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三千回の素振り終ーわり!帰ろー!お腹すいた!
バットを持って家に帰る途中、前の方に知ってる人を見つけた。
杏里ちゃんだ。
一人だ。学校の帰りかな?

「杏里ちゃーん!」

走って隣に行ったらびっくりしてた。

「あ、十四松くん!偶然だね、野球の帰り?」
「うん!三千回素振りしてきたとこ!」
「さ、三千回…?」
「杏里ちゃんどこ行くの?」
「ちょうど良かった、今から十四松くんたちの家に行くところだったんだ」
「うち?何で?」
「この前、お菓子作ったら持って行くねって約束したでしょ?ちょっと遅くなっちゃったけど、作ったから持って行くとこだったんだ」
「てことは…」

さっきからいい匂いしてると思ってたんだ!
杏里ちゃんが持ってる紙袋の中にタッパーが見える。

「何これ!何これ!ケーキ!?」
「うん、そうだよ。ガトーショコラ」
「何それ!?うまい!?」
「ふふふ、だといいんだけど」
「絶対うまいよ!だっていい匂いするもん!」

がとう?聞いたことないけどおいしそー!
今食べたいなー。腹減ってるし。

「今食べていい?」
「いいよ…あ、待って。十四松くん手汚れてるからこれ使って」

杏里ちゃんがつまようじを出してくれた。
用意がいいね!

「ありがとう!」
「タッパーに小分けにしたの。これ十四松くんの分ね」
「えっこんなに!?いーの!?」
「うん、どうぞ」
「うまー!!宝石箱の玉手箱やー!!」
「あははは、何それ」

いやほんとにめっちゃうまいよ!!
気がついたら全部食ってた。

「ごちそうさまでした!」
「どういたしまして」
「これ一松兄さんにもあげたの?」
「うん、この間一緒に作ったよ」
「えー一松にーさんそんなこと言ってなかったなー」
「そうなんだ?」
「うん。あ分かった、この前遅く帰ってきた時のだ!」
「ああそうかも。帰ったの九時頃だったかな?夕ご飯も一緒に食べたから」
「えーっ!?マジで!?あ、だから夕飯いらないって言ってたんだ!」

うわー何それ何それ!いーいなー!

「杏里ちゃんのご飯食べたかったなー」
「えへへ、でもそんな大した物は作れないよ」
「あ、ねーねー、じゃあ今日うち来て何か作ってよ」
「ええっ、それは…もうお母様が作ってらっしゃるんじゃないかな」
「あーそうかも。じゃまた今度!」
「うん。また今度」

楽しみー!杏里ちゃん何作ってくれんのかなー。
あー考えてたらもっと腹減ってきた!

「今日はうちでご飯食べてかないの?」
「うん、この後大学の友達とご飯行く約束してるから」
「なんだ、そっかー」

一松兄さんもがっかりすると思うなー。

「そういえば一松くんは今日何してるのかな」
「え?何してんだろーね?」
「あんまりそういうの聞いたりしないんだね」
「うん、めったに聞かないかも。ぼくたちあんまりお互いのことよく知らないんだー」
「え…そうなの?みんな仲良さそうだけど」
「仲はたぶんいいよ!でもまだ知らないこといっぱいあるんだー。あ、この前おそ松兄さんに『お前が一番謎』って言われた」
「十四松くんが一番ミステリアスなんだ。ふふ、意外かも」
「ぼくも意外!」

自分じゃ全然分っかんないもん。

「でも一松兄さんは分かりやすいよ。ひねくれてるだけで」
「一松くんひねくれてるかな?前自分でも言ってたけど、私はあんまりそうは思わないんだよね」
「え、マジで?」
「うん。…もしかして、まだそんなに心を開いてくれてないからかな」
「そんなことないよ絶対!一松にーさん杏里ちゃんの前ですっげーデレデレしてるから!」
「デレデレ?」
「うん!すっごい大人しいし、危険人物みたいじゃなくなる!」
「あははは、みんなの前での一松くんって危険人物なの?」
「闇を抱えてるからね!」
「闇…?」

杏里ちゃんあんまりピンと来てないみたい。
それぐらい一松兄さんが杏里ちゃんの前で自分を頑張ってコントロールしてるってことだよね?
人間の友達ができてよかったね!一松兄さん!

「そっかぁ。デレデレ、してるのかなぁ…いつもクールな印象なんだけど」
「あークールはクールかもねー」
「うん。あの目とか」
「目?」
「何て言うか、物事を冷静に見てそうな感じ」
「ぼくには視線で人殺しそうに見えるよ!」
「ふふふっ、そんなに怖い目してる時があるんだ」

わりといつもだけど!
杏里ちゃんはそう見えないんだ。

「あ、一松兄さんの予定だったら、杏里ちゃんの方がよく知ってるんじゃない?」
「え、どうして?」
「最近一松兄さん杏里ちゃんとばっかり遊んでると思う」
「そうなの?」
「いっつも大学まで行ってるんでしょ?こないだ大学のけーびいんと喋ったって言ってたよ」
「あ、言ってた言ってた。自宅警備員やってますって言ったら苦笑いされたって」

杏里ちゃんが笑った。

「一松くんてほんと面白いよね」
「うん、面白いよねー」

杏里ちゃんといる時の一松兄さんはめっちゃ面白いよ!
でもこれ言っていーのかなー。
なんか後で一松兄さんに怒られそー。
あ、家着いた。

「ただいマッスルマッスルー!杏里ちゃん来たよー!」
「お邪魔します」
「っあ、杏里ちゃん…!?」

ほら、いつもならこんなにガタガタ慌てて出てこないもん。

「あ〜杏里ちゃんだ!久しぶり〜!」
「なになに?俺に会いに来てくれたの?」
「バカ言うのやめろよ、後で怖いぞ」
「杏里ちゃんがね、みんなにお菓子作ってきてくれたんだって!約束したやつ!」
「……は…?約束って何」
「ちょっおまバカ十四松!」

おそ松兄さんにぐわっと胸つかまれて隅っこに追いやられた。
ぼくなんか言った?

