夢小説「La mia utopia」 | ナノ


▼ 07

Hometown Glory(ホ-ムタウン・グロ-リ-)

それが私のスタンドの名前。
栄光なれ我が街なんて笑えない話だ。もう帰る故郷など私にはないというのに。

過去にあった出来事をなかった事にできるこの能力は、無機物有機物に関わらず使えるらしい。おそらく私が能力を解除すれば、変更点を元に戻す事も可能だろう。ただ条件として、起きた出来事のみを変更するため、周囲の記憶や状況に変化は起こせない様だった。
例えば、今水浸しになっている床がそうだ。「もしもコップが壊れなかったら」そう願ったはずだが、元に戻ったのはコップだけ。中に入った水はそのまま床へシミを残した。あとで掃除しなきゃとぼんやりと考える。

そして私にとっては重要な事だが、このスタンドは私の起こした行動の変更はできない様になっているらしい。これはスタンド能力に目覚めた時何となく感覚としてわかっている事だった。
だから仮に私がコップを落とすと、そのコップは壊れたままで元に戻る事はない。

プロシュートは時々質問を挟みながら、どうやら私のスタンドを理解してくれた様だ。便利だなと最後に感想を残すが、その便利とはどの目線から言っているのやら。まさか暗殺者目線という事は…ないだろうと祈るばかりだ。

ソルベとジェラートが生き返った事はすぐにチームへ連絡された。1人ずつ順番に電話をかけていくプロシュートを見て、ああそういえば西暦2000年だったんだっけと思い出す。
携帯電話もこの時代はガラパゴス携帯と呼ばれているような型で、ショートメールか電話のみの使用になってくる。多分インターネット接続も出来たはずだが、それをすると通信費が馬鹿みたいに高くなるはずだ。WiFiなんて便利なものはまだ普及されていない。

全員に伝え終えたのか、プロシュートは携帯をテーブルへ乱暴に放り投げ、椅子へと腰を下ろした。

「リーダーは明日の朝に戻ってくるらしいが、他はもう暫くかかるらしい」

何回説明しなきゃいけねぇんだ面倒くせぇとひとつ溜息をつき、こめかみを揉む。その仕草は実に悩ましげで、なんとも言えない色気があった。

「ソルベとジェラートが生き返ったんなら、あの部屋は使えねぇ。だから今日の所は俺のベッドを使え」
「プロシュートさんはどこに…」
「ここのソファで寝る」
「わ、私がソファでいいです!そんな、お疲れでしょうし…」
「いいから。プロシュートがそうしろって言うんならそうした方がいい」

やんわりと私の意見を取り下げるジェラートさん。でも、と更に言い募るのは聞き分けのない子どもみたいだと思い直し、出かかったものを飲み下してありがとうございますと言い換えた。

そのタイミングで、誰かが帰って来たらしい。遠くのドアがキィと軋む音がする。ドスドスと重い足取りでやって来たのは、緑色の変わった髪型がトレードマークな彼だった。

「あ、兄貴ぃ、その子が言ってたスタンド使いですかい?」
「ああ。名前、こいつはペッシ」
「よろしくお願いします」
「う、うん、よろしく」

差し出した手を彼はおずおずと握り返し、片腕に抱えた大きな紙袋をそそくさとキッチンへ運びに行ってしまった。ゴツゴツとした力強く分厚い手に、少し自信のないような目が庇護欲をそそるな、と第一印象を抱く。私はペッシが割と好きで、常々可愛がりたいと考えていた口なので、余計にそう思ったのかもしれない。

ペッシがガサゴソと冷蔵庫へ食品を入れていく様子に、私はハッとした。そうだ、私の仕事には炊事が含まれている。時計を探してみてみれば、もう夜の9時を半分以上過ぎていた。鼻血もなんとか止まったようだし、ここはきちんと仕事をこなして信用を勝ち得るのが得策だろう。
私はハンカチをそっとポケットへ押し込み、ソファを飛び降りる。ソルベが後ろから引き止めるような声をかけて来た気がしたがそれは聞こえなかったふりをした。キッチンに辿り着き声をかければ、ペッシは大袈裟にビクついてぎこちない笑みを浮かべてくれる。それは私が子どもであるから優しくしてくれるのか、それとも彼の気弱な性格からなのか…判断は難しい。

「晩ご飯、作りますね。ペッシさんは、嫌いなものはありますか?」
「え!?いや…でも…」

兄貴ぃ、と情けなく助けを求める彼の姿についつい笑いが溢れてしまう。ただ好き嫌いを訪ねただけなのに。
プロシュートは眉間にグッとシワを寄せてまた一つため息をこぼす。

「ペッシぃ、てめぇはこのpiccola(おチビちゃん)以下のmammoni(ママっ子)か?ええ?晩飯の好み聞かれただけじゃあねぇか!」
「でもよォ兄貴より先に俺が答えるなんて…」
「名前はお前に聞いたんだ、答えてやれよ」

ケラケラと笑うジェラート。ペッシは私をみてまたぎこちなく笑った。少しだけ腰を屈めて私に目線を合わせてくれるのは、プロシュートが彼にそうするからなのかもしれない。

「特に好き嫌いはないけど、辛すぎるのはちょっと苦手かな」
「私も実は辛いのが苦手なので、お揃いですね」

ちょっとだけと指で目盛りを作って笑って見せれば、ようやくペッシは本当の笑顔を見せてくれて、やっぱり可愛いなぁなんて私も頬がまた緩む。

一度打ち解ければそこからは早かった。
買ってきた紙袋をみたり冷蔵庫の中を見てみたり、地下にある食料倉庫へ着いてきて貰ったりと、少し兄貴風を吹かせるペッシに甘えてみる。階段を降りるときに手を引いてくれたのには驚いたけれど、きっとこれも全て“兄貴”の教育の賜物なのだろう。

10時を少し過ぎた頃、全て見聞し終えて私は今日の晩ご飯のメニューを決めた。

「ボロネーゼにします。というか…ボロネーゼくらいしか出来ないです…」

どこもかしこも酒とツマミしかないなんてどうかしてる!

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