内で話されている言葉や、彼らの自分を見る目を見たら、すぐに理解できた。
 カウンセリングが始まってからは、実際に何があったのかを知ることもできた。帝国本部は再三、降伏するようにと指示を出しており、イトナミ、キリタ両大佐が説得したにもかかわらず、チトセがレイズ侵略を掲げ、自分の小隊をあおっていた、と記録に残っていた。
 小隊をまとめられず、薬へと逃げ、溺れたチトセの様子は、軍事裁判での証言により明らかにされていた。細部まで読めるよう、裁判の内容、証言、チトセ自身の拘束から刑務所への収監に至るまで、すべて帝国の言葉で書かれていた。
 兵達の証言はそのどれもが嘘だった。カウンセラーはチトセに、薬へ逃げたことを恥じ、己の弱さや罪を認めることが完全な断薬になると言った。
 涙を流しながら読む自分に、勘違いしたカウンセラーは、後悔しても遅いという言葉があるが、自分の過ちに気づけることは大切だと諭した。
 壁に手をつき、扉を引いたチトセは、外にいる監視役の兵に声をかけられる。逃げることはとうていできない。だが、チトセは囚人だった。一歩でも外へ出れば、兵が二人ついてくる。
「また漏らしたのか?」
 ヴェスタライヒ語でからかわれながら、チトセはすぐ隣にあるトイレへ入る。左右に分かれている空間は右側がバスルームになっていた。週一回、バスルームを使い、体を清潔にできるが、シャワーで済ませてきたチトセにとっては地獄だった。
 監視役の兵に見られても、恥ずかしいという気持ちは消えた。チトセは四つ這いの姿勢から、何とかひざを立てて重くなっているおむつを足元まで下ろす。便器をつかんで立ち上がり、用を済ませ、また同じおむつをはいた。
 入院した当初は骨と皮だけのような状態だったが、最近は少し肉もついた。その体を支えるためのリハビリをさせてもらえないのは、担当医を始め、看護師達に嫌われているからだった。
 髪は一度、丸坊主にされ、また伸びてきた。鏡を見ることはないものの、チトセは目の下や頬骨あたり、くちびるに痛みを感じている。体中に暴行を受けた新しい内出血ができていた。
 降伏した帝国は、ヴェスタライヒからの要求すべてを受け入れた。その一つが帝国内五州の地域への、ヴェスタライヒ軍基地の建設だった。帝国の中にいるのに、ここはまるでヴェスタライヒのようで、その中に敗戦した国の人間が囚人という身分で混ざっている。病院職員達の自分に対する扱いは、当然のことだと思った。


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