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友達の誘いを断れなくて苦手な合コンに参加することになってしまったその日。
トド松くんたちと別れた後、一松くんといつもの野良猫スポットを回ってから家に帰ったら、着信が来ていたのに気が付いた。
トド松くんからだった。すぐにかけ直してみる。

『あ、杏里ちゃん?』
「トド松くん、ごめんね気付かなくて…」
『ううん、いいよ!それでね、杏里ちゃんにちょっとお願いがあって…』

急に小声になったトド松くんに合わせて私の声も小さくなる。

「なに?」
『あのね…僕春香ちゃんにフリーターって言っちゃったんだよね。本当はニートやってるって言えなくて…』
「ああ、みんな気にしてるんだね。一松くんも気にしてたし」
『うん…だからね、僕らフリーターってことで話合わせてもらいたいなーって』
「うん、分かった。あの、六つ子ってことも黙ってた方がいいの?」
『うん、できれば。六つ子なんて言うとさ、話題が全部そっちに持ってかれちゃうでしょ?みんなと色んなこと話したいしさ…後、他の兄さんたちにも合コンのこと黙っといてもらえると嬉しいなーなんて』
「なるほどね。確かに、六つ子ってだけでそっちが気になっちゃうもんね。分かったよ」
『分かってくれる?杏里ちゃん優しいなぁーありがとう!それじゃ、当日は一松兄さんと一緒に行くからね』

じゃあね、と言って電話は切れた。
合コン、少し気は重かったけど、一松くんも来るなら楽しめるかな。
…なんて思おうとしてみたけど、まだ胸の中がざわついてる。
理由は分かってる。苦手だからってわけじゃない。
一松くんも合コンに来るって思わなかったから。
一緒の場にいれるのは嬉しいけど、合コンって基本的には出会いを求めてる人が行くところ、だよね。
一松くんは彼女欲しいのかな、って思ったら。
どうしよう。一松くんと一緒にいたいけど、他の女の子と仲良くなってるところ、あんまり見たくない。
やだな。私彼女でも何でもないのに。こんなこと考えたってしょうがないのに。



当日待ち合わせ場所に行くと、春香の他に同じ大学の友達が、男の子一人と女の子二人。後は全員知らない人だった。

「杏里、こっちこっち!」

春香に呼ばれて自己紹介をする。
知らない人たちは、春香がサークル活動を通じて知り合った別の大学の学生らしい。
そういえばトド松くんと春香はどうやって知り合ったんだろう?
と考えていると「お待たせー」と声がして、トド松くんと一松くんが来た。
トド松くんはすごくおしゃれな服を着てるけど、一松くんはいつも通りだ。なんかほっとした。

「一松くん」

駆け寄ると、「久しぶり」と返してくれた。

「杏里ちゃん気合い入ってるね」
「え?そうかな…」

本当に食事のためだけに来たけど、何となく他の子に負けたくなくてそれなりにおしゃれをしてきてしまった。
それが一松くんの目に留まったのは、ちょっと嬉しい。
でも一松くんはどういう思いで来たのかな。
私ばかり話しかけたら、迷惑になっちゃうかな。
なんて考えていたらあまり話せなくて、春香に呼ばれるままにお店に入った。

乾杯をして、改めて自己紹介をして。
私はお酒も飲まず本当にご飯を食べているだけで、周りのみんなの話に時々交ざらせてもらうぐらい。
春香が私はただの数合わせだからとみんなに断ってくれたらしくて、気まずい雰囲気にはならなかった。

「杏里ちゃんが合コン来ると思わなかったなー」

だいぶ時間が経ってみんなもお酒が回ってきた頃、同じ大学の男友達が話しかけてきた。

「うん、でも今回は食べるだけでいいって言われたから」
「そっか。あのさっきの人とは友達なの?」
「さっきの人?ああ、一松くん?うんそうだよ」
「へぇー、なんか変わってる人だね」
「そうかな?」
「うん、だって合コン来てるのにあっちで一人でずっと飲んでるから」
「え」

親指でくい、と指された方を見ると、盛り上がっているテーブルから離れた隅の方で一人、お酒を飲んでいる一松くんがいた。

「大丈夫かな…」
「結構前からあんな感じだったよ」
「私ちょっと見てくる」

席を離れて一松くんのそばへ行った。
隣に座っても、私には気付いてないみたいで日本酒をコップに注いでいる。

「一松くん…?」

声をかけると、やっと気付いたのかゆっくり振り向いた。

「あ、杏里ちゃん…」
「わ」

思わず声を上げてしまった。
いつもの少し眠そうでクールな印象が潜んでしまって、まるでおそ松くんみたいな柔らかい笑顔をしていたから。
か、可愛い…!
こんな顔もできるんだ一松くん…!
写真撮りたい…!!

「杏里ちゃんだー」
「!う、うん。杏里だよ」
「みんなと話さなくていいの?」
「うん、一松くんが気になっちゃって。一人だったから」
「んー。ひとりで飲んでた」

そう言って注いだお酒を飲み干そうとする。

「ま、待って一松くん。そんなに飲んで大丈夫?」
「うん、だいじょうぶー」
「待った待った!大丈夫じゃないよ一松兄さん!」

後ろから手が伸びてきて、一松くんからコップと瓶を取り上げた。

「あー」
「あーじゃないよ!もう、お酒弱いのにこんなに飲んじゃって…」
「トド松くん…一松くんってお酒弱かったんだ」
「そう。で結局、カラ松兄さんに抱えられて帰るんだから…ごめん杏里ちゃん、一松兄さんのこと頼んでもいいかな?」
「うん、任せて」
「大人しいと思うけど、何かあったら僕呼んで」

トド松くんはこれ以上飲んじゃだめだよと言って、元の席に戻っていった。
後には、私と一松くんの二人だけ。

「一松くん」
「なに?」
「お酒弱かったんだね」
「よわくないよー」
「ふふふ、もうその話し方が弱いって言ってるようなもんだよ」
「杏里ちゃん」

私の話を聞いてるのか聞いてないのか、一松くんがふにゃりと笑う。
わー!可愛いよぉ…!

