02









コチコチコチ


規則正しく刻む筈の時計から、音が聞こえなくなって随分経ったころ。


ようやく玄関先で通学バッグを抱えて座り込んでいた舞姫は意識を浮上させた。遊城家から飛び出すように帰ってきて、それから眠ってしまっていたらしい。


雨が降りだしたのか、目が覚めて第一に聴こえたのは雨音。洗濯物を室内に干して出かけて正解だった。舞姫はほっとした表情を浮かべて玄関のドアに鍵をかけた。



「あ、…時計、電池切れちゃってる。新しい電池、どこに置いてたっけ」



靴を脱いで玄関に上がって靴箱の上に置いてある時計を手に取る。時刻は夕方の6時半を過ぎたところで止まっていた。現在の時刻といえば、外から光が差し込まなくなったことからおそらく7時は過ぎているだろうと推測できる。



「おばさん帰ってきてるなんて…聞いてなかった」



遊城家に赴いたときのことを思い出し、ぽつりと呟いて時計から古くなった電池を抜き取ってその場に転がした。いくら苦手だからといって、さよならの挨拶もせずに逃げ帰ったのは少しまずかったかもしれない。仮にも幼馴染の母親なのだ。

今度会ったら謝ろう。いつ会えるかはわからないけど。


そう考えはしたものの、やはりいつのことになるかわからない為に舞姫の脳は先ほどの内容を頭の隅に追いやってしまう。それよりも、夜一緒に食事を取るはずだった十代のことが頭の中から最優先事項として取り上げられた。


この時間ならばおそらく帰っていることだろう。だが携帯を取り出してみるが、珍しく携帯にはひとつもメールを受信した痕跡がなかった。それどころか着信さえも、だ。

もしかしたらまだ帰ってきていないのかもしれない。



「まだ、帰ってきてないんだ…」



それにしても、割といつもメールを送ってくれる彼からメールが来ないなんてことは初めてで。


「忙しい、のかな」


少しの違和感を覚えたが、無理やり自分で考えた理由を自分の頭の中に理解させ、すばやく十代にメールを送ってから携帯をしまってリビングに入ると、舞姫は鞄を放ってソファに座り込んで腹部を抱えた。


寂しい、なんて言葉は今の自分には贅沢なのだ。もう寂しいなんていえる年齢じゃない。友達も、幼馴染も、自分に優しく接してくれる。両親だって、昔よりは傍にいてくれるようになった。


これ以上、何も望むことはない気がする。


少し目を閉じて再び脳裏に浮かんだ十代の母親の顔。どこか昔の自分と似ていたあの表情に舞姫は小さくため息をついた。満たされなくて、その寂しさを視線に乗せて相手に向ける。だが、受け止めてくれる相手のいないその視線は、ただ空回っていた。


不謹慎だったが、改めて自分がどれだけ恵まれているかを感じてしまった。


「舞姫には…十代くんがいてくれるから…」


他の誰もが自分を置き去りにしても、彼だけは絶対に傍にある。どこに約束や、確実性があるわけではないがそんな絶対的な安心感が舞姫の中にはあった。それほど十代は舞姫の中で絶対的な存在だった。



「あれ…、ちょっとお腹、痛い…」



生理痛のような微妙な痛み。そういえばそろそろ生理がくるかもしれない時期だった。少し立ち上がって恐る恐る下着に手を伸ばせば少しだけ湿っていて、あ、やっぱり、と小さく呟くと舞姫は立ち上がってトイレの方向に向かっていった。





トワイライトショー#02


悪いことって重なる。そういうときに限って体も不調を訴える。

ちょっと手直ししてうp。




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