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杏里ちゃんの大学の前にあるコンビニの脇。猫の溜まり場。
そこが俺の定位置になりつつある。
前までは杏里ちゃんが一日休みの水曜日にしか会ってなかったけど、最近は何曜日でもこうやって杏里ちゃんの授業が終わるのを待つようになった。
杏里ちゃんが猫と同じぐらい俺の日常の中に組み込まれている。
人と関わるなんて面倒だと思っていたはずなのに、こういうのも悪くないと受け入れてしまっている自分がいる。多分、相手が杏里ちゃんじゃなきゃ思わなかっただろうけど。
校門から大勢の学生が出てきた。授業が終わったんだろう。杏里ちゃんが出てくるまで五分くらいか。
猫が足元にすり寄ってきた。お前ももうすぐ杏里ちゃんに会えるぞ。

「あのっ、すみません…」

今俺に声かけられた?
見ると知らない女の子が一人こっちに近付いてくる。やっぱ俺にか。

「何?」
「あの、よくこの辺いらっしゃいますよね」
「そうだけど」

目障りとかですか。言われ慣れてます。

「前一度お話したことあるんですけど覚えてません…よね?」
「…あー、前二人で来た?」
「は、はいそうです!えと、その、あれから見かける度に気になってて…」
「はあ」
「あのっ、もし良かったら連絡下さい!」

二つ折りのメモを渡された。何だこれ。

「そ、それじゃ、失礼します!」

女の子は去っていった。
何なんだこれ。
メモを開くと、あだ名らしき名前の横に謎のアルファベットの文字列が書いてあった。
メールアドレス…か?見知らぬ人に何を連絡すりゃいいんだよ。
宗教の勧誘にしちゃパンフレットもなかったし。新手のマルチか?
まあいいか。良かったら連絡下さい、だから別に連絡しなくたっていいわけだ。面倒なことに首は突っ込まないでおこう。

「一松くん、お待たせ」
「あ、杏里ちゃん」

来ましたよ俺のヒロインが。
しかし杏里ちゃんはすぐに膝をついて俺の足元でじゃれてた猫を構い始めた。俺二番手ですか。別にいいけどね。

「この子最近よく見る子だね」
「あー、最近ボスになったらしいよ」
「へえー、強いんだね君!」

にゃーじゃねぇよ。いい加減杏里ちゃん返してくんない?
俺の心の声が通じたのかどうなのか、杏里ちゃんがやっと立ち上がってくれた。

「あれ、一松くん何そのメモ」
「さっきもらった」
「もらった…?え、見ていいの?」
「うん、別にいいんじゃない」

他人の俺にいきなり個人情報渡すぐらいだし。
杏里ちゃんにメモを渡すと、一瞬目を見開いて、どんどん暗い顔になっていった。やっぱり大学近辺で流行ってるマルチか何かか。

「これ、女の子から…だよね」
「うん」
「知ってる子なの?」
「全然。…あー、一回ここいる時に話しかけられた」
「…そっ、か」

マルチはどうでもいいけど杏里ちゃんが何となくしんどそうなのが気になる。

「杏里ちゃん大丈夫?何かしんどそう」
「え!あ、ううん!何でもないよ!それより、一松くんこの人に連絡するの…?」
「え、何で。知らない人だよ」
「そ、そうだけど…多分これ告白じゃないかな」
「………え?」

俺が?さっき告白されてたの?女の子から?ウケるんですけど。

は???

「告白になるのこれ」
「そうだと思うよ。良かったら連絡ください、とか言われたんじゃない?」
「ああ…言われたそれ」
「だよね…だから多分その人、一松くんのこと、好きなんじゃない、かな……」

マジで?会話なんかほんの少ししかしてないのに?そんなことあんの?俺が見た目だけで惚れられるということが??

「そりゃないんじゃない」
「そうかな…」
「どう見ても一目惚れとかされるような人相じゃないでしょ俺」
「そんなことないよ。一松くん、かっこいいもん…」

今の発言は頭の中にしっかり録音した。後で何回もリピート再生しよう。母さんありがとうこの顔に産んでくれて。
え、ちょっと待った俺がかっこいいってことはあいつらも同様にかっこいいってことか?

「杏里ちゃんは俺達六つ子全員かっこいいと思ってんの?」
「どっちかって言うとかっこいいと思うよ」

ふざけんなよ六つ子なんかに産んでくれやがって。こうなったらマジで他と差つけないと。まずはクソ長男でも沈めとくか…

「だ、だから、連絡するのかなって思って…一松くんのこと好きって思ってくれてる人がいるんだよ?」
「えー、さあね…どうしよう」
「あ…ごめん、連絡するかどうかなんて一松くんの自由だもんね…」
「いや、別にいいけど」

正直どうでもいい。それより杏里ちゃん何か元気ないし。早く猫と遊ばせてあげないと。

「とりあえず猫んとこ行こう」
「う、うん…」

色々なパワースポットに連れて行ったけど、杏里ちゃんは何となく元気のないままその日は別れた。
何かあったのかな学校で。俺には言えないこと?そりゃ学生じゃないから頼りにならないかもしれないけど。今度どっかの教室潜り込んでやろうか。

「ただいま」

杏里ちゃんに直接聞いてみるか?でも「一松くんには関係ないから」とか言われたら心折れる。それでも力にはなりたい。一体どうすれば。

「あれ?一松、何か落ちたよ」

チョロ松兄さんが俺の側から何かを拾いあげた。ああさっきのメモか。

「何これ…連絡先?」
「えっなになに?一松兄さんもらったの?」
「うん」
「マジで!?」
「なっ…ちょっ…はぁぁ!?」
「誰にだ!答えろ一松!」
「このメモの感じからして完全に女の子だな…」
「可愛かった!?」
「うるせぇ…」

