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学校が終わって家でごろごろしていると、トド松くんから連絡が来た。
『これ一松兄さんだよね?』というメッセージと一緒に送られてきた画像を見ると、一松くんらしき足元にたくさんの猫が群がっていた。あ、隣で座ってる私も入ってる。膝から下だけだけど。
これ、この間行った猫島の時のだ。そういえば学生の子が何人か写真撮ってたっけ。

『そうだね!何でこんな写真持ってるの?』
『ツイッターで回ってきたんだよ。リアル猫神様発見!だって』

ああ、そう呼ばれてたなぁ一松くん。
注目されたくないから猫たちに付いて来るななんて言ってたけど、本当に付いて来なくなったらちょっと寂しそうだった。
思い出して少し笑いながら、『一松くんに見せた?』と送ったら『舌打ちしてた』というメッセージが返ってきた。一松くん、何となく自分の知らないところで話の種にされるの嫌いそうだなぁ…

『でも保存してたよ』
『え?そうなの』
『一応杏里ちゃんと一緒に写ってるから、思い出に欲しかったんじゃない?』

そのメッセージを見て、顔がほんのり熱くなった。
ううん、普通の思い出って意味だって分かってるけど。
私にとってはすごく嬉しい思い出だよ。だって一松くんが行こうって誘ってくれたから。
私も保存しようっと。
思い出と言えば…
スマホカバーに付けた猫のお守りが目に入った。招き猫のようなポーズをしている小さい白猫の人形と、ハート形のチャームが付いている。
一松くんにも、これと同じポーズの黒猫の厄除けを勝手に渡した。受け取ってくれて良かったな。
でも、純粋な気持ちで買ったわけじゃないんだ、本当は。
猫神社に売っていた人形付きのお守りの中で、恋愛成就と厄除けだけがまったく同じポーズをしてた。
だから、一松くんとお揃いの物が欲しくて買ってしまった。自分のために買ったのと同じ。
こんな私の恋愛なんか、成就させてくれるのかな。
少し落ち込みそうになった時に、今度は春香からメッセージが来た。

『文化祭どうする?』

そう、もうすぐ大学で文化祭が始まる。期間は二日間。
私は部活やサークルに所属していないから、出し物をすることはない。
どうしようかな。春香はサークルの活動で忙しいだろうし、他の友達もそうだ。
みんな休憩時間になったら一緒に回れるだろうけど。

『みんなの予定に合わせて行こうかな』
『じゃあ当日は暇ってことね!お願いがあるんだけど、ちょっとだけうちのサークル手伝ってくれないかな?』
『いいよ。春香のサークルは何するんだっけ?』
『部室で展示やるのと、からあげ売るよー。杏里に手伝ってほしいのは展示の方』
『写真展示だっけ。いいけど、サークルに入ってない人がやってもいいの?』
『友達呼んでもいいって言われたから大丈夫!私と一緒に受付やってほしいの』

春香と一緒に受付をやるはずだったメンバーが、掛け持ちしている他のサークルの店に顔を出さなくてはいけなくなったらしい。
受付と言っても来た人が作品に手を触れないよう見ているだけで、質問が来たら春香が対応してくれる。
特に予定もないし、引き受けることにした。

『ありがとう!時間はまた連絡するー』
『はーい』

返事をして、ベッドに寝転ぶ。
猫のお守りが揺れた。
…一松くん、誘ってみようかな。
文化祭とか興味あるかなぁ。
あ、おそ松くんたちも一緒なら来てくれるかもしれない。
よし、連絡してみよう。誘ってみるぐらいいいよね。
一松くんの電話にかけた。

『はーい。どうしたの』
「久しぶり!あのね、今度うちの大学で文化祭やるの。良かったら来ない?」
『いつ?』

日時を伝えると、一松くんが『あー…』と言い淀んだ。
あまり良くなさそうな感じだな…

『…その日、トト子ちゃんのライブがあって…』
「あ……そっ、か…」

胸がずきんと痛んだ。
でもしょうがないよ、幼なじみのトト子ちゃんを優先したって何も悪くないもんね。

「うん、分かった。ライブ楽しんできてね」
『あ…でも、二日目なら、行ける』
「え、ほんと?」
『うん』
「じゃあ、良かったらみんなで文化祭来て?一緒にお店回ったりしよう」
『…うん、伝えとく』

