×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -



期待のこもった十二の瞳に見つめられて、夜ご飯作りを開始した。
私も一緒に食べていってくれていいと言ってもらえたので、全部で七人分。
私は少なめでいいとして…人数分のご飯が早く炊けるかどうかがちょっと心配だったけど、お母様がご飯だけは用意してくださっていたみたいで問題はなかった。
スーパーのお惣菜売り場にあったカツを玉子でとじて、冷蔵庫にあったいくつかの野菜と買ってきたごぼうサラダを合わせれば…

「こんなメニューでもいいかな?」
「全く問題ないよ!」
「杏里ちゃんまた約束守ってくれたね!」
「あ、ほんとだね。こんなに早く実行することになるとは思わなかったけど」

でもお惣菜頼りなんだけどね。

「なに十四松約束って」
「こないだ手料理作ってくれるって約束したんだー。一松兄さんが杏里ちゃんとこで夜ご飯食べたって聞いたから」
「は?おい何だそれ聞いてねーぞ一松!」
「チッ」
「あっ…もしかして僕に連絡くれた時か!」
「うわ、僕としたことが気付かなかったなんて…!」
「…余計なこと言いやがって」

一松くんが苦々しく呟く。
あの時連絡したって言ってたけど、理由は教えてなかったんだ。

「ねー杏里ちゃん、何か手伝うことある?」

トド松くんが横から覗きこんできた。

「えーとそうだなぁ…じゃあお野菜切ってくれる?」
「任せてっ!」
「出たなあざトッティ」
「これあれだろ?ろくに料理もできない女が落としたい男のいる前でだけ『あっ私手伝いますぅ〜』とかでしゃばってくるやつに近い」
「チョロ松って何気に女嫌いでもあるよな…でも分かるわ〜〜」
「ちょっ、そういうのじゃないってば!仮にそうだとしても手伝おうともしない兄さんたちよりマシだと思うけど?」
「ところで一松は何してんの?」
「話そらしやがった…」

おそ松くんの言葉に振り返ると、キッチンの床に正座してこっちを見つめている一松くんと目が合った。
隣に十四松くんも正座していて、小さく見える二人が何だか可愛い。

「何してるの?」
「杏里ちゃん見てる!ね、一松にーさん!」
「……うん」
「えっ、て、照れるんだけど…」

前に家でご飯食べた時は手伝ってくれてたけど、今はトド松くんがやってくれてるから大人しく待ってるのかな?
何にせよ、ずっと見られてると照れるなぁ…!

「こうして見るとね、おれの奥さんみたい!」

十四松くんがためらいもなく言うので、もっと照れた。

「…は?」
「あはは、一松にーさん顔怖いよー」
「十四松怖いもの知らずかよ…」
「一松をいじれるのは十四松だけかもしれんな」

後ろでみんなが話してるのを聞きながら、カツを玉子でとじていく。
トド松くんが切ってくれたにんじんやブロッコリーは温野菜にして…
よし、準備はできた。

「じゃあみんな、ご飯は自分の好きなだけ入れてね」
「「「「「「はーい」」」」」」

みんなのお母さんになったみたいで笑ってしまった。
でもどんぶりを片手に私の前に一列に並ぶみんなを見てると、お母さんってよりは給食のおばさんかも。ふふふ。
最後にサラダをテーブルの真ん中に置いて、食卓は整った。
いただきます、の声と共に速攻でなくなるカラ松くんと十四松くんのカツ。
サラダからちまちま食べているのはトド松くん。カロリー控えめで、って言ってたのはたぶんトド松くんなんだろうな。

「杏里ちゃんさっきからサラダしか食べてないけど、それだけ?」

チョロ松くんが「遠慮しなくていいよ」と言ってくれる。

「ありがとう、ちゃんとご飯も頂くよ。今度からジムに通い始めるから、栄養バランスとか考えることにしたの」
「杏里ちゃんもジム行くんだ!」
「え、『も』ってことはトド松くんも?」
「そうだよ〜!ちょっと体鍛えたくて」

聞くと、私の通うジムの姉妹店に行っているみたいだった。

「トド松くんと同じところにすれば良かったかなぁ」
「ねー!言ってくれたら紹介したのにー」
「でも杏里ちゃん痩せたいの?もう痩せるとこなくね?」
「そんなことないよ…筋肉だってついてないし」
「女の子は筋肉ついてなくていいよぉ、その方が可愛いよ。ね、一松兄さん」

トド松くんが一松くんに話を振ったから、ドキドキしながら反応をうかがった。

「うん」
「!ありがとう…」

わー!頷いてくれたよ!
わざわざジムに通うことなかったかな…いやいや、自分に自信をつけるためでもあるんだから。

「何か分かんないことあったら聞いてね?ジムに関しては僕の方が先輩だから」
「えへへ、頼もしいなトド松くん。ありがとう」
「あざとい…」
「何か言った?一松兄さん」
「別に」
「ごちそうさまでしたー!!おいしかった!!」
「ふふ、よかった」
「杏里ちゃんに毎日作りに来てほしいなーそしたら俺も仕事頑張れるってもんよ」
「お前の言う仕事はパチンコか競馬だろうが!」
「いやいや釣りも入ってるから」
「どれも仕事じゃねーよ!」
「素振りは!?」
「違う!」
「フッ、ケンシロウから男の生き様を学ぶ」
「違う!」
「猫カフェ」
「お前に関しては違う!聞いたぞ一松、猫カフェ一日でクビになったらしいな!」
「えっ、そうなの?一松くん猫好きなのに…?」
「ちゃ、ちゃんと仕事してたし…日向ぼっことか」
「日向ぼっこは猫の仕事だろうが!お前猫として雇われに行ったの!?」
「猫の素質あるのになー、一松は」
「うんうん」
「でも一松兄さんみたいな猫いても癒されないよね」
「うんうん」
「十四松お前どっちなんだよ!」

