香水










「んー」

「なぁに、舞姫」


登校時間が過ぎ、いつものように教室に入ってきた親友を抱きとめ、明日香が首をかしげる。いつもなら、抱きついてすぐにおはようと可愛らしい笑顔を浮かべて離れる彼女だが、今日に限って自分にくっついたまま離れようとしない。

それどころか胸に顔を埋めたまま擦り寄ってくる始末。


同性同士だからいいものの、コレが異性であればたまったものではない。少しだけうらやましそうな万丈目の表情が目に入って、明日香は小さく咳払いすると舞姫をばりっと引き剥がした。


「とりあえず、おはよう、舞姫」

「おはよう、あーちゃん。あのね、あのね。新しい香水買った?いつもと違う匂い」

「え、えぇ。雑誌で紹介されていたものを新しく買ったんだけど…ちょっとキツイかしら?」

「ううん。そんなことないよ。舞姫、大好き」

「ありがとう」


両手を前で合わせてにっこりと笑う舞姫。そんな舞姫に釣られて明日香が微笑んだ。


「あーちゃんは、KC製の香水の新商品だね」

「あら、知ってるの?」

「えっへん。舞姫、こうみえても香水マニアなんだよー」

「それは初耳ね」


母親の舞がよく香水を愛用していることから、それなりに香水には詳しい舞姫。だが、舞姫自身は香水をつけたところを見たことがない。だからか、明日香は初耳だと少し驚いた表情を浮かべた。


「そういえば、十代もつけてるわよね。あれはどこのメーカー?」

「十代くんのはパラディウス社から出てるものだよ。二十代おにいちゃんと同じものなの」

「そうなの。何というか、さわやかな感じというよりは、甘い感じの匂いよね、十代のは」

「うんうん。舞姫、あの匂いすーっごく大好きなんだぁ」


うっとりするように頬を両手で包み目を閉じれば、よみがえる香水の匂い。よほど気に入っているのか、最近では一旦十代に抱きつくと離れないほどである(といっても、家の中でだけで学校では少し自重しているが)。


「おい、舞姫、そろそろ授業が始まるぞ。そのしまりのない顔をなんとかしろ」

「うんー」


チャイムが鳴ったために、一度舞姫の頭を撫でて自分の席に戻っていく明日香を横目に、万丈目がいまだにうっとりとしてだらしのない表情を浮かべている舞姫の頭を教科書で叩く。

「さっさと席に着け、凡骨娘」

「はうー、十代くんにあいたい」

「授業が終われば嫌というほど会えるだろうが」

「今すぐ、匂いたい」

「会いたいの間違いか?わざとか?」

「匂いたい」

「わざとなのか…凡骨娘」

「凡骨っていうなー」




オマケ

「舞姫、ちょっといいか」

「何、万丈目くん?」


おもむろに舞姫の肩に手を置いて舞姫の制服に顔を近づける万丈目。手で仰ぐようにするとふわりと香るさわやかな匂い。

万丈目は少し頬を染めながら表情を緩めた。


「ふむ、コレが天上院クンの香水の匂いか…」

「ん?あぁ、抱きついちゃったから匂い移ったのかな。いい匂いだよねぇ。気に入ったのなら香水名教えてあげようか?この香水、男の人がつけても大丈夫な香水だから」

「是非とも」



万丈目さんはどこまでいってもアスリンが大好き。凡骨娘に移った香水の匂いでさえいいただきますしたいんです。

ちなみに、パラディウス社は、ドーマ陣が働いてる設定だったり。













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