「雪、大好きなの」 「知ってる。昔からだよな」 2日からしんしんと降っていた雪はいつの間にか足元を掻きわけないといけないほどに降り積もっていた。そんな真っ白の中に人影が倒れ込む。 「こーら。何やってんだよ、舞姫。風邪ひくぞ」 「えへへ。だって、雪。綺麗なんだもん」 「そうだ。雪だるまつくるか?」 「うん」 さらさらとした雪の布団から起き上がる舞姫。立ち上がるのを手伝ってやりながら起こした彼女を抱きとめてやる。にしても軽いな。食ってんのか、ちゃんと。 手袋をはめて小さな雪玉を造り始めた彼女を公園の中にあるベンチに座って眺める。楽しそうに雪だるまを作る彼女は本当に子供のようで。見ているだけでこちらも楽しくなってしまう。 ほんと、可愛いな。 近くの木の実や石を拾って出来上がった雪だるまに装着すれば、舞姫は嬉しそうに笑った。 あ、デジカメ持ってくればよかったな。仕方ないので携帯のカメラで彼女を捉える。こんなことになるならもうちょっとカメラ性能のいい携帯を買っておけばよかった。 思った通りあまり綺麗に写らなくて残念で仕方がない。 せっかくもとがよくてもこう写りが悪いと舞姫の可愛さも半減だな。 でも可愛いことに変わりはないので、とりあえず目に焼き付けておくか。 「あ」 「ん?どした、舞姫?」 突然雪だるまに手を置いたままの舞姫がふと声を途切れさせる。何か思い出したような、思いついたような表情で。 傍に行って顔を覗きこめばその宝石のような瞳は輝いていて、思わず抱きしめてキスしてしまいたくなるほど。日本人て辛いな。外人ならこういうとき普通にスキンシップを図れるんだろうが。 たぶんヨハンなら迷わず舞姫のことをこの場で抱きしめているんだろうな。そんなことを考えながら尋ねると、舞姫は口元をゆるりと締めて笑う。 「正夢になっちゃった」 「あぁ。2日くらいに話してたことか?」 「うん。でもすごいね、十代くん。舞姫に正夢になるかもって言ったもん」 「あぁ。あれは…」 ふと窓の外を見た時に雪が降っていたから、もしかしたら正夢になるかもしれないと言っただけのことだったんだが。確かに心の中でそうなってほしいとは願った。 最近の日本の気候から首都に雪が積もることなどほとんどない。だから冗談半分、本気半分だったが、それでも雪は積もったわけで、 彼女が喜んでくれてよかったと思う。 「まっしろだね」 「あぁ」 周りを見渡して彼女がつぶやいた。景色もそうだが、寒さから吐いた息も白い。そして彼女の肌も。 きっと表現するなら彼女の心の中も真っ白だ。 純粋無垢な穢れのない心。 誰もが失ってしまった心。 きっとその心は恋や愛を知ってしまったら色づいてしまうのだろう。 少し惜しい気もするが、将来はそうなるのだろう。 願わくばそれを気付かせるのが自分であってほしい。 ふと彼女を見つめていると頭に冷たい感触。何事かと思えば舞姫の手がオレの頭に雪を乗せていた。 「つめたっ!!」 「うーん……やっぱり十代くんは白はあんまり似合わないよね。似あうかなーって思って乗せてみたんだけど」 「だからって、いきなり雪を乗せる奴があるか!」 ぱぱっと雪を払って頭にコートについているフードを被る。さ、寒い。外の寒さは平気だけど、さすがに直に雪に触ると寒い。 「見なれてないからそう思うだけかも知れないんだけど」 「何言ってんだよ。オレならいつも白、身につけてるぜ。それこそ埋めつくされるほどな」 「??」 真っ白で穢れのない彼女は、いつもオレの傍に居るんだから。 オレはいつだってお前でいっぱいなんだ。 どうせ分かんねーだろうから一生言わないけど。 1月6日白く埋めつくす 十代は凡骨娘側から抱きついてくる分には抱きしめ返すけど、自分からは出来ない。 |