「十四松ー?あれは内緒にしとこうなってことになってただろ?」
「え?」
「そうだよ十四松兄さん!バカ正直に言ったって変に勘ぐられるんだから黙っとくのが得策なのに!」
「隠し事ができないのがお前の美徳でもあるが…」
「ああ…何で十四松と一緒に来ちゃったんだ杏里ちゃん…!」
「え?」

なんかみんなしょげてる。
その後ろで一松兄さんが杏里ちゃんから紙袋をもらってた。

「これ?」
「そう、こないだみんなに作るねって約束したやつで…あ、そっか一松くんその時寝てたんだ」
「ああ…なるほどね」
「一松くんに作ったのと同じのだよ」
「ふーん…分かった、ありがとう杏里ちゃん」
「うん。みんなで食べてね」

笑顔でぼくたちを振り返った杏里ちゃん。あっ後ろ後ろ!人殺しそうな一松兄さんになってるよ!
あーあ、おそ松兄さんたち固まっちゃった。

「杏里ちゃん今日はこれだけ?」
「うん。これから友達とご飯食べに行くんだ」
「…へえ…男?」
「ううん、女の子」
「そう。時間大丈夫?」
「あ、そうだ。もうすぐ待ち合わせなんだ。じゃあね、お邪魔しました!」
「またね」
「ばいばーい!!」

手を振ったら杏里ちゃんもばいばいしてくれた。
ドアが閉まった瞬間に一松兄さんが闇松兄さんになった。

「…」
「ちっ…違うって!杏里ちゃんもいいよっつってくれたんだって!」
「…」
「そ、そうだよ一松、決してお前を出し抜こうとかそういうんじゃなくてほらその時お腹空いてたからつい!言ってみちゃったらオッケーしてくれたってだけだから!」
「…」
「とりあえず落ち着こうかブラザー!俺達はお前の敵ではない!」
「…」
「ていうか一松兄さんがそんなにキレる権利なくない!?杏里ちゃんの彼氏でもないのにさ、僕らと同じ友達ってだけでしょ!」
「バカトド松それ地雷だって!!」

闇松兄さんが猫松兄さんになった。
紙袋抱えて二階行っちゃった。はえー!

「ああ〜〜〜〜!!一松様ごめんなさい!!」
「お前は俺達より確実に一歩、いや百歩は進んでいる!!」
「一松様!!どうかお恵みを!!」
「一欠片でもいいんです一松様ー!!」
「わ〜〜〜〜い!!」

なんか面白そうな予感がしたからみんなの後について二階に行った。
部屋に入ったら一松兄さんが上の棚に飛び乗ってみんなを威嚇してた。

「この愚弟の吐いた言葉はどうかお忘れを…!!」
「一松様後生ですだ…わしら女子の作った物を一生にいっぺんでも食うてみたいのです…!!」
「一松様!!」
「一松様!!」

このシーンなんか風邪引いてる時に見た気がする。
気のせいかな?

「おい十四松!お前も早く一松様の前にひれ伏すんだ!」
「え、おれもう食べたよ」
「裏切り者めが!!」
「一松様〜〜どうか気をお静めください〜〜〜」

一松兄さんになんか色々と捧げ物をし始めた。
ぼくも一応聖澤庄之助をお供えした。
でも一松兄さんは下りてこない。
みんながしくしく泣き始めた。うーん、ちょっとかわいそうだよね。

「ねー一松にーさん」
「…」
「それ杏里ちゃんがみんなに作ったやつだよ」
「…」
「一松兄さんのせいでみんなに食べてもらえなかったって知ったら杏里ちゃん悲しむよ」
「…!」
「おお、効いたぞ…!」
「その手があったか、やるな十四松!」

一松兄さんはものすごく葛藤してた。
でもついに猫モードをやめてくれた。

「一噛み一噛み感謝して味わいながら食えよ豚野郎共!」
「ありがとうございます!!」
「ありがとうございます!!」

やっぱりこのシーン見たことある!
みんながとうを食べれてよかったなと思ってたら、一松兄さんが来て「何話してたの」って聞いてきた。

「え、誰と?」
「とぼけんじゃねぇ」
「一松兄さんの話してたよ!」
「え」
「それしかしなかった!」
「…」

一松兄さんは黙ったけど闇が消えた気がする。
杏里ちゃんってすごいなー!

「お、俺の、何の話」
「えーとね、杏里ちゃんは一松兄さんがクールだって言ってた」
「クール…」
「ぼくは人殺しそうって言ったんだけどね!」

無言でサソリ固めされたんだけど!ギブギブ!!


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