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猫になる話2


「杏里ちゃんこっち見て〜」

通されたみんなの部屋、ソファーの上。
トド松くんにスマホを向けられて、ニャンコちゃんの横で思わずピースをした。

「トド松も杏里ちゃんも順応性高いな…」
「こういうの、前にもあったからね」
「え、そーなの?」
「う、うんまあ…でも今回は心当たりがないんだけど…」
「前にもあったってどゆこと?」

おそ松くんの疑問に、トド松くんが簡単に説明をしてくれた。
猫に飲ませるタイプの猫と喋れる薬を間違えて私が飲んでしまって、今みたいに猫耳と尻尾が生えてしまった時のこと。

「なるほどねぇ、猫と喋れるようになる薬にそんな効果があったとは…」
「でも前は体は縮まなかったんだよね?」
「うん、それに私、薬飲んだりしてないよ」
「えっ、急にそうなったってこと?」
「そうなの、お茶を飲んでる時に突然…それにあの薬はもう捨てたはずだし」

そう言うと、何か考え込んでいたトド松くんだけが白けたような顔になって、まだ床でぐったりと寝込んでいる一松くんを見た。

「…一松兄さん」
「………」
「起きてんでしょ、さっきおそ松兄さんに落とされて」
「………」
「自分で白状するのと、僕の口からバラされて杏里ちゃんに永久に嫌われるのとどっちがいい?」

一松くんががばっと顔を上げた。
良かった、起きてたんだ。落とされた時に打ったのか、おでこが少し赤くなってるけど。

「……杏里ちゃん」

一松くんがくしゃりとした泣きそうな顔になった。

「ごめんなさい……」
「どういうこと…?」
「………」
「ああ、何となく…」
「察したな」

黙りこんだ一松くんに、おそ松くんとチョロ松くんが顔を見合わせた。

「え!?なになに?どーゆーこと!?」
「フッ…全ては愛故に…か」
「ほら、一松兄さん」

トド松くんに促されて、一松くんが背中を丸めてぽつぽつ話し始めた。
本当はあの時に残った薬を捨てずにずっと持っていたらしい。
さっき私が猫になりたいと言ったのをきっかけに、薬をお茶に混ぜて出した、ということみたいだった。

「なんだそうだったんだ、びっくりした」
「いやいやいやいや杏里ちゃんそれだけで済ましちゃだめだよ!普通に異物混入事件だから!」
「いくら猫になった杏里ちゃんが見たいからって…」
「べ別に猫になった杏里ちゃん見たかったわけじゃないし猫になりたいっつーから出してあげただけだし」
「一松、反省しなさい」

おそ松くんにぴしゃりと言われて、しゅんと丸くなった一松くんをちょっと可愛いと思った。

「てかさぁ、仮にも自分の彼女に何も言わないで騙して猫にさせようとか、ちょっと愛情歪んできてるよ一松兄さん」
「だなー。お兄ちゃんちょっと心配だよー」
「杏里ちゃんも怒っていいんだよ?」
「うん、でもこの体面白いから別にいいよ」
「杏里ちゃん、一松をあんまり甘やかさないであげて」

チョロ松くんがため息をついた。
怒った方が良かったのかな…でもしょんぼりしてる一松くんを見たら怒る気持ちなくなっちゃった。

「それで、前はこれいつになったら戻ったんだ?」
「一時間ぐらい経ったら、自然に耳も尻尾もなくなったよ」
「でも今回、杏里ちゃん体も猫サイズになってるからなぁ…」
「その薬、変に発酵とかしてたんじゃねーの?作られてから時間経ってんだろ?」
「確かに!」
「味はおかしくなかったけど…」
「一松兄さんが保存の仕方間違えて、成分が変わっちゃったのかも」
「え!じゃあ杏里ちゃん元に戻らなかったらどーする!?」

十四松くんの言葉に、少しドキリとした。

「ま、まさか…」
「…いや、一応確認しといた方がいいかもね。トッティ、デカパン博士に連絡してみて」
「うん」

チョロ松くんに言われて電話をかけ始めたトド松くんをみんなが見守る。
隣のニャンコちゃんが体をすり寄せて来たので私もそれに応えた。
ふふふ、もふもふしてる…!
小さい頃に買ってもらった、自分の体よりも大きいくまのぬいぐるみを思い出した。
両手を広げてニャンコちゃんの首に顔を埋める。わー!あったかい!

「一松、スマホ下ろせ。お前ほんとに反省してるか?」
「……はい、はい…分かりました。どうも」

トド松くんの電話が終わったみたい。ニャンコちゃんから顔を上げた。

「どーだった?」
「デカパン博士も予想してない事態だったみたい。今から調べてくれるってさ」
「一時間で戻ったらいいけど」

おそ松くんの呟きが、少し胸に刺さる。

そのままデカパン博士からの連絡を待つこと三十分。
あれから博士は前に作った薬の成分を研究し直してくれたみたいだった。
その結果………

「博士、元に戻る薬を作ってくれるってさ」
「良かった…!」
「てことは、自然には戻らないってことだな…」

トド松くんの報告にほっとしたのもつかの間、カラ松くんの指摘にドキリとする。
そうだ、博士の薬が出来るまで元に戻らないってことじゃ…!