良かった、また会える。

「ありがとう。今日は何してるの?」
『十四松の…じゃなかった十四松と散歩』
「そうなんだ、健康的だね。今日天気いいし」
『杏里ちゃんは?…えなになに!?杏里ちゃん!?』
「あは、十四松くんの声が聞こえる」
『こいつ声でけーか…杏里ちゃん!元気ー!?ぼくだよ!じゅーしま…おい十四松!』
「あはは、元気だよー」

電話の向こうで『取ってこい!』という一松くんの声がした。

『…ごめん邪魔入って』
「ううん。十四松くんって面白いね」
『いやただの変人だから…で、何の話だっけ』
「今日何してるかって話。私は家でごろごろしてるの」
『へー。いつもの俺だね』
「ふふふ、そうだね」
『何もすることないなら散歩でもすれば』
「そうだね、一松くんたちを見習って歩きに行こうかな」
『……川沿い…』
「え?」
『か、川沿い…に今、俺たちいるから…公園のとこ…』
「あそこかぁ。じゃあ、そこまで行ってみようかな!買い物もしなきゃだし」
『うん』
「私が行くまで待っててくれる?」
『死んでも待ってる』
「わー急いで行くね!」

電話を切って、財布の入った鞄を持って鏡の前へ。
メイクまだ落としてなくて良かった。髪型整えて服のしわを伸ばして、と。
話の流れで会えることになるなんて思わなかったな。急がなきゃ。
さっき感じた胸の痛みは、もうなくなっていた。







杏里ちゃんと別れてから、十四松を連れて家に帰ってきた。
もうすぐ夕飯。既にみんな食卓についている。

「あお帰りー。散歩楽しかった?」
「うん!杏里ちゃんとフリスビーで遊んだよ!」
「えー杏里ちゃんと会ったの?いーなー俺も呼んでよー」
「てかお前の格好見る限り、杏里ちゃんにフリスビーで遊んでもらったの間違いだろ?」
「あはせいかーい」
「自分で言うのもなんだけど、杏里ちゃんもよく僕らの茶番に付き合ってくれるよね」

ほんとにな。
やっぱり十四松くん身体能力すごいね!だって。引かれなくて良かった。
でも十四松が喉を撫でられて気持ち良さそうにしてたのは未来永劫許さない。犬だからといって許されることと許されないことがある。むしろ俺こそ犬扱いされたいのに。あーあ杏里ちゃんの犬になりたい。猫でもいい。
ていうかこの十四松を見て普通に犬扱いできるって、やっぱ杏里ちゃんSっ気あるんじゃ…やべぇ興奮してきた。
ついでに杏里ちゃんからの伝言を思い出した。…あんまり気が進まないけど。

「あのさ…杏里ちゃんの大学で文化祭やるから来ないかって」
「マジで行く行く行く!」
「あーそういや春香ちゃんがそんなこと言ってたなー」
「僕達学生じゃないけど行っていいの?」
「入場規制は別にないって」
「ぜってー行く!女子大生と触れ合いたい!」
「文化祭ってパフェある!?」
「いや…そこまでは知らないけど…」
「でいつよ?文化祭」
「今度のトト子ちゃんのライブと被ってる」

全員言葉に詰まった。

「あー…何その二択…!」

おそ松兄さんが頭を抱えた。
俺も頭抱えたくなったよ。どうせなら二日間行きたいし。
文化祭なんてほぼ兄弟との思い出しかないしどうでもいいイベントだけど、今回は特別。杏里ちゃんが誘ってくれたから。
みんなでとか言われたけど。
だから文化祭が二日あるなんて言ってやらない。杏里ちゃんとの思い出を作るのは俺だけでいい。
一応伝えることは伝えたからな。杏里ちゃんとの約束は果たした。

「でも春香ちゃん、文化祭は二日あるって言ってるよ。二日目なら大丈夫じゃない?」

クソ末弟…
スマホをいじっていたトド松が余計なことを言う。今聞きやがったな。

「え?そうなの?何だよ早く言えよ一松〜」
「大学の文化祭かぁ、どんなのなんだろうね?」
「キャバクラみたいなのとかあんじゃね?」
「いや確実にねぇよそれは」
「パーフェ!パーフェ!」
「あるといいね〜十四松兄さん」

…まあいい。なぜか鏡を見て髪型を整えだしたクソ松も含めまあいい。どうせ大学に行けばバラバラになるだろう。
杏里ちゃんに行くっつっとかないと。
夕飯の後、銭湯に行く道すがら杏里ちゃんにメールを送った。
杏里ちゃんの真似をしてわざわざ買った、スマホのカバーに付けた黒猫が揺れる。お揃い。勝手にお揃いとか思ってて気持ち悪いったらない。
これ他人が見たら俺らカップルみたいじゃん。外そうかな。杏里ちゃんも迷惑かもしんないし。こんな奴と勝手にお揃いにされて。
いや…でも…杏里ちゃんもこれ見て「お揃いだね」って笑ってくれたし……
…べ、別にいいかなこのままでも…

ああでも杏里ちゃんは誰かとの恋を成就させたくて。
俺はそれが叶わなければいいと思っていて。
全然立場が違う。一緒にしたら一生口聞いてもらえないレベル。てか叶うなと思ってる時点でもうね。
やっぱ外そうかな。俺にとっての『厄除け』は杏里ちゃんのためにならない。杏里ちゃんが片想いしてる相手にお揃いで付けてることがばれたら変な誤解されるだろうし。

…あー…

あ゛ーー…

ア゛ーーー!!!
でもなーーー!!!

だって、だって俺もすっ…好きなんだもん…!!!


もういい。外さない。知らない。
杏里ちゃんごめん。俺根っからのクズなんだよ。こんなクズに好かれてほんとかわいそう。ごめん。

「あれ?一松兄さんいつの間にこんな可愛いストラップ付けてたの?」
「ちょっ、触んな」
「厄除け?お守りなんだこれ」
「フッ…イカすキティだなブラザー」
「お前ほんっと猫好きなー」
「マジで触んないでおそ松兄さんに触られたら効力なくなる」
「ひ…ひどい!」

おそ松兄さんがクソ松に泣きついているがいつものことなので無視する。

一体いつまでなんだろう。杏里ちゃんと普通に遊んだりできるのって。
終わり方は二通りある。杏里ちゃんの恋が叶うか、俺が告白するか。
後者なら今すぐにでも終わらせることができる。でもしない。
潔く諦める準備もまだしてないし、杏里ちゃんの理想の男でありたかったとか言いつつそれに向けて大した努力もしてない。
ゆっくりとだめになっていくのを待って「自分のせいで終わったんじゃない」って思いたい。
ニートでコミュ障で無気力なのにプライドだけは高い系のクズかよ。救えない。
だから、むしろもう少しだけ足掻いてやろうと思う。
今までの自分の行為に何もかも意味がなくなって、やっぱりお前みたいなクズには無理だっただろって自分に突きつけてやりたい。そうじゃないとまたすぐ調子に乗るから。学習しねぇクズだから。

杏里ちゃんからメールの返事が来た。
友達のサークルを手伝う時間があるらしい。それ以外なら一緒に回れるよ、か。
杏里ちゃんもさ、こうやって俺に気を持たすの上手いよね。落ちようとしてる時に持ち上げてくるんだから。
さっき覚悟しかけた気持ちがもう揺らぎ始めてる。こうやってぬるい方ぬるい方に流れてくからいつまでたってもダメニートなんだよな。
杏里ちゃんの当日のスケジュールを聞いて、二人だけで過ごしてくれるのか遠回しに探りを入れて。
いつか、はまた先伸ばしにされた。


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