舞姫との関係は未だ平行線。否、少しずつ交差に向かっていっていることは確か。ちょっとした悪戯心で顔を近づけてみると、少し顔を赤らめたりするようになったあたり、随分進歩したものだ。昔はそうするとにっこり笑顔を作るか、表情ひとつ変えなかったくらいなのだから。 そんなオレと舞姫だが、邪魔もあれば、応援してくれる人もいるらしい。 その一人がこの人。 学校帰り、特に夜遅くになると時々会う人物。 「よっ、十代!今帰りか?」 「あぁ、鬼柳さん。こんばんは」 「新作入ったんだぞ〜、コレ、絶対舞姫に似合う!むしろ舞姫のために作られたようなモノだな!ははは」 この人は随分前に、通りすがりに女性物の下着を無理やり押し付けてきた謎の人だ。 「鬼柳さん…アンタって人は」 「持って帰っていいぞ。むしろ持って帰って着せて写真送ってくれ!」 後日下着を買いたいと言って舞姫が立ち入った下着の専門店の店長だったことが判明したのだが。未だに神出鬼没で、突然現れては下着を押し付けて帰るあたり、なんともいえない気分になる。あのときのオレに警告してやりたい。この人はある意味において危険だと。 重度の下着マニア(決して変な意味ではない)で、店頭で舞姫を気に入ったのか、たびたび新作の下着を送りつけては見せてくれとせがむ癖はまことに遺憾なことで、彼の見立てた下着をつけた舞姫を見てサティスファクションと叫んでいたのは記憶に新しい。 「…はぁ」 「で、舞姫とはうまくいってるのか、十代?」 「うまくいってたらこんなに苦労はしてませんよ」 「だよなぁ。舞姫の下着姿見て顔赤らめてるんじゃなぁ…」 「誰だって赤くなりますよ、好きな子の下着姿見たら…。ワンピースやスカート試着してるのとはワケが違うんだし」 「表面積は水着と同じだぞ?」 「アンタホントに嫌な大人だな」 下着が入っていると思われる紙袋をもぎ取り、眉を寄せて舌打ちする。 「と言いつつ持って帰るんだな」 「うるせぇよ」 見たところ舞姫の好きそうな色と柄だ。大きめのサイズだと、あまり可愛い柄のものがないのだと舞姫と同じくらいのサイズである明日香が嘆いていたが、コレくらい可愛ければ舞姫も喜びそうだ。 「あ…」 「ん、どうした、十代」 「いや…、そろそろ舞姫、生理来そうだなって思って」 下着を見ていてなんとなくふと思い出した。頭の中に思い浮かべたのは今月のカレンダー。今日は何日かと考えていると、先月の今頃、舞姫が生理痛で一人のた打ち回っていたような気がする。そろそろ鎮痛剤を用意しておかなければ。 生理痛が来たときのあの舞姫の痛がり様。思い出すだけでも恐ろしい。 月経については、本来本人が管理しなければならないことなのだが、オレが管理してやらないと、時々生理用品を買い忘れて血だらけでのた打ち回っていることがあるため、放っておくこともできない。この後のスケジュールは直帰から薬局に変更だ。 「お前らホントに付き合ってないのか?」 「付き合ってませんけど…」 「女の子の生理現象の管理しててそれでも付き合ってないって…お前おかしい。絶対おかしい…ちなみに排卵日とかも知ってんのか?」 「オレだっておかしいことはわかってますよ。でも、そういう風に育ってんだから仕方ないじゃないですか…。ちなみに排卵日は生理日が分かればおおよそは予測できます」 「早く付き合ってオジサンに結婚報告してくれよー、少年。ウェディングドレス用の下着作るからさ」 「分かってますよ…オレだってこのままでいるつもりはねーし…つか、何入れてるんですか」 「生理用ショーツ…必要だろっ!?ブラとおそろいのやつな。そうだ、ちょっとエッチな下着も入れておくぜ!」 カッコよく親指をぐっと突き上げて言ったこの人を、やっぱり嫌な大人だと思ったのは言うまでもない。つかエッチな下着入れんな。舞姫が見て変に興味を持ったら困る。 「変な下着は入れないでくださいよ。あ…オレ、そろそろ行かねーと…」 「おう、気をつけて帰れよ」 「はい。鬼柳さんも気をつけて」 そろそろ時間も遅いしと、時計を見れば10時前。薬局までは走れば間に合うかもしれないといったところ。軽く挨拶を交わして会釈をすると、オレは鬼柳さんと分かれて薬局を目指して走り出した。 合鍵はカバンの中。 買い物が終わったら舞姫の家に行こう。 トワイライトショー 03 うちのサイトは基本ゆるゆるのほのぼので健全ですが、下に関するネタはちょろちょろと出てきますのであしからず。とくに鬼柳さんやヨハンが絡んでくると壊れます。 |