夢小説「La mia utopia」 | ナノ


▼ 05

プロシュートは他のメンバーが帰ってくる前に、ここでの生活で気をつける事をいくつか教えてくれた。

一つ、他のチームの部屋に勝手に入らないこと
一つ、スタンドについて何か分かったらすぐに言うこと
一つ、炊事家事洗濯をする事

勝手に部屋に入らない事については当然そうあるべきと納得できた。プライバシーは大事だからだ。二つ目についても、私では分からない事もあるだろうから勿論そのつもり。しかし最後のはいただけない。

「…女だから家を守れって事ですか?」
「名前 名前 名前よぉ…いいか、まぁ事情があるなしにせよ、ここに置いてやるんだ。そのまま何処かのお姫様の様に養ってやるほど、俺は甘くねぇ。暗殺の仕事なんざやらせれるわけもないんだから、衣食住を保証してやる代わりにそれくらいの労働はしてもらわなきゃあ釣り合いが取れねぇだろ?ん?言っている意味はわかるな?」
「うっ…はい…わかります…」
「それに、身分証も何も持ってねぇお前が外で働くのは無理だ。そこは諦めろ。だがここで暮らす間必要なもんは出来る限り揃えてやる」
「…ありがとうございます」
「生き延びてぇなら賢くなれよ、piccola(おチビちゃん)」

まずは部屋だな、と言ってリビングから出て行く彼。ついて行こうと立ち上がると、プロシュートはやんわりとそれを押しとどめた。

「軽く片付けてくるからお前は来るんじゃねぇ。あの部屋はお前には刺激が強すぎる」
「誰か他の方の部屋ですか?なら私がそこへ住むのはご迷惑じゃ…」
「いいんだ。もう帰ってこねぇ奴らだからな」

感情のない風な声と態度から、まだ彼の中では鮮明に刻まれているのであろう事柄がわかった。私が暮らす事になるのはソルベとジェラートが使っていた部屋らしい。

「…大切な人達だったんですね」
「仲間だった…ただそれだけだ」

余計な事を喋っちまったと口の端をあげただけの笑みに全てを隠して、今度こそ立ち去って行く彼の背を見て、私は空になった瓶を手にため息をこぼすしかなかった。

こうなってしまった以上は仕方がない。彼の言う通り、賢く生き延びなければならないのだ。だからこそ、これから私がする事はハッキリしている。炊事洗濯家事手伝いでもなければ、暗殺技術を磨く事でもない。
やるんだ。彼らの命を潰えさせない様に。
やらなければならない。私の命を救ってくれた、彼に恩を返す為に。

今は西暦2000年。
それは物語が大きく始まる手前であり、少しだけ動き始めた後である証拠。

ああ、もう少し早くこっちに来ていたら、助けられたかもしれないのに…

後ろ向きな考えは賢く生きるのに向かない。そう分かっているものの、やはり思ってしまう。仮に早く辿り着いたとしても…助けられたかどうかはわからないのに。

「もしも2人が死んでなかったらな…」

何か結末が変わったかしら。
ポツリと呟いたその瞬間、なにかが私の中で鳴った。それは振り子時計のネジを巻く様な音で、キリリキリリと少しずつ大きくなっていき、巻いた後はカチリといって静まり返った。次いで目の前に現れたのは見知らぬ2人の男で、彼らは自分の置かれた状況がよくわからないと目を瞬かせる。私も今起きた現象がなんなのか分からず、声も出せない。

「え、ここは…」
「…アジト、か?」

2人は周りを見渡して、お互いを見つめ合い、未だ混乱の中しっかりと抱きしめ合った。カタカタと震え、片方は涙さえ流しそうである。流石といえばそこまでだが、完全に2人だけの世界といった風なので私も口を挟めない。そもそも何を言えばいいのかさえ分かったものじゃなかった。
ただ、何となく“これが私のスタンド能力なんだ”と糸口を発見したのは確かだ。

「ソルベ…ジェラート…!?」
「イルーゾォ!」

鏡から飛び出してきたイルーゾォは信じられないと目を見開き、そしてバタバタと走り去ってしまった。階段を駆け上り、その勢いのまま凄まじい音を立てて扉を開いたらしい。上からプロシュートの怒鳴り声が聞こえる。次いで、お互いに何か言い合った後、2人分の階段を駆け下りてくる音が私の後ろで騒がしい。
ようやく辿り着いたと思ったら、ソファのへりをガッと掴んで身を乗り出したプロシュートさん。どんな表情かと伺えば、きっちりと分けられた前髪が少しだけ乱れている。愕然としている中で、喜びの光を瞳の中に見つけられた時、私の胸の奥がキュッと締め付けられたような気がした。

「お、お前たち、死んだ筈だろう…?俺は幻でも見てんのか?」
「プロシュート、どういうわけか分からねぇ…でも、俺たち生きてる…!」
「ああ、確かに死んだはずだったが…生きてる」

ぎこちない笑顔のソルベとジェラートをみて、感動の再会だなと微笑みを浮かべたその時。後ろからガッと頭を乱暴に掴まれ、そのままフローリングに叩きつけられた。突然の事で受け身など取れるはずもなく、顔を強かに打ち付けてしまう。たらりと鼻から滴り落ちる血に、自分の身に起きたことながらギョッとしてしまった。今はそのまま上から押さえつけられてしまい、拭う事も出来ない。鼻の骨が折れたりしてたらどうしよう…。

「この女が何かしやがった!」
「イルーゾォ、手荒にするんじゃあねぇ!」
「いいや、どんなスタンドかは知らねぇが、コイツァ何かしたんだ!ええ!?そうだろ!」
「…ぅぁ…」

押さえつけられたままではろくに話す事も出来ない。なんとか弁解できないかと考え始めた矢先、そんな心配は不要になった。いきなり圧が消え、代わりに凄まじい音となにかが壊れる音が響いて来る。
痛みと開放感で息を吸えば血が逆流し口の中に広がった。それを思わず飲み込もうとして、噎せて咳き込んでしまい、何が起きたのかは確認できなかった。ジェラートが背中をポンポンと摩ってくれた事がすごく不思議に感じたが、ありがたかったので言及はしない。

ようやく息が整ったところで様子を見てみると、プロシュートがイルーゾォをその長い足で蹴り飛ばしている瞬間を目撃してしまった。

「ひっ…!」

普通に生きてきてそんな場面に出くわす筈もなく、ドラマ以上にリアルな…否当然目の前で起こっているからリアルなのだが…兎に角ショッキングな気分になる。ただ未だ垂れる血が口内で気持ち悪かった。

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