×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



「杏里ちゃんの家ってここだったんだね」
「商店街近くていいよねー」
「うん、けっこう便利」

五人とも、私の家の前まで送ってきてくれた。
「一人暮らしって偉いなぁ」とチョロ松くんがため息をついたので、そんなことないよと首を振る。

「チョロ松くんもマネージャーのお仕事頑張ってるし、充分偉いよ」
「杏里ちゃん…!」
「杏里ちゃんそれ以上はストップだよ、チョロ松兄さんすぐポンコツるから」

トド松くんが間に入ってきた。ポンコツるってどういう状態なんだろう…

「杏里ちゃん!また遊びに来ていーい?」
「ふふ、うんいいよ。あ、そうだ、私もうすぐ大学休みになるんだ。だからいっぱい遊べるよ」
「ほんと!?やったぁー!」
「いつでも連絡してくれていいよっ、僕ら毎日日曜日だから!」
「誇れることじゃないから!堂々と言うな!」
「あははは、また連絡するね」

みんなと過ごす休みは楽しいだろうなぁ!考えるとわくわくしてきた。

「それじゃ、そろそろ僕らも帰ろうか」
「そうだね、杏里ちゃんまたね」
「ばーいばーい!」
「またね!送ってくれてありがとう!」

手を振ってアパートに入る。みんなの話し声はどんどん聞こえなくなっていった。
自分一人だけの家に入ると、暗いままの静かな空間。
急に一人になると、ちょっと寂しいな。おそ松くんが一人きりにされたくない気持ち分かるかも。
そうだ、メールしよう。
今日はありがとう、片付けも、と送るとメールじゃなく電話がかかってきた。

『杏里ちゃぁん』
「おそ松くん…泣いてる?」
『さみしいよぉ』
「ご、ごめんねみんなを独り占めしちゃって…今みんな帰ったからね」
『あいつらぜったいゆるさない…』

ぐす、という音。
笑っちゃいけないのかもしれないけど、少しだけ笑ってしまった。

『杏里ちゃんにも笑われた…』
「ごめんごめん!違うよ、おそ松くんが今可愛かったなって思って」
『俺今可愛いの?』
「うん。寂しそうなのが」
『ひでー』

けらけら笑ってくれた。杏里ちゃんって意外とSだよね、だって。

『そーだ、あいつらは帰ったら即処刑するとして…杏里ちゃんにも笑った罰を与えます』
「えっ、笑った罰?」
『俺の心を傷付けた罰』
「わーごめんね、そんなに傷つくと思わなかった…!」
『俺のハートはガラス製なんだよ、っとこれカラ松っぽい忘れて今の忘れて』
「ふふふ」
『あ、はい今笑ったー!杏里ちゃんに笑われてまた傷付いたー!』
「ふふっ、ごめんね、私何したらいいの?」
『そーだなぁ…』

あ、たぶんおそ松くんにやにやしてる。

『俺と一日、で…デートしてくんない?』
「デート?」
『うん!女の子と二人きりで遊びに行くって俺憧れてんだよー』
「トト子ちゃんと行ったりしないの?」
『前頼んだら帰れって言われたよ』
「トト子ちゃん…」

本当に、トト子ちゃんの中でこの六人はないんだなぁ…

「いいよ、私で良ければ遊びに行こう」
『マジで!?マジで!?いいの!?よっっっっっ』

しゃあー!と叫ぶ声が少し離れた場所から聞こえた。また笑ってしまった。

『ありがとー!あ、これ一松には内緒な?』
「一松くんに?何で?」
『あいつ、杏里ちゃんと一番仲いいのが自分だからって調子乗ってんだよ。だからこっそり杏里ちゃんと遊んでびっくりさせてやりてーの!』
「そんなのでびっくりするかな?」
『するする。心臓止まると思う』
「え、そんなに?」
『じょーだん!ま、とにかくいつか二人で遊ぶってことで…あ、あいつら帰ってきた!お兄ちゃんちょっと処刑してくっから!予定はまた今度な!』
「はーい、分かった」
『それじゃ!…ってめぇらよくも俺一人に任せ』

電話が切れた。
おそ松くんのパワーってほんとすごいな…!
一気に部屋が明るくなった気がする。
二人で遊びに行こう、か。
考えてみたら、男の子と二人きりで遊びに行ったのって一松くんが初めてだったんだよね。
一松くんとだったら猫を構いに行ったりしたけど、おそ松くんとはどこに行ったらいいんだろう。
あ、なんか、今から緊張してきた…
でも、遊びに行くだけだもんね。一松くんの時と同じようにすればいいんだ。



定期試験も終わって、とうとう長期休みの始まり!
今日は午後からジムがあるけど、まだそれまで時間があるな。お昼ご飯はどこかで食べるとして、どうしようかな…

「杏里ちゃん!」
「あ、もう試験終わった?」

同じ授業を取っている男友達だ。

「杏里ちゃんこの後暇?」
「うん、ジムに行くまでは暇だけど」
「じゃーさ、どっか遊びに行こうよ。最近あんまり俺らと遊んでくれないじゃん」
「え、そうだったかな…」
「ほらあの、一松くんとかいう人とばっかいるからさ、みんな寂しがってるよ」

