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 ショッピングモールまでは徒歩三十分ほどで到着した。おそらくもう少し早く歩けたら、十五分で到着できただろう。
 だが、外出していなかった慎也にはそれだけ歩くことができただけでもすごいことだった。息が上がってしまった慎也に、要司は心配しながらも、これからは少しずつ運動をして、もっと食べて、体力をつけないといけないと諭した。
「メンズファッションは三階。こっち」
 要司に手招きされ、エスカレーターで三階まで行くと、平日の閉店間際だからか、どの店も空いていた。要司は彼がよく利用する店へ連れていってくれる。高価なブランドものではなく、実用性の高いストリート系ファッションの店が多かった。慎也自身はブランドに興味がないため、彼に任せた状態になる。
「上のシャツとかは、要司さんにもらったもので十分なんで、新しく買う必要ないですから」
 先にジーンズを買ってもらった後、慎也は要司の服の裾を引っ張って言った。
「そうか? でも、上着は必要だろ?」
「いいです。要司さんが貸してくれる分だけで。あと、このパーカーください。これだけで、十分です」
 結局、その後に下着と部屋着用の上下セットと運動靴を買った要司は、それで満足したようで、シャツと上着は諦めてくれた。閉店のアナウンスを聞きながら、慎也は何度も要司に頭を下げる。
「いいって。前にも言ったと思うけど、年下は年上におごらせとけばいい。いつかおまえが自分で稼ぐようになったら、今度はおまえの番。それにこれは貸しだぞ」
 せめて荷物を持とうとしたが、要司はそれすらさせてくれない。
「帰りに牛丼、持ち帰りしよう。それ、持ってくれる?」
「はい」
「おまえは牛丼、いらない?」
「はい、あんまり」
 牛丼大盛り一人前だけを持ち帰りにして、二人は家へ向かって歩いた。
「俺が一人だった時」
 行きよりはゆっくりとした歩調で歩きながら、要司が話をした。
「本当は全然一人じゃなかった。自分だけが辛い思いをして、誰も俺をちゃんと理解してくれないって思ってたんだ。学校、辞めてから家、出たけど、いつも誰かが自分んとこ来いって泊めてくれたし、腹減らしたこともなかった」
 慎也、と呼んで要司が立ち止まる。
「おまえも一人じゃないって分かってるよな? 抱えるもんが違っても、今は話せないことでも、俺はおまえのこと信じてるから」
 えくぼを作って笑った要司のうしろに丸い月が見えた。慎也は黙って首を振った。頷いた瞬間、頬をつたった涙が落ちた。好きだと言いたい。その思いを心の底へ沈めて、慎也はすっと息を吸って吐いた。
「はい」
 返事をすると、要司は頷いて、また歩き出す。慎也は彼の行く先が月に照らされた道であることに気づき、届かない光じゃなかった、と追いかけた。

 シャワーは朝に浴びると言い、慎也は要司のベッドの上に寝転んだ。彼がシャワーを浴びている間に、錠剤のシートも持って上がった。買ってもらった部屋着に着替えて、その錠剤を飲む。
 翌朝、下の物音で目が覚めた慎也は、朝ご飯を食べている要司にあいさつした。
「おー、まだ寝てていいのに」
 食パンとコーヒーだけの質素なものを流し込んで、要司は立ち上がる。まだ朝の五時だった。
「俺、朝食くらい作ります」
「いいよ。俺、朝は早いからさ。そんなことより、起きたんだったら、ちょうどいいな。手、出して」
 言われるままに手を出すと、鍵を渡される。
「それ、合鍵……と昼は帰ってこれないから、どっかで食べろ」
 鍵の上に千円札を置かれる。
「あ、でも」
「ごめん、もう出るから、帰ったら聞く」
 冷蔵庫の中で間に合わせると言いたかったが、要司は慌ただしく、勝手口からガレージへ回り、原付きバイクに乗って行ってしまった。

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