「杏里ちゃんって見れば見るほどかわいいよねー」
「えっ!あ、う…ありがとう…」
「かわいいなぁ」

机にこてんと頭をのせる一松くん。半分寝かけてるみたい。

「杏里ちゃんなんで合コン来たの」
「え?友達に誘われたから」
「ふーん。彼氏ほしい?」
「うーん、どうかな…」

相手が一松くんなら、欲しいけど。

「一松くんは?合コン来たのにみんなと喋らなくていいの?」
「きょうみない。杏里ちゃんが行くっていうから来ただけ」
「私が?」
「うん」

えー!どうしよう!
すごく可愛いこと言ってるよ一松くん!
にやにやを隠すように両手でほっぺたを抑えたら、一松くんがまたふにゃっと笑った。

「そういえばチビ太さんが一松くんはお酒飲むと変わるって言ってたっけ」
「変わる?」
「うん。印象変わる」
「どっちがいい?」
「え?」
「いつものと今とどっちがいい?」

そう聞かれて思い出したのは、前に一松くんがおそ松くんたちを指して「あいつらみたいに明るくない」と言ったことだった。
一松くんは、兄弟と自分を比べて普段から気にしてるところがあるのかもしれない。

「私はどっちの一松くんも好きだよ」
「…そっかぁ」

一松くんが嬉しそうに笑った。
そして、何かを掴むように手を伸ばした。

「あれ…酒がない…」
「お酒はもうだめだよ、トド松くんにも言われたでしょ」
「んー…」
「一松兄さん、もうお開きだから」

トド松くんが一松くんの肩を叩いた。

「あ、もうお開きなんだ」
「うん、杏里ちゃんありがとう。一松兄さんも杏里ちゃんが相手してくれて良かったと思うよ」
「ううん、私ただ話してただけだし」
「…もうかえるの」
「そうだよ、ほら立って」

トド松くんに寄りかかって今にも寝そうな一松くんが可愛くてこっそり笑った。
今日もまた、一松くんの意外な一面が見れたなぁ。


みんなでお店の外に出る。
私が一松くんと話してる間に二次会の話が出ていたみたいで、春香に「杏里はどうする?」と聞かれた。

「えっと、私は…」
「行こうよ杏里ちゃん、ただでさえ滅多に合コンとか来ないのにさー」
「うーん…」

どうしようかな…
でも他の学校の人たちとあまり話せてないし、行っても気を遣っちゃうな。

「ごめん、私やめておくね」
「えー、行こうよ」
「こら、無理に誘わない。トド松くんはどうする?」
「うー…行きたいんだけど…」

と、トド松くんに抱き付いてるような一松くんをちらっと見た。

「あー、お兄さん心配だもんね」
「ていうかお兄さん可愛いよね!仲良しって感じ!」
「えへへ、そうかなぁ…てわけでごめんね、僕らもパス。本当は行きたいけど…」
「いいよ、また遊ぼ?」
「うん、約束ね。それじゃ一松兄さん、帰ろう」

トド松くんに声をかけられた一松くんは、ゆっくり顔を上げた。
うろうろと視線をさ迷わせていたけど、私を見た時にぴたりと止まった。

「あ、ちょっと兄さん、家はそっちじゃないよ」

トド松くんが言うのも聞かず、私の方にふらふらと歩いてきた。

「一松くん?」

私の目の前で止まった一松くんは、私の右手の指をそっと握った。
触れられたところから、じわじわと温かい体温が伝わってくる。

「え…」
「おくる」

一松くんはそれだけ言って、指を絡ませたまま歩き出した。

「あっちょっ、ちょっと一松兄さん!待って!」
「うわー!超積極的じゃん!」
「杏里お幸せにー!」

お酒でふわふわした友達の声が聞こえてくるけど、私はそれどころじゃなかった。
さっきまでは可愛くて和んでたのに、急にこんな強引なのとか、ずるいよ…!
斜め前を歩く一松くんをそっと見上げる。
お酒で赤くなった顔は、表情がいつもより柔らかくて。
あああ、ドキドキする…!

「もう、一松兄さんってば…」

隣に追ってきたトド松くんが並んだ。

「あ、トド松くん。ごめんね、先にトド松くんたちの家行こうか?」
「いいよ、一松兄さんの好きにさせるから」
「トド松くん優しいね」
「一松兄さんのおかげで仲良し可愛いとか言われてちょっと株上がったっぽいし、これぐらいはねー」

トド松くんも何だかんだで機嫌が良さそう。

「ならいいんだけど」
「こうして見ると一松兄さんと杏里ちゃん、本当にカップルみたいだねー」
「え…」

忘れかけてた指の感覚が戻ってきて、そこだけ燃えるように熱くなった。

「そ、そんな」
「ねー一松兄さん」
「………」

トド松くんに後ろから声をかけられて一松くんは黙ってた。
ちょっとだけ、表情が険しくなった気がした。

「…付き合えるわけない」
「またまたー」

トド松くんは笑ったけど、私は胸に小さいトゲが刺さったような感じを覚えた。
それは、どういう意味なんだろう。
私じゃ、一松くんの彼女にはなれないのかな。

ちょっとだけ繋がれた指に力を込めてみたら、少し間を置いてから握り返してくれた。
言葉は交わしていないのに、私の求めているものを分かってくれているようで。
うん。
今は、これだけでいい。

いいよね。


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