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今日はジムに行く日。
軽くランニングや筋トレをしてからロッカーに戻ると、留守電が入っていた。
おそ松くんからだ。

『もう休み入ったんだって?どっか行こーぜ!』

そうだ、遊ぶ約束をしてたんだった。
そういえば明日は何もない日。
電話をかけ直して、明日はどうかな、と提案すると、じゃあそれで!と返ってきた。
明日、何しようかな。普段おそ松くんってどこ行くんだろう。

そんなことを考えながら当日待ち合わせの場所まで行くと、赤いツナギを着たおそ松くんがいた。

「おそ松くんお待たせ!」
「あ、杏里ちゃん…!」
「…え、もしかして緊張してる?」
「すっげーしてる」

何となくぎこちないおそ松くん。
いつもの余裕がありそうな感じと違うから、なんか新鮮だなぁ。

「そんなに緊張しなくていいよ、いつも通りで」
「俺のいつも通りってどんなんだっけ…!」
「ふふふっ」
「ちょ、笑うことないだろー!」
「あ、ほら、そんな感じ」
「おお、これか…」

とりあえず目的もなく歩くことにした。
おそ松くんもよく気ままに散歩したりするみたい。

「おそ松くんツナギ似合うね」
「そ、そう?でもこれもお揃いなんだよなぁ…」
「みんな色違いだよね」
「そーなんだよ、母さんがめんどくさいからってお揃いのばっか買ってくるから。スーツですらお揃いだよ?」
「そうなんだ!スーツ姿も見てみたいなぁ。前からみんなお揃いで可愛いなって思ってたんだ」
「マジで?ありがとー、同じ服六着とかねーよなって思ってたからさ、そう言ってくれると嬉しいなー」

おそ松くんが照れたみたいに言う。
そして顔を手で覆った。

「あー!ほんとにデートっぽい!感激だ…!」
「女の子と二人で出かけたことないんだっけ」
「ないない!…あ、あれは…いや、数に入んねーか」
「どういうこと?」
「昔レンタル彼女っての頼んだことあるんだけど、ありゃひどかった…」
「レンタル彼女って何?」

聞いたことない言葉だ。

「女の子に金払って彼女やってもらうんだよ。そういうビジネス」
「そんなのあるんだ…!」
「俺ら全員まんまと騙されてさ、今思い出しても腹が立つ…」

俺ら全員、ってことは、一松くんもレンタルしたってことだよね。
女の子と付き合ったことないって言ってたけど、そういう経験はあるんだ…
あれ、ちょっと待って。

「騙されたって、どういうこと?」
「そう!すっげー可愛い子来たと思ったらチビ太だったんだよ!」
「…え、…え?ど、どういうこと?」

チビ太さんが…?
ちょっと混乱してきたんだけど…

「デカパン博士って知ってる?大通りに研究所があんだけど」
「ううん、聞いたことない」
「その博士の薬で女の子に変身してたんだよ、チビ太とイヤミってのが」
「変身って、完全に女の子になったってこと?」
「そう、あの博士怪しい発明ばっかしてっからな…まあ時々は役に立つけどさ」

うんざりした様子でおそ松くんが言う。

「そんでその二人が、俺らから金巻き上げるためだけに女になってたってわけ」
「…で、巻き上げられちゃったんだ」
「そうなんだよ!俺なんか家にあるもん全部あげちゃってさ!」
「ええ…!?大丈夫だったの!?」
「うん、そこら辺は後で一松がきっちり慰謝料取り立ててくれたから」

あ、悪い顔だ。

「一松ブチギレてたから二人を虎の餌にするとこだったんだぜー。俺としてはほんとに餌にしてくれても良かったけど」
「そ、それはだめだと思うな…!」

そういえば一松くん、チビ太さんともう一人を虎に会わせたって言ってたけど、かなり危険な場面だったんだ…

「一松キレたら怖いよー、杏里ちゃんには見せたことないでしょ?」
「うん、いつも優しいかな」
「いやーいいことだよね!お兄ちゃん安心した!」

笑うおそ松くん。
おそ松くんも何気に兄弟思いだよね。弟たちにはクズとか言われちゃってるけど…

「それにしても、本当にそんな薬あるんだね」
「猫が喋る薬も作ってたよ」
「えっ!猫が喋るの!?」
「お、食いつくねぇ」

にやにやされてちょっと恥ずかしい。
でも猫と話せるなんて、夢みたいだよ!みーちゃんとも喋れるかなぁ…!

「なんか困ったことあったらデカパン博士に言ってみなよ。何かしら作ってくれると思うし」
「うん、言ってみようかな…!」

猫と喋れる薬…!いつか頼みに行こう!

