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猫になる話1


今日はエスパーニャンコちゃんに会いに、一松くんたちの家に来た。
人の心が分かるようになる薬を注射で打たれたことを聞いてから、いつかその埋め合わせをしたいと思っていたのだ。
猫缶を持って訪ねると、一松くんが玄関でニャンコちゃんを抱いて待っててくれた。

「わー久しぶりだね!」

一松くんの腕から抱き上げたら、首元に顔をすり寄せてきてくれた。
相変わらず可愛いなぁ…!
通された居間には誰もいなかった。みんな出かけてるのかな。

「あ、これ猫缶。この子にあげようと思って持ってきたんだ。またご飯の時間にあげて?」
「うん」

一松くんに渡したら、ご飯だと分かったのかニャンコちゃんの視線が缶に釘付けになった。

「お前さっき食べただろ…」
「そうなんだ、じゃあ夜ご飯だね」

そう言うと、私の方を見て少し耳を垂れた。ちょっとがっかりしてるみたい。
十四松くんから聞いたけど、元々感受性の高い猫らしくて、薬を使わなくても何となく人の心を察してくれてるらしい。
さあ、今日はこの子と遊びまくるぞ。
ニャンコちゃんを下ろして、一松くんに貸してもらった猫じゃらしを使っていっぱい運動させる。

「わー、早いね!いい動きだよ…あはは、こっちこっち」

しばらくそうやって遊んでいるうち、ふと気が付くと一松くんが部屋の隅で体育座りをしてこっちを見ていた。
少し恨めしそうにも見える。
ずっとこの子独り占めしちゃってたからなぁ…

「…ごめんね一松くん、つい夢中になっちゃって…」
「いえ別にどうぞ楽しんでください僕はここで壁の染みみたいになってますから」
「わーほんとにごめん!ごめんね!一緒に遊ぼう!おいで一松くん!」
「にゃー」

猫じゃらしを振ったら、低い声を上げて来てくれた。良かった。
一松くんに猫じゃらしを手渡すと、慣れた手つきで振り始める。それに飛びかかるニャンコちゃん。
自分であやすのも楽しいけど、こうやって二人がじゃれてるの見るのも和むなぁ。
あ、動画に撮りたいかも。
スマホを取り出してこっそり二人の方に向けた。

「ねえ一松くん、さっきみたいににゃーって言ってみて」
「にゃー……ちょっ、何撮ってんの」
「ふふふ」
「金取るよ」
「ふふふ」

えへへ…これ後で何回も見よう。
一松くんは猫じゃらしを振りながらまた恨めしそうな目で見てきた。でも全然怖くない。
と、一松くんの胸の辺りで振られていた猫じゃらしに、ニャンコちゃんが飛び付いた。

「うわ」

受け止めきれずに、一松くんがゆっくり後ろに倒れる。
仰向けに寝転んだ一松くんの胸の上で、手から離れた猫じゃらしをかじっているニャンコちゃん。
微笑ましすぎて笑ってしまった。
ちゃんと動画にも撮れた。すごくいい映像だ…!

「にやにやしないで」
「ごめんごめん」
「全然悪いと思ってないよねそれ」

一松くんがそのままの体勢でニャンコちゃんを撫でる。
私も撫でたくなったので、カメラを止めて一松くんの側に来た。
ニャンコちゃんは私と一松くんの手の中でごろごろと気持ち良さそうにしている。
うらやましいな、こんなに一松くんと密着できるなんて。
晴れて一松くんの彼女になれたけど、まだ手を繋ぐぐらいしかできてない。
ほんとはこの子みたいにもっとくっつきたいなとか思っちゃうけど、なかなかタイミングとか、雰囲気とか、いつどうやってすればいいのか分からない。
あと、恥ずかしいし…

「いいな…」

ため息のように口をついて出てしまった言葉に、一松くんが「何が?」と反応した。

「ううん、何でもないよ」
「何が?」
「何でもない…」
「何が?」

うう、これは言うまで許してくれない意地悪パターンだ…!
一松くんの素の部分だから、別に嫌ではないけれど。

「そんな大したことじゃないよ。ちょっとね、猫になりたいなーなんて」

言いかけた時、一松くんがものすごい早さで起き上がった。
胸で丸まってたニャンコちゃんを私に渡してくる。

「そういやお茶とか出してなかったから持ってくる」
「あ、うん、ありがとう」

別に気にはしてなかったけど、一松くんは急いで部屋を出ていった。

「どうしたんだろうねー?」

ニャンコちゃんに話しかけると、にゃぁ?と心なしかはてなが付いたような鳴き声が返ってきた。
腕の中のニャンコちゃんを指でじゃらしていると、一松くんが二人分のコップを持って入ってきた。

「ありがとう」
「どうぞ」

テーブルにコップを置いた一松くんは、私とテーブルを挟んで向かい合わせに座った。
正座して、どことなく畏まってるように見える。

「…どうしたの?」
「別に。………お茶、飲まないの」
「あ、うん、もらうよ。ありがとう」

ニャンコちゃんを下ろして一口飲む。
その様子を、一松くんはまばたきせずにじっと見つめてきた。

「なに?」
「…変な味とかしない?」
「ううん、普通においしいよ」
「そう」

味のこと気にしてたのかな。本当に、何も変なところはないけど。
問題ないよってところを見せようとして、お茶を全部飲み干すことにした。
そしてコップをテーブルに置いたと同時に……



