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 慎也は要司の友達だと思い、鍵を開けた。
「どうも」
 予想通り、そこには石橋という青年と慎也より年上のはずなのに敬語を使う青年が立っていた。二人とも作業服を着ているから、昼休憩を抜けてきたんだと分かる。
「こんにちは」
 慎也は軽く会釈して、中へ上がるよう促した。要司がいないことは二人とも知っているはずだから、何か自分に用があるんだろうと思った。お茶を出して二人が座った玄関側とは反対側に腰を下ろす。
「えーと、石橋さんと……」
「あ、俺は三上です」
 慎也が頷くと、三上は落ち着きなく、周囲を見回す。そして、石橋の服を少し引っ張った。だが、石橋は意思の強い瞳で、その指先を払う。
「あんたさ」
 とつぜん攻撃口調で石橋がこちらを睨んだ。
「ここ、いつまでいんの?」
「え?」
 石橋は呆れたような溜息を漏らした。
「え? ってまさかずっといるつもりかよ?」
「ちが、違います。あの、仕事、見つけたら、すぐ出ます」
「何の仕事?」
「分かりません。でも、何か見つけて、ちゃんと働きます」
「おまえみたいに親の金で何でも買ってもらってた奴が稼げんの? 大事な試験の日に体調壊すような精神的に弱い奴に仕事できんの?」
 石橋の言うことは正論で、慎也は何も言い返せない。慎也はうつむいて、拳を握った。
「石橋、言い過ぎだよ。それにこんなこと、後で要司さんが知ったら、殺されるよ?」
「でも、誰かがこいつに教えないと、要司さんがしんどい思いするだろ。それに、こいつがここにいるせいで、由里が来れない」
 女性の名前に慎也は顔を上げた。
「あんたがどんな問題抱えてたか知らねぇけど、俺ら、この間、葵って野郎、ボコったんだ。もう手出ししないって言ってたぜ」
 慎也は自分が知らない事実に驚いていた。要司はそんなこと一言も言ってくれなかった。
「だけどな、それあんたのためじゃないから。その葵って奴が、事務所に写真とかDVDとか送ってきたり、貼ったり、嫌がらせしてたんだ。知らないだろう? 要司さん、毎朝、一番早くに出てきて、他の奴らがそれ見ないようにはがして処分してたんだぜ?」
「石橋!」
 三上が制する声とともに、慎也の目の前に一枚の写真が置かれた。テーブルの上に手を伸ばし、慎也は写真の中の自分を凝視する。足を大きく広げて、アナルに卑猥な玩具を入れられていた。ペニスは勃起しており、快感に恍惚とした笑みすら浮かべている。嫌がっているように見える写真ではなかった。
「おまえ、何で持ってんだよ! 慎也さん、それ貸してください! 処分しときますから。慎也さん?」
 ここ二週間、一日だって要司の様子に変化はなかった。彼はこれを見て、何を考えたんだろう。気持ち悪いと思っただろうか。
「何でこんな……おまえ、慎也さんを傷つけるために来たのかよ?」
 三上が怒鳴り声を上げている。慎也はぼんやりと、二人を見上げた。
「俺はただ事実を言いに来ただけだ。だいたい、俺は認めねぇ。こいつ、最初はタカさんに取り入って、今度は要司さんちに住み始めてさ、あっちふらふら、こっちふらふら。俺、そういうの胸くそ悪ぃんだ。見ろよ」
 慎也は二人の視線から逃れるようにうつむく。
「こんな状況でも自己主張もできねぇ。こういうタイプはすぐ暴力に負ける。抵抗すらしない」
 大股でやって来た石橋が、慎也の胸倉をつかんで引き上げた。
「石橋、やめろ!」
 慎也は暴力が怖くて、ひたすら目を閉じて、謝った。痛いことをされるのが怖い。
「ほらな」
 石橋は乱暴に慎也を解放した。写真を握り締めたまま泣いていると、三上がティッシュを取ってくれる。

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