みんなが周りで騒ぐから考え事もできない。

「どういうこと?どういう経緯でもらったの?」
「大学の前で杏里ちゃん待ってたらもらった」
「俺明日から大学行こう…!」
「にしても何で一松兄さんなわけ?大学っつったらもっと他にマシなのいるでしょ」
「ああ?」
「リア充の空気にあてられて一松自身もリア充のオーラを纏うようになったんじゃないか?」
「カラ松の言うこともあながち間違いじゃないかもね。ただでさえ杏里ちゃんと一緒にいることでリア充感が増してたんだから」
「一松が声かけられたんだったら俺たちでも全く問題ねぇってことだよな!?よし明日は大学前で張り込もうぜ!」
「おー!!」
「お前らリア充感のくだり聞いてた?」

何か盛り上がってんな。勝手にやってください。
杏里ちゃんのことが心配すぎてため息が出た。

「なんか一松兄さんナーバスだね。嬉しくないの?」
「別に…どうでもいい」
「うっ…こ、これがリア充の余裕ってやつなのか…!?」
「一松が…あんなに濁った目をしてリア充を憎んでいた一松が遠くに行ってしまった…!」
「だってさぁ、大学だよ?リア充で溢れかえってる場所にずっといてんのにわざわざ俺に声かける人とかちょっと地雷っぽくない?」
「卑屈すぎて相手にも失礼だぞお前…」
「ていうか僕さっき同じようなこと言ったよね」
「だったら杏里ちゃんはどうなんだよ」
「杏里ちゃんの時は俺じゃなくて猫が先だったし」
「何その言い訳」

チョロ松兄さんが呆れた様子で就職情報紙を読み始め、おそ松兄さんたちが逆ナンパ計画を立てに行ったのでやっと一人になれた……と思ったらトド松は俺のところに残った。
ああ、考えてみりゃこいつは杏里ちゃんの友達と普通に仲良くなってたな。

「ねえ一松兄さん、杏里ちゃんはこのこと知ってるの?」
「うん」
「うわー…」

何でお前までため息つくんだよ。

「杏里ちゃんにはなんて言ったの?」
「普通に…それより何か元気なかったし」
「あーあ…」
「…何だよさっきから」
「べつにー」

ムカつく。何かを見透かしてるみたいなトド松の態度が。

「一つだけアドバイスしてあげる。杏里ちゃんが好きなら他の女の子に目向けない方がいいよ」
「……は……は?べ、べべべべ別に好きじゃないんですけど?」
「この期に及んでその反応!?中学生かよ!もうバレバレなんだよ!」
「え、ま…マジで?え…杏里ちゃんにも…?」
「杏里ちゃんは全く気付いてないよ」
「チッんだよ不安にさせんじゃねーよ!!」
「一松兄さんの情緒が不安だよこっちは!」

あーマジでビビった。
で何他の女の子に目向けるなって。向けてないけど。向けてねーのにあっちから来たし。

「それが杏里ちゃんが元気ないのと何か関係あんの?」
「一松兄さんってほんと童貞だよね…」
「は?お前もじゃん」
「僕はみんなよりも女の子の気持ち分かってるつもりだもーん」
「あざといだけだっつーのに」
「言ったなトッティ!んじゃ明日の逆ナンメンバーにお前も入れとくからな!即戦力として頑張ってくれ!」
「はぁ!?行くなんて言ってないんですけど!?つか逆ナンの即戦力って何!?ただ待つだけでしょ!?」
「待ち方すら分かんねーんだよお兄ちゃんたちはさぁ」
「素振りしてればいい?」
「弾き語りでもするか…」
「白い目で見られてろバカ共」

あー意味分かんね。
他の女の子に目向けるな、ね…
どっちにしろ杏里ちゃんのことしか考える余裕はない。杏里ちゃんに何があったのか聞くか、聞かないか。たったそれだけで頭の中が埋め尽くされるぐらい。
部屋の隅で体育座りをしたら親友が足と腹の隙間に入り込んできた。狭いところに無理やり体をねじ込ませようとするからくすぐったいしアホみたいだしで思わずにやついてしまった。お前冒険家かよ。
今の杏里ちゃんが見たらすっげー笑ってくれるんだろうな。

………。



「あ、もしもし…杏里ちゃん?」
『一松くん、どうしたの?』
「あ…あのさ、今…猫が体育座りしてる俺の足と腹の隙間に無理やり入り込んできて、ドリルみたいになってんだよね………それだけ、なんだけど」
『……っ、あはははっ、な、何それ…!』
「わりと痛い」
『あははははっ、あー見たいなーそれ!私もやってほしい!やってくれるかな?』
「教えとく」
『やったー!ふふふ』
「また家来なよ。ドリルが待ってる」
『ドリルって名前になっちゃったの?もう…ふふふっ、面白すぎる…!』
「…元気出た?」
『え?』
「なんか、元気ないみたいに見えたから、今日」
『…』
「勘違いだったらごめん」
『…ううん。元気出たよ!ありがとう』
「…そう。なら、いいけど…」
『ドリルちゃん今どうしてる?』
「完全に俺の体の一部にしてやったよ」
『一松くんにドリルが装備されたんだ!あははは』
「マジ無敵だから今の俺」
『一松くんの完全体見たいなぁ』
「じゃあ後で写真送る」
『ほんと?やった!楽しみにしてるね!』
「うん」


それから、最近の十四松の奇行やカラ松のオリジナルソングの痛さや明日逆ナンされに行こうとしてる無謀な男共の話をした。すごく笑ってくれた。
俺にできることなんてこれぐらい。
杏里ちゃんの周りにはこれぐらいのことすらできない男ばっかでありますように。


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