夢小説「La mia utopia」 | ナノ


▼ 06

「イルーゾォ…てめぇ何してんだ?あぁ?」
「お前こそ、何熱くなってるんだよ…!」
「名前がスタンド使いなのは分かってただろうが!」
「ソルベとジェラートの幻見せて俺たちを殺しに来てんだったらどうすんだよ!」
「ハッ!それならとっくにお前をここに置いて行った時点で殺ってるか、ここにある鏡全部ぶち割ってるだろうよォ!ええ!?違うか!?」
「ぐっ…」

イルーゾォの言ってる事も一理無いわけじゃない。俺だって多少の不審な点と隠し事に目を瞑ってやってるんだ。そしてこいつを蹴り飛ばしはしたものの、そこまで怒りをぶつけきれねぇ訳は、動揺を隠しきれなかったわけじゃなく、仲間を利用されたのかもしれないという可能性を選択したからだと分かったからだ。

俺は深くため息をつく。
そう、冷静な判断で、暗殺者としても当然の行動だったが、敵意のねぇひ弱な女やガキにする手段じゃあなかった。これは俺のポリシーに関する事で、ギャングとしての意見じゃあない。男は女に出来る限り優しくしてやるものだと、イタリアーノなら誰でも知っているし、身についている習慣だからだ。

「名前に言葉で詫びておけとは俺も言わないが、何かしらの形で詫び入れろよ」
「お前に指図される謂れはないし、俺はまだ疑ってるからな…」

咳き込みながらも言い返すイルーゾォだが、その目線は彷徨い揺れている。本人も多少やりすぎたとは思っているのだろう。情けないと思ったが、弟分(ペッシ)でもねぇのに世話を焼いてやる事もないと、鼻を鳴らして流してやった。

ハンカチを取り出しながら名前の方へ漸く様子を見に行ってみれば、珍しい事にジェラートが介抱をしている。ソルベはそれを見守っているだけの様だが、それこそ俺にとっては驚くべきことだった。

「名前、だったか?大丈夫か?」
「あ、はい…えっとジェラートさん…」
「さん、は要らないさ。あっちはソルベ」
「よろしくな。立てるか、名前?」

2人の手を借りてソファにまた腰を落ち着けた様だが、ソルベとジェラートの間に座る人間がいるという風景がやたらと異彩を放っている。この形こそが普通なのだということを思い出し、俺はまた一つため息をついた。

「…名前、イルーゾォを許してやってくれ。悪意からじゃねぇ」
「はい、それはわかります…でもプロシュートさん、蹴り飛ばすことなかったと…」
「あ?」
「いえ…その、なんでもないです…」

被害者が加害者を庇うなんてという意味を込めて聞き返しただけなのだが、威圧しただけだったらしい。肩を震わせる様子にまた“普通”を知る。

そうだろうとも。俺たちの中じゃ殴る蹴るは日常茶飯事で、リーダーでさえ最終手段だとばかりにメタリカを乱用する。口の悪さじゃあ今の数十倍は悪い。しかしそれは俺たちの中での“普通”であり、所謂カタギの“普通”とは違うのだ。
今日のこの短い時間で一体どれだけ混乱させるのやら…。その元凶は全てこのpiccola(おチビちゃん)だ。当の本人はこちらを気にしながらも、2人のどちらかから借りただろうハンカチを鼻に当てて、これ以上鼻血が垂れないようにしていた。

「早速だがスタンドの能力がわかったなら、話せ」
「あ、えっと…確証は持てませんが、それでもいいなら」
「逆にどうしたら確証が持てそうだ?」
「…生き物の死体を1つと水の入ったガラスコップを一つ…」
「いいだろう。待ってろ」

俺はソルベとジェラートに名前を任せて、路地裏に行く。ゴミ捨て場に必ずいるだろう鼠を、グレイトフル・デッドで仕留める。たやすい事だ。運ぶために若干萎びたそれを掴むのは些か気分の悪くなるものだったが、これも仕方のない事だ。

部屋に戻って床に鼠の死体を放り投げる。ゴロリと転がったそれにギュッと眉を寄せて嫌悪を露わにするが、悲鳴をあげなかったのは意外だった。

「…Hometown Glory(ホ-ムタウン・グロ-リ-)」

名前が静かに呟くと、鼠は瞬きをする一瞬の間にピンと生前の姿を取り戻した。グレイトフルデットで確かに息の根を止めた上に、シワシワの干物になってた鼠が、そんなことがなかったかの様に生き返ったのだ。そのまま地下室の方へ走り去って逃げてしまったが、あとで捕まえればいいと放っておく。
次に手渡したのはただのガラスコップ。水は6分目まで入れた。鼻を押さえてる名前の代わりに、ソルベが床へそれを落とし、がしゃんと壊す。床は水浸しになった。再びスタンドを使えばガラスコップだけは元通りで、床は相変わらず水浸しのままだ。もう一度ガラスコップだけ落とせば、2度目は砕けたままで何も変化が起きない。
名前は納得したように頷き、俺の顔をしっかりと捉える。黒曜石はまだ輝いていた。

「一度だけ元に戻す、か」
「いいえ。たった1度だけやり直すチャンスを与えるようです…」

強張った笑みを作る名前は、どこか頼りなさげで、やはりpiccola(おチビちゃん)だなと思った。

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