8日










「お、は……よー」

「あら、おはよう」


ぐるぐると目をまわしながらリビングに現れた舞姫。今日は父親である克也は出張のために、不在。そのためにこの家に今いるのは舞と娘の舞姫のみ。

舞姫はゆっくりとダイニングテーブルにつくと、ぐったりと机に顔を伏せた。


「どうしたの、気分でも悪いの?」

「………ママー……」

「大変。すごい熱じゃない…とりあえず薬持ってくるわね」

「うん…」


気分でも悪いのだろうか。近くまで寄って額に手を当てれば、熱を帯びていて、舞は大変だと薬を取りに薬箱のもとまで走っていく。

舞が走って行ったあと、舞姫はテーブルに用意されている朝食を見下ろす。だが、気分が悪いためにそれらを食べる気にはなれずに少しだけ眉を寄せる。

元来あまり体温が高くないために、少しの熱でも気分を悪くしてしまう舞姫。今回はかなり熱があるようで、ほぼ意識が消えかけている状態。だが、舞姫は学校を休むつもりはないらしく、舞の持ってきた薬を飲むと、すぐに立ち上がって学校へ行く用意を始めた。


「学校休んだら?十代くんも心配するわよ」

「……ヘーキ。舞姫、強い子だから」

「強い子って……こんな時に強がらなくても…」


ピンポーン


「おはようございまーす。舞姫ーいるかー?」


「あ、じゅうだい、くん…だー…」

「舞姫っ、こら。学校休みなさいって」


ふらふらと揺れながら玄関へ向かう舞姫。

それをあわてて引き留めようとする舞だが、舞姫はその手をするりとすり抜けて玄関まで歩いていく。

しかし


バタン…


「へぶっ…」

「「舞姫っ……!?」」


突然自分の足を踏んで玄関先で倒れた舞姫に、十代と舞がそれぞれ慌てて駆け寄る。だが舞姫は転んだのにも関わらずにそのままずるずると這うように前を進んでいく。

それも少し進めば力尽きたのか、ぱたんと手を伸ばして意識を失ってしまったが。


よほど学校を休みたくなかったらしい。


すうすうと寝息をたてて眠ってしまった舞姫を抱き起し、十代は舞を見上げた。


「舞さん…あの、舞姫熱出てるんですけど」

「そうなのよ…、でも学校休みたくないみたいで。平気だって学校に行こうとしてたのを、今とめようとしてたところ」

「……そう、ですか…」

「ごめんね。今日はこの子、学校を休ませるから…十代君は先に学校に行って来なさい」


十代が抱えた舞姫に手を伸ばして舞がそう言うが、十代は少し考えた後にその手をやんわりと払って舞姫抱きしめる。

そんな十代にどうしたのかと舞は少しだけ眉を寄せて首を傾げる。


「あの、オレも今日学校休みます。舞さん仕事ですよね。だったらオレが舞姫の看病しますから」

「何言ってるの、子供は学校に行きなさい。それに、舞姫のせいであなたまで学校を休ませたなんて…ご家族に申し訳ないわ」



遊城家の両親はほとんど彼を放任しているが、やはりご近所である身。迷惑はかけたくない。

そう言った思いがあるのだろう。舞はきっぱりと断るが、十代は一向に譲ろうとしない。


「舞姫は一人でも大丈夫だから。今までだってそうしてきたんだし」

「舞さん…オレ、大人のそういう考え、あんまり理解できないです。舞姫、いっつも一人で寂しい思いしてんのに…一人で何でもできる子だっていうのは、大人の思い込みだ…舞姫は、心配掛けたくないからそういう風に見せかけてるだけで…。だからって一人にしていいわけじゃない」


どんなに体調が悪くても、学校に行こうとするのも、一人ぼっちで家に居たくないから。


「オレは…一人っ子なわけじゃないけど…親は舞さんみたいにデュエリストだったり、会社のお偉いさんってやつで、いつも忙しくて家に居ないかったから…舞姫の気持ちはわかるんです。だから…それを理解できるオレだから…傍にいてやりたいって思うんです」

「十代くん…」

「舞さんが駄目だっていってもオレ、舞姫の看病しますからね」


そう言って十代は舞姫を抱き上げて二階に上がっていく。

舞は十代がいなくなった後、寄せていた眉をゆっくりと離して目を閉じて口元をあげた。


「まったく、ガキってやつは…可愛いもんだね。昔をちょっと思い出しちゃったじゃないか」


他者を思いやる優しい心。

何でも守ると誓う強い意志。


まっすぐに伸びた芯は折れることを知らない。

大人になると失ってしまうそれは、不意に目の当たりにすると懐かしくなるものだ。



2月8日転んだことにも気付かない

凡骨娘が風邪で平日に学校を休むのはこれが初めて。今までは祝日か、日曜、そして大きな休みにしか引いたことがなかったり。












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