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 一度起きてしまうと、もう眠くはない。慎也は要司の朝食の後片付けをした。顔を洗って、シャワーを浴びるかどうか考えて、胸にまだ存在しているピアスのことを思い出す。
 慎也はソファに座り、シャツを脱いだ。あの時は手が震えたが、今は落ち着いている。キャッチの部分を回すと、リングピアスは外れた。貫通している本体をそっと動かして抜き取る。ピアスを取っても、いじられた乳首は葵がよく褒めた通り、赤く大きいままだった。だが、触らなければ、いつか元に戻る。慎也はそう思い、反対側も外した。
 この家の中に捨てるのが嫌で、慎也は昼間に買い物へ出た時、スーパーの前にあった不燃物ごみのごみ箱へ捨ててきた。午前中は洗濯をして、冷蔵庫の中身を確認し、昼間から買い物へ行き、夕飯の支度をした。
 借りたものをちゃんと返すことはもちろんだが、慎也は要司の役に立ちたかった。まだすぐに働けないから、とにかくここにいる意味を見出ださないといけない。
 いつまでいられるかは分からない。慎也は隠しておいた錠剤を数えた。十錠あったのに、八錠に減っている。飲めば減るのは当たり前のことだが、慎也は焦っていた。

 日によって現場が違うことは知っているが、出勤時間も異なるのか、ここ数日、要司は早い時間に出る。彼は慎也の夕食を喜び、その日から毎日材料費を渡してくれた。家事のほうも慎也が引き受けることで、共同生活はうまく回りだした。
 慎也にとっての問題は錠剤がなくなってしまうことだった。残り一錠になった時、慎也は近くのドラッグストアへ行き、同じものはないかと薬剤師に聞いた。
 だが、葵の用意した錠剤は市販されていないものだった。仕方なく頭痛薬を買ったが、二倍の量で飲むことで何とか頭痛を抑えている状態だった。慎也は薬のことがばれるのを恐れて、要司に内緒で頭痛薬を買い足していた。
 市販の薬だと眠くならず、慎也は起きていることが多くなった。目を閉じても浅い眠りだけで、すぐに目が開く。要司は相変わらず気をつかって向かいの部屋で布団を敷いて寝ていた。
 慎也はベッドの上で何度も寝返りを打ち、不安定な状態で朝を迎える。髪を切ってもらった時に話そうと思ったが、結局、何も言い出せなかった。これ以上、厄介なことを抱えていると思われたくない。
 朝、要司を送り出した慎也は、昼までリクライニングソファに横になった。寝不足が続いており、頭痛薬を飲んでも頭の奥に痛みが残る。食欲もなく、要司が顔色が悪いとしきりに病院へ行ったほうがいいと勧めた。
 病院へ行くには保険証が必要で、保険証はまだ家にあった。要司はついでに住民票も抜いて、転入届も出すよう言ったが、慎也はあまり乗り気にはなることができなかった。ここへはしばらくの間いるだけなのに、住民票まで移すのは失礼な気がした。
 今でも家事と食事の準備をしているだけなのに、要司は嫌そうな顔一つ見せず、早く働けとも言わない。彼の周囲にはそうして彼を見守る人間がいたと語ってくれたが、同じことを今度は自分の番だから、とできる彼を尊敬していた。慎也は自分も誰かに、こんなふうに手を差しのべることができるとは思えなかった。

 とんとん、と勝手口から音がして、慎也は不明瞭な意識を覚醒させる。昼時だったから、もしかしたら要司が昼を食べに戻ってきたのかと思った。もちろん、そういう場合は朝、言ってくれるから用意して待っている。だから、今、勝手口にいるのは要司ではない。葵でもないことは磨りガラスに映る影で分かった。

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