確かに一松くんと出会ってから、一松くんと遊ぶ頻度が一番多くなってる気がするなぁ。

「そっか。いいよ、どこ行こうか?」
「あっちでみんな集まってるからさ、とりあえず行こう!」

校舎の前で仲のいい友達が何人か集まっていて、まずお昼ご飯を食べに行こうということになった。
駅前のショッピングモールに新しくイタリアンのお店が出来たらしく、そこに向かう。

「杏里、今日の英語どうだった?」
「うーん…ちょっと自信ないかな…」

ああ、単位取れてるといいけど。

「ね、基礎入門は?」
「それはちょっと自信あるかも」
「マジで?小山さんやるねぇ」
「ふふ、復習してたから」
「えーあたしも一応したけどさぁ、ややこしくない?」
「一松くんにね、授業で出た資料の話聞いてもらったんだ。ほら、人に説明すると自分の中で整理できて覚えやすいって言うでしょ?」
「あーなるほどね!」
「確かに、この分野を全然知らない人に説明するの難しいしね…整理できるかも」

私も今度はそうしよー!と春香が悔しそうに叫んだのでみんな笑った。
もうすぐショッピングモール、というところで、駅の隅っこに猫が二匹くつろいでるのが見えて少し歩みが遅くなる。
あ、あそこもパワースポットかな。一松くんは知ってるのかな。

「ねえ杏里ちゃん」

さっきの男友達が歩調を合わせて話しかけられた。

「あの…一松くんだけどさ」
「うん」

今まさに一松くんのことを考えていたから、ちょっとドキッとする。

「何してる人なの?」
「え、えーと」

ニートやってるって言えないよね…一松くんもずっと言いにくそうにしてたし。

「よく大学まで来てるみたいじゃん」
「うん、まあね。私の予定に合わせてくれてるから」
「こないださぁ、パチンコに入ってるとこ見たんだよね」
「え」

聞いたことないけど、おそ松くんがやってるから一松くんも行ってるのかもしれない。

「何かさ…何してるか分かんない人といるのって怖くない?」
「え、そんなことないけど」
「目つきとか怖いしさ、あんな人と一緒にいて大丈夫なの?」
「それどういう意味?」
「杏里ちゃんも変な目で見られたりするんじゃない?ってこと」
「…そんなことないよ」

前、一松くんも言ってたな。俺といると変な目で見られるかもしれないって。

「関係ないよ。それに一松くん優しい人だよ?私の猫見つけてくれたのも一松くんだし」
「暇持て余してるからじゃない?昼間からパチンコ行ってるような人だし。だからさ、あんまり関わんない方が」
「私が誰と仲良くするかなんて私が決めることだもん。そんなこと言わないで」
「あーあ、杏里怒らせた」

春香がどうしようもないといった顔で言った。

「だから言ったじゃん、口挟むのやめなよってさ」
「だ、だって怪しくない?」
「一松くんがどんな人かなんて付き合いの長い杏里が一番よく知ってることじゃん、はいこの話終わり!杏里、何食べたい?」

春香が腕を引いて、ショッピングモールの中にいち早く入った。

「杏里、あんま気にしない方がいいよ。最近遊んでくれないからってひがんでるだけだから」
「うん…」

ちょっとショックだった。
一松くんをそういう風に思う人ってほんとにいたんだな。
職務質問をよくされるなんて言ってたし…
でも一松くんはほんとに優しい人だもん。じゃなきゃ初めて会った人の猫探してあげるなんて言わないよ。
何だか早く一松くんの顔が見たくなってきた。
今日、ちょっとだけでも会えないかな。
少しだけジムに行く時間ずらして、連絡してみようかな。



「一松くん!ごめんね、待った?」
「全然」

連絡をしたら、本当に会ってくれることになった。
今日見つけたパワースポットを紹介する。「盲点だった」ってちょっとにやりとしてた。
しかも前電話で言ってたドリルちゃんを連れてきてくれた。
抱くと私の腕の中にうまく潜り込もうとするから笑ってしまう。

「狭いとこが好きなんだね」
「落ち着くんじゃない」

耳の後ろをかいてあげている一松くんは優しい目をしていて。

「…私、一松くんが周りからどんな目で見られてても気にしないからね」
「何急に」

脈絡もなく、口に出していた。
どう取り繕うか考えていると、「あー、前この辺りで同じこと言ってたね」と納得してくれた。

「思ったけど、杏里ちゃんって人を疑うことしないよね」
「え…」
「初めて会った時もだけど」

どういうことだろう。
次の言葉を待っていると、一松くんがゆっくり口を開く。

「俺が猫なんか探す気なくて、ナンパ目的で声かける奴だったらどうしてたの」
「…考えたことなかったよ」
「ほら。しかも連絡先教えちゃうし。どうすんの?俺が悪用したらさ」

一松くんが自嘲するみたいに少し笑う。

「でも、私は一松くんがそんなことする人には見えなかったんだもん」
「それぐらい非リア充に見えたってことね…」
「ち、違うよ、ほんとに…」
「………ありがと」

すごく小さい言葉で呟かれたそれを、私は聞き逃さなかった。

一松くんは私のこと、そのままでいいって言ってくれたけど、私だってそのままの一松くんが好きなんだよ。

まだ、この想いは口にできないけれど。


*前  次#


戻る