「ところで杏里ちゃんはいつもどこで遊んでんの?」
「うーん…友達とはカフェでずっとお喋りしてたりとか、買い物に行ったりとかかな」
「いいねー女の子って感じ」
「おそ松くんはレンタル彼女とどこに行ったの?」
「…考えてみたら俺デートらしいデートしてねぇわ…」
「デートしなかったんだ」
「ぎゅってしてもらっただけだった」
「それで家にある物全部、かぁ。ふふふ、本当に巻き上げられちゃったんだね」
「笑い事じゃねーって!あんなに貢いだのにチビ太とか、悪夢でしかない」
「あははは」
「やっぱ杏里ちゃんドSだ」

口を尖らせたおそ松くんだったけど、「まーいっか」とすぐに機嫌が直った。

「杏里ちゃんに笑ってもらえるなら、いい経験したってことで」
「あ、今の台詞素敵だね!女の子ならドキッてくると思うよ」
「え、今のが!?マジで!?覚えとこー!」
「ふふふ、テンション上がってる」
「いやさー、こういうの自然に出てくるのに俺に彼女いないっておかしくない?」
「あははっ」
「おいちょっ、笑ってごまかさないで杏里ちゃん」
「でもほんとだよね、何でみんな彼女いないんだろう?一緒にいてて楽しいよ」
「そんなこと言ってくれんの杏里ちゃんだけだよ、トト子ちゃんには既成事実ですら作りたくないって言われてるし」
「男を見る目が厳しいんだねトト子ちゃん…」
「ほんとだよ…あーあモテてぇなー何もせずにモテたい」
「ふふふふ」

何もせずにってとこがおそ松くんらしいな。
そこからおそ松くんのリア充に対するコンプレックスを聞いていると、「あ」と言っておそ松くんが立ち止まった。

「杏里ちゃん、あいつがイヤミ」

指差された方を見ると、前歯がすごく出ているスーツ姿の人が歩いていた。

「あの人が虎に食べられそうになっちゃったんだ…」
「つか頭半分食われてたけどね」
「えっ…」
「ま、関わんない方がいいよ。金儲けのことしか考えてねーし…顔覚えた?あんまり近付かないようにしてて。杏里ちゃんお人好しだから、つけこまれて利用されるかもしんないし」
「そんなに怖い人なんだ」
「そーそー怖い怖い。金のためなら女になるくらいだよ?見かけたら素早く逃げてね」
「わ、分かった」

おそ松くんがここまで言うって、相当危ない人なのかもしれない。
一松くんも私が知る必要ないとか言ってたっけ。気を付けよう。

「それにしても、おそ松くんたちの知り合いってすごい人ばっかりだね」
「そう?昔から付き合いあるから分かんねーけど…あ、ちなみにあの会社の社長とも知り合い」
「…えっ、あそこって…!」

おそ松くんが示したのは、この辺で一番高いビル。頂上には旗が立っている。
世界的にも有名な超大企業。

「す、すごい!そんな人と知り合いなんだ…!」
「まーね。でも杏里ちゃんあそこに就職するのだけはやめときな。旗ぶっ刺されっから」
「えっ…あの、体にってこと…?」
「うん。頭か尻に」

そ、そんな社内ルールがあるんだ…!
そういえば社長さんも頭に旗が立っていた気が…

「面白い人と知り合いなんだね、おそ松くんたちって…!」
「人に話したら大体引かれっけどね」
「そうかな、普通の人は体験できないことしてるよね」
「してるからって得することばっかじゃないよ?杏里ちゃんみたいにさ、他の人と同じようにバイトして一人暮らしで、ってのすごいと思うし」

まー俺は無理だけど!とおそ松くんが笑う。

「そういう風に生きれるのってすごいなぁ」
「杏里ちゃんもニートになれば?毎日楽しーよ?」
「クズの極みだね」
「えっ」
「い、今の私じゃないよ!」

二人で声が聞こえてきた後ろを恐る恐る振り向いた。

「あ…一松さん……き、奇遇ですね……」
「そうですね」

ポケットに手を突っ込んで、少し猫背気味の、いつもの一松くん。
でも、隣で硬直していたおそ松くんはそっと私の後ろに隠れてきた。
おそ松くん、一松くんにバレたくないって言ってたな…

「一松くん、ほんとに偶然だね」
「何してんの二人で」
「あの、遊びに…」

言ってよかったのかな?
おそ松くんを振り返ると、ものすごい汗を流しながら目をそらしていた。

「…………ふーん」

しばらく黙った後、一松くんが低い声を出した。
そして、ふいっと目をそらす。

「お邪魔しました」

一松くんはくるりと後ろを向いて歩いて行ってしまった。なんか…元気、なさそうだったかも。

「あぁー…やっちゃったー…」

おそ松くんが私の後ろから出てきて気まずそうにしている。

「何かだめだった?」
「すげーまずいことになった、かも」

ちらりと私を見たおそ松くんは、「杏里ちゃんは何も思わなかった?」と聞いてきた。

「一松くん、元気なさそうだったね」
「杏里ちゃんさ、後で一松に電話したげてくれる?直接会うのでもいいし」
「うん、分かった」

私が元気なかった時も、一松くんは電話くれたもんね。

「あー今日家帰りたくねー…!殺される…!」
「え、一松くんおそ松くんに何か怒ってたの?」
「うん、多分。あーあ、ちょっとやり返してやろーってだけだったのに」
「やり返すって?」
「こないだのじゃんけん。ほら、一松が五百円くれたから俺一人負けしたじゃん。その仕返しのつもりだったの」

けど洒落になんないかもなー、とおそ松くんが呟いた。
でも、さっき一松くんと会ったことがそんなに怒られることなのかな…
仲間外れにされたみたいで面白くなかったのかも。
去り際の、一松くんのちょっと寂しそうだった顔を思い出した。
今日中に絶対電話しよう。


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