ほんと面白いなあ、おそ松くんたちって。
笑いすぎて楽しくて、もう一人でご飯食べれなくなっちゃいそう。

作った物は綺麗になくなった。私もおなかいっぱい。
片付けは俺らがやるからいいよと言ってくれたので、ごちそうさまでしたと言って席を立った。

「今日はありがとう、杏里ちゃん」
「ううん、こちらこそ」
「よし、じゃんけんしよーぜ」
「何の?」
「この中の一人が片付けで、残りは杏里ちゃんを送るってことで」
「は!?何その不平等じゃんけん!」
「意味分かんないし…」
「六分の五に入りゃいいだけだろ?」
「兄貴は根っからのギャンブラーだな」
「それで何回泣きを見たことやら…」
「はーいやるよー、じゃーんけーん」
「おそ松兄さん五百円あげる」
「えっマジでやっりぃ!!」
「ぽんっ」

五百円玉を握りしめたままのおそ松くんと、パーを出した五人。
思わず吹き出してしまった。

「あーっ!一松てめぇぇぇ!はめやがったな!!」
「片付けの報酬を先に渡しただけ」
「それで五百円かよ安いよ!」
「はいは〜い敗者はキッチンへどうぞ〜」
「言い出しっぺはおそ松兄さんだからね、ちゃんとやってね七人分」
「フッ…遠くから見守ってやるからな…」
「じゃーねおそ松兄さんばいばーい!」
「お前ら後で覚えとけよ…!!」

怒りで震えてるおそ松くんを置いて、五人に押し出されて外に出てきた。

「ちょっと可哀想かも…」
「杏里ちゃん優しいな〜。でもおそ松兄さんの普段のクズっぷりを知ったら、同情なんてするだけ損だよ」
「あのクズ普通にトランプで遊んでる時すらイカサマしてくるからね。これぐらいやり返したってバチは当たんないって」
「自ら課したルールに縛られるとは…哀れな男だ」
「がんばれー!おそ松にーさーん!」
「行こう杏里ちゃん」

一松くんの言葉で家の前を離れた。
後でおそ松くんに片付けありがとうってメールしとこう。

「杏里ちゃんっていつもああやって自炊してるんだね、偉いよね」
「そんなことないよ、お惣菜そのまま使っただけだし…チョロ松くんにもできるよ」
「ぼくカップ麺作れるよ!」
「それ料理って言わないよ、十四松兄さん」
「ええっマジでー!?」
「そうだったのか…!」
「ねえ何でカラ松兄さんまでショック受けてんの?料理だと思ってたの?ほんとイタいんだけど」

だからあの時ちょっと得意げだったんだ!
カラ松くんとの会話を思い出して少し笑った。

「ほら、杏里ちゃんにも笑われてる」
「えっ」
「ち、違うよ違うよ」

カラ松くんが悲しそうな顔をしたので急いで否定した。
カラ松くんもけっこう打たれ弱い気がするから、傷つけないようにしなきゃ。

「ねーねー、ジム行って何すんの?」
「えっと、筋トレとかかな」
「野球したらムキムキになれるよ!」
「む、ムキムキまでは望んでないかなぁ…」
「やめろよ十四松、ムキムキの杏里ちゃんとか見たくないよ」
「そのままでいいのに」

一松くんの呟きが耳に入ってきてドキッとする。
そのままでいいって思ってくれてるんだ。嬉しい。
でももう申し込みしちゃったし、適度に運動するぐらいにしとこう。

「みんなは何か運動とかしてるの?十四松くんは野球で、トド松くんはジムだよね」
「僕、朝はランニングもしてるよ」
「わ、偉い!健康的だね」
「えへへ…」
「どうせランニング女子と知り合いたいだけでしょ」
「そういえばトド松がランニング始めたのって『ランニング女子が増えてる』ってニュース特集やってたの見てからだよな」
「ふ、浅はかだね…」
「な、何もう!やらない善よりやる偽善なんだからねっ!」
「意味が分からん」
「もうその怒り方があざといんだよ」
「うんざり」
「え〜ん杏里ちゃ〜ん」

トド松くんが泣きそうになりながら私の陰に隠れた。

「あ、きたねーぞお前!」
「僕なんか間違ったこと言ってる?言ってないよね!チョロ松兄さんこそ、アイドルライブでオタ芸やってんのを運動の範疇に入れてたりしないよねぇ?」
「バカオタ芸なめんなよ!あれ超筋肉使うんだからな!ハードなエクササイズみたいなもんだから!」
「か、カラ松くんは?何かやってる?」

チョロ松くんとトド松くんが二人で口ゲンカを始めてしまったので、話題を変えてみた。
カラ松くんは意味ありげに笑った。

「何もせずとも、俺はいつでもパーフェクトボディ「「黙ってろカラ松!!」」

ああ、とばっちりが…!
私のせいかな…

「そーいえば一松兄さん、最近腹筋しないねー」
「え」
「そういえば腹筋やってるって言ってたね、やめちゃったの?」
「ああ…まあ…俺そういうのやっぱ向いてないし…」
「そっか、じゃあこの触り心地は維持されたわけだね!」

一松くんのお腹をふにふにと触る。
こういう話題の時でもないと、一松くんに自然に触れないから。

「べ、別に維持したいとかじゃないし…」
「「「「あー」」」」

四人が何だか納得したような声を同時に上げた。
すごい、やっぱり六つ子だなぁ。


*前  次#


戻る