2日









「舞姫、あなた上手ね」

「うん。舞姫、いっつもお茶うけにつくってるから」

「そうなの」



調理実習。

やはり高校生ということもあり、カップケーキ&クッキーという簡単な実習内容だが、女子にとっては想い人に自分の手料理をふるまえる数少ないイベントごとの一つ。そして男子にとっては、想い人からもらえるかもしれない、という期待感いっぱいのこれまた大きなイベントとなっている。

そんなこんなで、大勢の女子が悪戦苦闘しながら料理をしているのに対して、舞姫は手際よく材料を混ぜ合わせ、誰よりもいち早く完成させた。明日香は、自分の分が焼き上がるまで暇をつぶすために、先に完成させた舞姫のケーキとクッキーを見に来ていた。

どうやら舞姫は自分で少しアレンジしているらしく、応用を利かせてカップケーキの中に紅茶の葉を入れたり、アーモンドをそえたりといろいろしているようだ。クッキーにいたってもそうだ。


あとはラッピングして、持って帰るだけ。何個かの小さな袋を用意していた舞姫は鼻歌交じりにそれらをこれまた手際よくラッピングしていく。


「舞姫は誰かにあげるの?」

「うん。十代くんと、ヨハンと、パパと、ママ」

「あら、ヨハンにもあげるなんて珍しいわね。いつもは十代だけなのに」

「このあいだ、雑貨屋さんで舞姫にプレゼント買ってくれたから、そのお礼」

「そう」

「あーちゃんは?誰かにあげるの?」

「え、あぁ。まぁ…兄さんは甘いもの駄目だけど。私も両親にプレゼントしようと思ってるのよ」


女性らしい、綺麗な笑みを浮かべる明日香に、舞姫もつられてほほ笑む。きっと明日香のことだ。スポーツも勉強も得意な彼女だ。つくった料理も美味いことだろう。

舞姫がにこにこと笑いながら相槌を打っていると、ちょうど明日香の作品の入ったオーブンが終了の合図を鳴らした。すると、明日香ではなく見回りをしていた教師が偶々オーブンの近くを通ったようで、オーブンを開けて中身を取り出した。


「あ、先生。それ、私のです」

「あら、これ、天上院さんのなの?」

「はい」

「綺麗に焼けてるわね。少し味見させてもらってもいいかしら?」

「えぇ。どうぞどうぞ」


にこりと笑って教師に焼きたてのクッキーを差し出す。見た目は舞姫のように特に凝ったものではないが、普通に美味しそうな焼き目が付いている。だが、その表面が少し赤いのは、何か食紅のようなものを入れたからだろうか。そのほかにも緑や、青といった普通にはない色のクッキーが焼き上がっていた。

教師は明日香からクッキーを受け取ると、一口、自分の口へと運ぶ。

珍しい色のクッキー。そして、校内でも才色兼備で有名な彼女の作ったもの。そのことから期待感いっぱいの教師。


だが、穏やかな笑みを浮かべていた教師の顔は何故か見る見るうちに青ざめて行き、最終的には重力に従って身体が床へと倒れて行った。それを見て舞姫は慌てて教師に駆け寄った。


バタンっ



「せ、せんせぇ?」

「……………」

「先生!!だいじょぶ?あ、あーちゃん。このクッキー何いれたの!?」

「え?色つけにタバスコとか…あと色々?表面には卵の代わりに絵の具を薄く塗って色をつけたんだけど」

「そ、それは、だめだよぉ…」

「じょ、じょうのうち、さ……きゅうきゅう、しゃ…よん、」

「ひっ、泡吹いてるっ!!」


デュエルができても。
勉強ができても。

はたまたスポーツができても。


料理が上手とは限らない。



2月2日目から鱗が落ちた

目から鱗…って、新たな発見?みたいな感じの意味でいいのかな。今まで思ってたことの考えを改めるような場合に使うと思ったんだけど。あすりんは文武両道、料理もできそう、なんてイメージがあるけど、実はそうじゃないみたいな。











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