twilight12 | ナノ





twilight12

 タカサトはそのシートを見つめ、顔色を変える。
「これは……アラタニ少尉ともあろう人が、こんな……」
 チトセは簡易ベッドから起き上がることなく、目を閉じる。いつも隣に座っているだけの母親から、今度こそ抱き締めてもらえるかもしれないと思った。
「アラタニ少尉も人間だ。迷いや不安があれば、こういった薬に頼ることもあるだろう」
 キリタ大佐の言葉に、タカサトは首を横に振る。
「これは新型の麻薬です。我が国では違法です」
「アラタニ少尉の隊で、君なりに彼へ尽くしてきたと思う。彼がこんなことになってしまったのは、本当に残念だ」
 乱暴に腕をつかまれ、チトセは目を開けた。タカサトが目に涙を浮かべ、「あなたは裏切り者だ!」と叫ぶ。チトセはわけが分からず、ただ彼を見つめ返した。衛生兵らしく、チトセの目の下へ触れ、脈を取った彼は、キリタ大佐へ視線を移す。
「薬を飲ませたんですか?」
 キリタ大佐は首を横に振る。タカサトの手が、チトセの制服の胸ポケットへ触れた。内側に縫いつけてある部分を探られると、中から小さなケースが出てくる。中身は当然、白い錠剤だった。
「どれくらい飲んでいるか、分かりませんが、どこかに縛って、薬が切れても構わず、抜け切るまで放置すべきです。ただ……抜けるのかどうか、どれくらいかかるのかは、分かりません」
 タカサトの声を聞いているうちに、チトセは輸送艦すら送れない状況だったと思い出す。タカサトから頼まれていた兵を、帝国へ帰還させたい。物資不足は日に日に深刻化していく。本部からの指示はまだだろうか。
 チトセはレイズを攻めるのは得策ではないが、何らかの形で住人達と交渉できないかと考えた。
「レイズへ、行くべきだ」
 戦況が芳しくないことは分かっているのだから、ここは武器を持たずに投降する形でレイズへ入るべきだ。チトセは足りない言葉を補おうとした。だが、タカサトに肩を揺さぶられ、言葉にすることはできなかった。
「何を考えているんですか! 監視に立つ兵からは、ヴェスタライヒ軍の旗がすぐそこまで迫っていると報告があったんです。そんな時に敵の領地にこれだけの人数で攻め入るなんて、全滅しろって言うんですか?」
 チトセは自分を責めるタカサトの言葉を聞きながら、キリタ大佐を見る。彼は笑みを浮かべ、くちびるの間から舌を出し、上くちびるをゆっくりとなめた。股間をつかまれているような感覚に陥る。タカサトはチトセの体の状態にすぐ気づいた。
 呆れた表情と怒りを見せ、タカサトが額を押さえ、「最低だ」と繰り返した。彼が出ていった後、キリタ大佐がチトセの頭をなでた。
「悪役はおまえ一人で十分だろう? やるなら最後まで完璧にやりきらないと」
 話の意図が見えない。チトセは体を横たえた。気分はいいのに、体だけは疲労感が残っている。目を閉じて、母親へ会いにいく。軍人として立派に生きていると言ったら、抱き締めてもらえるだろうか。チトセは淡い期待を抱き、藤棚の下にあるベンチへ腰かけた。

 喉の渇きで目が覚めたチトセは、自分の体が動かないことに気づいた。体は縄で拘束され、木に巻きつけられている。
「っん」
 口には布を噛まされ、布の端は後頭部でしっかりと結ばれていた。木陰とはいえ、ただじっとしているだけでも汗が吹き出すような温度の中、チトセは叫ぶことも、体を動かすこともできない状態だった。
 森の中にいるということは分かるものの、人の気配がない。喉の渇きだけではなく、薬が欲しくて仕方なかった。チトセは必死に体を動かす。布に吸収されていくのは声と唾液だけではない。頬をつたう涙も布へと消えた。


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