なぜか、トンネルの入り口に立っていた。



急に違う景色になってびっくりした。何で目の前にトンネルが…
あ、違う、これトンネルじゃない。
テーブルだ。
テーブルがすごく大きく見える。
そのテーブルトンネルの出口に、また大きな物が見える。
一松くんの履いてるジャージにそっくりの大きい物体。
……え?
隣でびっくりした声がしたので見ると、ニャンコちゃんが目を丸くして私を見ていた。ニャンコちゃんのサイズも大きく見える。
ちゃんと地面に立ってる感じはするのに、目線は低いままだし…
あれ、私首だけになっちゃった…?
混乱していると、テーブルの向こうでごとりと音がして地面が少し揺れた。
コップだ。中身がこぼれちゃってる。
するとガタガタとテーブルが揺れて、上から何かが出てきた。

「…い…ちまつくん…?」

…だよね…?
すごく大きくてすごく顔が引きつってるけど、一松くんに間違いない。

「…あ……あ……」
「ただいま〜」
「あ、杏里ちゃん来てる」

一松くんが口をぱくぱくさせていると、玄関の方から声がして誰かが入ってきた。
五人分の足が見える。おそ松くんたちだ。
みんなも巨人みたい…!

「え、一松兄さんどうしたの?」
「何だよその顔」
「え何ごめんシコ松中だった?」
「杏里ちゃんは!?」
「……やべぇ……!」
「だからどうしたんだよ、お茶こぼしちゃってるし」
「黒き衣を纏いし者でもいたかブラザー?」
「え〜っやだやだやだぁ!」
「女子かよお前…」

足がこっちに近付いてきて、私を見下ろした。カラ松くんだ。

「………は…?」

カラ松くんが私を見て絶句した。
後ろから覗き込んできたおそ松くんたちも、私と目が合って固まった。
あ、十四松くんは目をキラキラさせてる。

「あは、杏里ちゃん妖精みたい!!」
「…み、みんな、急に大きくなったね…?」
「い…いや、杏里ちゃんが小さくなって…」
「てか、何で猫耳と尻尾ついてんの…?」
「え?」

おそ松くんに言われて頭に手をやると、ふさふさした物がついていた。
慌てて後ろを見ると、黒い物が顔の前を勢い良く横切った。

「ふにゃ…!?」

びっくりして尻餅をついてしまった。あ、今の尻尾か!
もう一度ゆっくり振り返ると、腰から黒い尻尾がゆらゆらと動いていた。
あれ、この状態前にもなったことが…
急にテーブルの上でガタンと音がして、びっくりして飛び上がった。

「い、一松ー!」
「一松兄さんがぶっ倒れた!」
「えっ?えっ?一松くん?」

テーブルの上で倒れたらしい一松くんに、おそ松くんたちが駆け寄った。
下からじゃ良く見えないけど、私のこんな姿を見てびっくりしたんだろうな…
ど、どうしてこんなことになっちゃったんだろう…!
どうすればいいか分からずおろおろしていると、「杏里ちゃん大丈夫?」と十四松くんが上から覗き込んできた。わー、本当に大きい…!

「う、うん、私は何ともないけど、一松くんが…」
「一松兄さんなら大丈夫!ちょっとライジングしただけだから!」
「ライジング?」
「十四松、それ以上喋るなよ」

おそ松くんがぐったりしている一松くんを抱えて「とりあえず二階行こうぜ」と言った。

「母さんもうすぐ帰ってくると思うし、何でこうなったのか話聞かなきゃな」
「杏里ちゃんは?」
「あー…杏里ちゃんそのままだと階段上れない、よね…?」
「う、うん、たぶん…」

今の私の身長はニャンコちゃんと同じぐらいだけど、階段を上るのは大変そうかも…

「うーん、誰か杏里ちゃん抱っこする?」
「えーっそれ俺がいい!」
「ふぐっ」
「おいクソ長男一松を落とすな!」
「てかもうこの時点でおそ松兄さんには絶対触らせちゃだめでしょ」
「ああん?じゃ誰がやんだよ!一松は見ての通り使いもんになんねーぞ」
「お前が落としたからだろ…」
「い、一松くん大丈夫?」

縮んだ体で床に伸びてる一松くんのところまで行くのに十数歩もかかった。
元の体だったら一歩で済むのに、面白いことになっちゃったなぁ…って言ってる場合じゃない。
一松くんの大きい肩を両手で揺さぶっていると、背中にふわりとしたものが当たった。

「あ、ニャンコちゃん…」

頭でぐりぐりされてくすぐったい。僕の背中に乗りなよ、と言ってくれているみたいだった。

「え、いいの?」
「杏里ちゃん、もしかしてまた猫と会話できてる?」
「トッティ、何またって」
「その話も後でね」
「うん、そうみたい。この子が背中に乗せてくれるって」
「へえ、そんなこと言ってるんだ」
「そうと決まればほら、二階行くよ。おそ松兄さん一松持って」
「えーもう重いからやだー」
「こいつ何なのマジで…」

結局十四松くんが一松くんを抱えることになったみたいだった。
私はニャンコちゃんの背中に乗って階段を猛スピードでかけ上がった。た、楽しいかも…!


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