1日








「お嫁さん、と…」

「舞姫。まじめに書け」

「えー、舞姫真面目に書いてるよ?」

「何を言っている。それは進路希望調査のプリントだぞ」

「一緒だよー」


先ほどHR中に担任から配られた進路希望調査のプリントに、使いなれたペンを走らせる。ちなみに舞姫の希望は第一志望:お嫁さん、第二志望:社長、第三志望:プロデュエリストである。万丈目はそんな彼女のプリントを取り上げると、無残にも彼女が文字を書いた場所に消しゴムを乗せてそれを消去していった。


「あ、何するのー?」

「何するのー、じゃない。真面目に書け、この凡骨娘が」

「だって。舞姫まじめに…」

「進路希望調査とは、大学へ進学する場合は志望大学を、就職する場合は志望企業名を書くものだ。誰もお前の将来の夢など訊いてはおらん」

「そうなの?」

「……お前、教諭の話を聞いてなかったのか?」

「うん」


ちなみに現在は6限目が終わった直後。そして帰りのSHRの前にある休み時間内だ。万丈目は彼女の前の席の為に、後ろを向きながら彼女と会話をしている体勢でだ。悪気もなくうんと言ってのけた彼女に、万丈目はいつもの呆れたまなざしを向けるものの、そんな彼にも悪気はない。彼女と彼のこういったやり取りは同じクラスになるたびに行われているため、日常化しているもので、これまた誰も気には止めない。

何というか、彼らは「友人」という言葉がしっくりくるほど「友人」同士をやりあっているのだ。男女間での友情というものは成立しづらいというが、彼らにはそんなものは関係ないようだ。

まぁ、万丈目からすれば出来の悪い妹と過ごしているようなものだろうが。


「とにかく、だ。書き直せ」

「えー、やだー」

「やだじゃない。書き直せ。こんなモノ担任に提出したら間違いなく進路指導室行きだぞ」

「ぶー」

「口を尖らせても駄目だ。そもそも、お嫁さんなど、誰のものになるつもりだ!!」


机の上に指を置いてカツカツと叩き音を鳴らしながら、万丈目が眉を寄せる。今は彼女の友人である天上院明日香にゾッコンな彼だが、幼いころは彼女に恋心を抱いていた。そんな身の万丈目としては知っておきたい内容ではあった。だが、それ以上に、「彼」のためにもというものがあるが。

遊城十代。彼女の幼馴染であり、彼女に一番近い存在。そして、城之内舞姫至上主義の、この学園での最高権力者。


もし、ここで彼以外の名前が出てきたならば大変なことになるだろう。十代の制裁という名のいやがらせが行われるか、もしくはそれ以上のことが行われる可能性がある。

ふと周りを見回せば、近くの席のヨハンが楽しそうに自分たちのやり取りを見ていた。

どうやら彼も興味があるようだ。といっても彼の興味というのは、これから舞姫の口から出てくる人物がどうなるか、というところに重点が置かれているだろうが。


万丈目の不安をよそに、舞姫は万丈目の質問を受けると、しばらく考えた後唸りながら顔を机にふせた。


「まさか、考えてなかったとか…」

「えーっと…うんと、うん。お嫁さんになりたい、くらいしか考えてなかった」

「そ、そうか…」

「あっ、でもね」


万丈目が安堵の息を吐いた後、急に舞姫が顔を上げて何かを思い出したように手をポンと叩いた。


「十代くんのお嫁さんになら、なりたいなっ」

「………そうか。もうお前、それでいい。第一志望、十代の嫁とでも書いておけ」

「えぅ?うん」




数日後、第一志望、「遊城十代くんのお嫁さん」と書いて舞姫が進路指導室に呼び出されたのはまた別の話。



2月1日人の夢は儚いの?

もう結婚しろよ二人とも。な勢いで書いた。









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