「トド松、博士はいつ薬が出来るって?」
「それが分かんないって。早ければ明日だけど、初めて作る薬だからもっと時間かかるかもって…」

みんな黙ってしまった。

「…あの、私なら大丈夫だよ!学校もちょっとなら休めるし、薬も出来るんだったら…」
「本当にごめんなさい…」
「ど、土下座しないで一松くん…!」

ソファーの上からずるずると下りて、綺麗な土下座をしている一松くんの側に行く。

「元に戻れることは間違いないんだから、それまでこの体を楽しむことにするよ」
「杏里ちゃんって意外と楽天家だよね…」
「だよね俺も楽しむ」
「こら一松開き直るな!」
「お前は反省が先!ほら離れて!」
「その発言は色々と危ないな…」
「杏里ちゃんが元に戻るまで僕らで見てないとだね」
「だねー!」
「ありがとう」

みんながそう言ってくれて助かった。
こんな緊急事態とはいえ、一松くんと一緒に過ごす時間が長くなったのはちょっと嬉しい。
あ、もし今日中に博士から連絡が来なければバイト先に電話しておかないと…!
そう思ってふと時計を見るともうすぐ五時だった。これからどうしよう…

「さてと…これからどうする?」

私の視線に気付いたのか、チョロ松くんが聞いてくれた。

「どうするって?」
「遊ばないのー?」
「いやそうじゃなくてさ…今日一日、いや、もしかしたら数日は杏里ちゃんはこの状態なんだよ?色々と考えなきゃいけないこととかあるだろ」

私も頷いた。
この体、大抵のことが不自由になっちゃうからなぁ…
みんなの助けを借りないと何もできないかもしれない。

「杏里ちゃん、耳が垂れてる」
「えっ、ほんと?」

おそ松くんに言われて頭に手をやった。

「前もそうだったけど、感情が耳に出るんだね〜」
「えっ、それ、なんか恥ずかしいな…!」
「あー癒されんなー」
「可愛いー!」

十四松くんが伸びた袖でわしゃわしゃと頭を撫でてきた。
一松くんの親友たちの扱いで慣れてるのか、強すぎず弱すぎずちょうどいい撫で方で思わず目を細めた。

「十四松ゥゥゥ…」
「十四松兄さん、いくじなし兄さんがキレかかってるからやめたげて」
「あ?誰が杏里ちゃんとお似合いのスコティッシュフォールドだ」
「言ってないよ!!」
「ポンコツは置いといて、僕ちょっと思ったんだけどさ」
「どしたポンコツ」
「は?誰がポンコツだって?」
「まーそこはどうでもいいじゃん、で何を思ったって?」
「こいつ…」

チョロ松くんが深いため息をついた。

「…いや、前にも僕達杏里ちゃんを家に泊めたことがあったけど、今回は事情がちょっと違うだろ?だから、僕達よりトト子ちゃんのところにいた方がいいと思うんだけど」

もちろん事情は説明するよ、というチョロ松くんの言葉に納得する。
もし今日泊めてもらうことになるなら、この体じゃできない色んなお世話をみんなに頼むことになるわけで…お風呂とか、どうしよう。
前に泊めてもらった時はジムでシャワーを浴びた後だったし、寝る場所だけ借りられれば良かったけど。チョロ松くんの言う通り、今回は事情が違う。

「確かにね〜、女の子同士の方がお世話しやすいだろうし。チョロ松兄さんにしては鋭いね」
「にしてはってどういう意味だよ」

チョロ松くんがトド松くんをじろりと睨んで、またみんなを見回した。

「どう?」
「はぁ?お前マジポンコツだな」

おそ松くんがにべもなく言った。

「はぁ!?てかやっぱさっきの僕に向けてポンコツって言ってたのかよ!」
「そんなん今はどーでもいいだろ。何その提案。却下」
「ほんとポンコツクソ童貞…」
「いや童貞今関係ねーだろ!つかどっちかってーと今はお前の方がポンコツだからな一松!」
「お前ぜんっぜん分かってねぇのなー。杏里ちゃん、ちょっと俺ら話し合いしてくっから待っててくれる?」
「え、あ、うん…あ、あの、私はみんなの迷惑にならなければそれでいいから…」
「いいのいいの!元はと言えばうちの弟が迷惑かけてんだしさ」

それじゃ待っててね〜、と言って、おそ松くんと一松くんが四人を連れて部屋を出ていった。
厄介になるかもしれない身でこれ以上口出しするのは逆に迷惑かなぁ…でも…

「ニャンコちゃん、どうしよう」

困ってニャンコちゃんに喋りかけたら、気にしなくていいと思うよと言われた。
閉じた部屋の襖を見る。
話し声は聞こえてこない。聴覚は人間のままなのかな。
ニャンコちゃんがあくびをして、窓辺の夕日が当たる場所に寝そべった。
私もニャンコちゃんの側に座り込む。
ふわふわの体がすぐ側にある。家具屋さんにある、ビーズソファみたい。

「ニャンコちゃん、もたれてもいい?」

いいよ、と言ってくれたので、毛並みのいい体にゆっくり沈み込んだ。
ふふふ、温かい。ニャンコちゃんが呼吸をするたびに体が少し上下するのが、揺りかごに揺られてるみたいな心地よさだ。
日だまりの中で、とろとろと眠りに落ちていった。


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