4日









「ジャックー…豆、ちょうだーい」

「久し振りだな、凡骨娘」


駄菓子屋のドアをくぐり、舞姫はカウンターに頬杖をついて店番をしていた男を見上げる。


ジャック・アトラス
昔はずいぶん有名なデュエリストだったそうだが、とあるデュエリストに負けて以来、デュエルの表舞台から去り、今では駄菓子屋の店員と化している。

らしい。


「豆などない」

「あるよー。この間遊星がくれたもん」

「ないと言ったらない」

「あるったらあるの!」


昔からソリが合わないのか、会うたびに喧嘩腰の舞姫とジャック。とくに繁盛している感じもしないこの駄菓子屋ができてから早10年以上がたつが、舞姫が通いだしてからかれこれ14年は経っており、そしてこのジャックと舞姫の関係も14年続いている。

何年たっても変わらぬこの二人の関係だが、変わったことといえば、舞姫が成長して、ジャックが歳をとったことくらいで、店の内装などは昔から変わりない。そして、この店を構成するアルバイトの面々もだ。ちなみに、今でもレジはなく、電卓で金額を計算している。


「何をやってるんだ、ジャック。また客につっかかって…何だ、舞姫か」

「あ、遊星。ジャックがいじめるの」

「それは困ったな」

「でしょー」


店の奥から丁度出てきた遊星に駆け寄り、抱きついてべーっと舌を出す舞姫。そんな舞姫にジャックの怒りは頂点に達するものの、子供相手に怒鳴ってもどうにもならない。ましてや相手は舞姫だ。怒りでひきつりそうな顔に平静を貼り付けてなんとか怒りを抑えるジャック。

ちなみこの光景も14年前から相変わらずのことである。


「そうだ舞姫、何か買いに来たんじゃないのか?」

「あ、うん。豆。今日節分だから、豆」

「豆?うちにはそんなのは置いてないが…」

「あるよ。甘いお豆。この間くれたやつ」

「あぁ。甘納豆か…あれは節分で撒く豆ではないが」


舞姫に促されてこの間、彼女へ試食で出した甘納豆を思い出す。最近の子供は、あぁ言った豆菓子をあまり好まないようだが、舞姫は昔から好き嫌いがないようで、自分が出したあの甘納豆も軽く完食。

どうやらあの豆が気に入った様だ。だが、あれは節分に撒くようなものではない。

どうしたものかと尋ねれば、舞姫は遊星が出してきた甘納豆の袋を、買わないうちから開けて何粒か取り出した。


「自分の歳の数だけ食べるんだよー」

「なるほど…そちら用のか」

「うん。鬼さんは朝、豆巻きしたから逃げちゃったの」

「なるほど」

「ここには鬼さんいるみたいだけど」


自分の歳の数だけ豆を食べながら舞姫がそう言ってジャックを見つめた。


「ほーう。オレが鬼だと…?」

「そうだよ。いっつも舞姫にいじわるするもん」

「ジャックが鬼か。舞姫、甘納豆を投げて追い払ったらどうだ」

「だーめ。食べモノは粗末にしないのが舞姫の主義なの。歳の数食べて、余ったのは十代くんにあげるの。あ、そろそろ帰らなきゃ。十代くんがお家で待ってくれてるんだ。じゃあね」


食べ終わったあと、残った豆をそのままに袋の口をクシャリと輪ゴムでまとめてから舞姫はカウンターから離れて急いで入口に走っていく。


「気をつけて帰れよ、舞姫」

「車に轢かれて死ね」

「うん。ありがと遊星。ジャックこそトラックに轢かれて死ね」


べーっと舌を出して嵐のように去って行った舞姫を見送り、遊星はふぅっとため息をつく。だが、ふと我に帰って眉を寄せる。


「あ。舞姫から代金をもらうの忘れた。………ジャック。お前の給料から引いておくからな」

「なっ。何故オレ?」

「当然だ」

「何が当然だ!?」



2月4日鬼は逃げた?

ジャックと凡骨娘の関係は好き。







- 62 -


[*前] | [次#]

←戻る




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -