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今日は文化祭一日目。
校舎の中も外も、色んな部活やサークルの出店でいっぱい。
どこもお祭り騒ぎだなぁ。見てて楽しくなる。
春香との待ち合わせまでまだ時間があったので、一人で学校内を見て回ることにした。
様々なサークルが、食べ物を売るついでに勧誘のチラシもたくさん配っている。一つの道を抜けるだけで十枚以上はもらってしまった。
人の少ない校舎脇に移動して、さっき買った一口カステラを食べながら一枚一枚に目を通す。
入学式の時にもたくさんもらったけど、まだこんなに知らないサークルがあったんだなぁ。
あ、明日は学生会主催でミスコンもやるんだ…えっ水着審査もやるの!?
おそ松くんたち喜びそうだなぁ。
そんなことを思って笑いがこぼれる。
明日はみんなで来るみたいだし、教えてあげようっと。
スマホを取り出してメールを打つ。
今すぐは見てもらえないだろうな。トト子ちゃんのライブがあるし。
ちょっとだけため息をついた。
でも、また明日会えるだろうからいいんだ。
メールを送り終えた後、他の友達のところにも顔を出したりしていると、春香から電話が来た。

『杏里?ごめん時間かかっちゃって!今から行く!サー室で待ってて』
「はーい」

さて、移動しなきゃ。
部活やサークルのポスターが至るところに貼られている部活棟の階段を上って三階へ。
この階は文化系のサークルが固まっているらしく、華やかな軽音やダンスサークルの上の階だからか、あまり人がいなかった。
廊下を進んだ奥の方に、ひっそりと春香の所属するサークルの部屋がある。
中を覗いてみると、少し狭いけど明るい静かな部屋。
壁際と二枚立てられたホワイトボードに写真が飾られていて、数人の学生が写真を見回っていた。
入り口付近には机が二つくっつけられていて、椅子にはサークルの人が二人、ご飯を食べながら喋っている。
なんだ、こんな気楽な感じで大丈夫なのね。
外でしばらく待っていると、春香が来た。

「ごめん杏里!遅くなって」
「いいよ、大丈夫」
「すみません!交代します」
「お、春香よろしくー。時間来たら簡単に片付けといてくれる?」
「りょーかいっす」

サークルの先輩かな?私も頭を下げて部屋の中に入った。
ベランダの方からは、中庭で演奏しているバンドの音が聞こえてくる。

「いい場所だね、ここからステージも見える」
「ふふん、そうでしょ。あ、ご飯買ってきたから一緒に食べよう」
「あ、ありがとう…!私も何か買ってくれば良かったな」
「いいよ、バイト代ってことで。それにこの時間ならどうせあんまり人来ないしねー。終了時間までのんびりしよ」

私たちが今日最後の当番らしい。だから片付けといて、って言われたのか。
軽音サークルのライブをBGMに、春香が買ってきてくれたたこ焼きやスープを食べる。
…一松くんたちも今頃、トト子ちゃんのライブ見に行ってるのかな。
なんて考えると、少し胸の奥が重くなった気がした。
ああ、やだな。みんなは楽しんで行ってるのに。

「ねえ杏里、明日トド松くんたちも来るんだよね?」
「あ、うんそうだよ」
「トド松くんと一松くんと、おそ松くんだっけ?この三人には会ったことあるんだけど、あと三人いるんだよね」
「あ…春香はもう六つ子だってこと知ってるんだ」
「うん。ねえ、他の三人ってどんな人なの?」
「えっと、何て言えばいいかな…」
「トド松くんに聞いてもさ、『知らなくていい』って言われちゃって。多分会わせてくれない感じ」
「あははは…まあ、ちょっと個性は強いけど、面白い人たちだよ」
「そうなんだ?トド松くんたち三人だけでも個性ばらばらっぽかったもんねー。絶対全員とお話してやるんだ」
「ふふふ、春香興味しんしんだね」
「当然!六つ子ってすごくない?明日中に全員と会って写真撮りたいの。いい被写体になると思うなぁ…」

そういう意味で興味持ってたんだ。
ちらほら来るお客さんに目を配りながら、春香が撮った写真を見せてもらう。
そういえば春香の撮る写真って人物が被写体になってるものが多かったな。

「春香が撮った一松くんたちの写真見てみたいかも」
「あはっ楽しみにしてて!魅力的な一松くんの写真も撮っちゃうよー」

それはほんとに楽しみ…!
夕方が近づくにつれお客さんが来なくなってしまったので、二人でベランダに出てステージでのライブを見た。
アイドル研究会が、有名アイドルの曲でライブをやっている。
あ、あれ橋本にゃーちゃんのコピーだ。衣装も凝ってるなぁ。
ステージに立って一生懸命パフォーマンスやってる子って、やっぱり可愛いよね…
キラキラしてるし、夢に向かって頑張ってるって感じするし、男の人も応援したくなっちゃうと思うし。
…私にはできないことだなぁ。

「何?なんか杏里元気ないね」
「えっ…?そうかな、そんなことないよ」
「ふーん…」

春香が言葉を止めて、にやりと笑った。

「最近一松くんとはどうなの?」
「っ…え?え?な、何?」
「あははっ、もう慌てすぎ!」
「う…」

急にそんなこと聞かれてもどう言えばいいのか分かんないよ…!

「今も二人で遊びに行ってるの?」
「う、うん…休みが終わる前にも遊びに行った…」
「へええー、いい感じじゃん」
「…ん…だといいけど……」
「杏里、もっと自信持った方がいいよ?案外押しまくれば攻略できるかもよ、ああいうタイプ」
「ああいうタイプって?」
「んー、真面目というか奥手というか…女の子に慣れてるタイプじゃないよね。少なくともトド松くんに比べると」
「ああ、それはそうかも…トド松くんは積極的だよね」
「でしょ?」
「そういえば前から聞こうと思ってたんだけど、春香はトド松くんとどうやって知り合ったの?」
「ツイッターだよ。友達の友達の友達…だったかな?の繋がりなんだ」
「そうだったんだ。トド松くんって顔広いね」
「うん、面白い子だよねー。そうそう、トド松くんってね…」

アイドルライブを眺めながらお喋りをする。
ステージからアイドル研究会が撤収してダンスサークルが出てきた頃、スマホにおそ松くんからのメールが来ていたのに気付いた。

『マジで!?ミスコン!?それ女の子に触れたりするやつ!?
すげーな大学って
てかたぶん今日杏里ちゃんとこ行けると思うんだよね
トト子ちゃんのライブ客少なくてそっこーおわるきがする
トト子ちゃんのきげん直してから行くわ
カリスマの到着を待ってて!』

「えーっ!」

メールの送信時間は二時間前。
私がメールを送ってすぐ後ぐらいだ。
もしかしたらもう大学来てたりして…

「え、何杏里どしたの」
「おそ松くんたち、今日来るかもって」
「え?幼なじみの子のライブは?…あ、ほんとだトド松くんからも連絡来てた」

うわー!ついさっき一松くんの話してたのに今日って、どうしよう意識して変なことになりそう…!

「ってことはようやく六人に会えるのね…!うわー楽しみ!トド松くんに引き留めておいてもーらおっと」

わくわく顔でメッセージを打ちかけた春香が、ふと私の顔を見て手を止めた。

「あはは、もう緊張してる」
「わ、笑い事じゃないよ!落ち着かなきゃ…」

他の子からの連絡はまだなし。
学校にまだ来てませんように…

「ね、杏里。もう告っちゃいなよ」
「えっ…!?む、無理だよ、そんな感じじゃないもん…!」
「いいこと教えたげる。今日と明日、中庭でライトアップやるんだよ。暗くなってきたからもうすぐじゃない?手が込んでてすっごく綺麗なんだって。告白にはもってこいの雰囲気らしいよ」
「う、そんなこと言われても…」
「ムードって結構大事だよ?雰囲気に流されてオッケーしてくれるかもしんないじゃん」

そう言いながら、春香が時計を見た。

「あ、そろそろ片付け始めよっか。もう絶対人来ないでしょ」
「…うん…手伝う…」

春香に続いて部屋の中に入る。
一日目と二日目で展示を変えるらしいので、ホワイトボードに貼られた写真を外していく。
単純作業をしてるせいか、余計なことを考え始めてしまってすごく心臓がどきどきしてきた。
告白するって決めたわけじゃないけど、春香の言う通りいい雰囲気の中で告白できるのは今日か明日ぐらいかもしれない。
どうしよう。
ああ、考えだしたらもう心臓がどんどん落ち着かなくなってく…!

「…杏里、どうする?もうライトアップ始まっちゃったよ」

窓を開けた春香が追いうちをかけてくる。

「ど、どうするって…第一、連絡まだ来てないし…」
「告白するの?しないの?ほらもうここで宣言しとこう!心決めないと、いつまでたっても前に進めないよ?誰かに取られちゃってもいいの?」
「えっ…そ、それは……」
「杏里が告白しないならー、私がしよっかなー」

その衝撃の台詞で思い出したのは、春香が前に『一松くんも一緒に遊ぼう』と送ってきたメッセージ。

「っええっ…!?や、やっぱり春香も好きなの…!?」

そんな…!!
泣きそうな顔をしてる私を見て、春香は笑いだした。

「あははははっ!もーそんなわけないでしょ!冗談に決まってるし杏里焦りすぎ…何やっぱりって、あはは」
「あっ、もう…!か、からかわないで!」
「はいはい大丈夫嘘だから。杏里ちゃん頑張れー…ってあーっ!」
「え、何どうしたの」
「写真飛ばされちゃった!やばい先輩に怒られる…取ってくるから、杏里は部屋の前の看板、中に入れといてくれる?」
「わ、分かった」
「任せた!」

春香がベランダから出ていって、部屋には私一人。
スマホを恐る恐る確認してみた。一松くんからの連絡はない。
今日は来てないかもしれないよね。明日何もなかったように接すれば…
でも、このままだと前に進めないってことも分かってる。
……明日。
頑張って、みようかな。
ゆっくり深呼吸をして、看板を取りに廊下へ出る。
何気なくドアの陰を見て、心臓が止まりそうになった。
一松くんが立っていた。

どうしよう。
いつからいたんだろう。
どこまで聞かれてたんだろう。

切れかけの蛍光灯の光が、廊下の床に反射してちかちかする。
一松くんのことは見れない。
お互いに無言の時間が続く。
二人だけしかいない廊下。

「……あの…今の話、き、聞いてた……?」

ゆっくりと震える声で尋ねる。
一松くんが、間を開けて「うん」と言う声が聞こえた。
ああ、もうだめだ。
こうなったら、ちゃんと言うしかない。
今までずっと隠してきた気持ちを頭の中でまとめて、どうにか言葉にして。
私、
私は、



「俺、杏里ちゃんとそんなつもりで一緒にいたんじゃないから」



思考が全部止まった。
その言葉が意味するものを頭の中で何度も確認して。

でも、答えは一緒。

「………ごめん、帰る」
「…っ、あ……ま、って…」

もう背を向けている一松くんに向かって、未練がましく声をかけてしまった。
しつこくしたって、もう一松くんが私を見てくれることなんてないのに。
それでも、最後の最後で勇気を出して希望にすがって。

「ま…まだ、私と……と、友達でいてくれる…?」

顔を上げたら、少しだけ一松くんの背中が見えた。
よく着てる、紫色のパーカー。


「………ごめん、無理」


小さい呟きだったのに、ステージからの爆音よりもはっきりと聞こえた。

背を向けたままの一松くんが遠ざかっていく。
別れ際に私の方を一度も振り返ってくれなかったのは、これが初めてだった。


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