6日









「舞姫。それどうしたんだ」

「えとね、さっきそこで知らない子たちにもらったの」


嬉しそうに購買で売っているパンを大量に持って帰って来た舞姫を見て、十代は小さく眉を寄せる。

こうやって彼女と昼食を取るのはいつものことで、そして彼女が誰かしら知らない人間から物をもらってくるのもいつものことといえばいつものことだ。

だが、それも度を超える場合には指摘してやらなければならない。


「男子?」

「うん」

「だめ、返して来なさい」

「何で?」

「何ででも。じゃあ舞姫はそれくれた奴ら全員にお返しとかできんのか?」

「……うーん。難しい、かな。たくさんいたから」


だが、美味しそうな菓子パンを貰ったのだと、舞姫はしゅんとうなだれながらすべてもらったパンを机の上に置いて椅子に座り込んだ。


「でも、おいしそう。パン…」

「そっか。じゃあオレにも考えがあるよ。舞姫が返してこないなら…」


じっと舞姫の目を見て十代が口元を上げる。

少し荒療治なるかもしれないが、彼女には一番これが効果的かもしれない。あまり使いたくない手ではあるが。


「……返してこないなら?」

「もう舞姫には飯つくってやんない。弁当も。カレーも」

「………う」

「舞姫?」

「………か。返してくるっ!!」

「ん、いい子だな」


がばっと先ほど置いたパンを抱え、ダッシュで去っていく舞姫。

十代はそんな彼女の様子を座ったまま見送り、机に頬杖をついた。


「アメとムチ。使い分けが上手いッスねアニキ。でもなんなの。飯って…」


舞姫が去った後。ジュースを持って教室に戻ってきた翔が声を掛ける。すると十代は目を細めて少しだけ複雑そうな表情を浮かべた。


「翔…。なんて言うかな、ちょっと心にグサっとくる言葉よりも、実生活に密着した言葉の方が舞姫にはちょうどいいんだよな」


『舞姫のこと嫌いになっちまうぜ』なんていえばもっと効果があるだろうが、口が滑ってもそんなことを言うつもりはない。言ったところで十代自身彼女を嫌いになれるはずもないのだから。

少しだけ困ったように十代が言うと、翔は納得したのかそんな十代を楽しそうに見つめた。


「あーなるほど、舞姫ちゃん、アニキの作るご飯好きだもんね…ご飯をタテにとるなんて…アニキらしいや。舞姫ちゃんも舞姫ちゃんだけど」



3月6日その言葉を心に刻んで

十代=料理が上手い=ご飯=美味しい=好き=なくなると困る

生活に密着した言葉は凡骨娘に効果テキメンであります。









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