夢小説「La mia utopia」 | ナノ


▼ 01

腹部の痛みに意識が浮上した。
パラパラと細かい雨が頬を打ち、髪が徐々にしっとりと重さを増していく。脇腹から勝手にだらだらと流れていく赤い液体も、石畳の隙間を伝って排水溝へ。痛みと出血でフラフラし、ぼんやりと霞んでいく思考回路に危機感さえも薄れていくようだ。

「だれか、助けて…」

私を刺した人物は既におらず、町は静まり返ったまま。遠くで時折車かバイクが走り去る音は聞こえてくるが、こちらへ向かうものではなさそうだった。
指先は冷たくなっていき、体は震えが止まらない。身体を擦って暖を取ろうとするも力が微塵とも入らず、カタカタと歯の根を震わすだけ。

ああ、嫌だな、怖い。
就職して2年、ようやく仕事も覚えて余裕が出てきたと思った矢先になんて日だろう。つつがなく1日を終えて気分が良く、少しだけ晩酌をしてから帰ろうとしただけなのに。ただそれがいけなかったのだろうか。神様なんて信じちゃいないけれど、もしもいるのであれば私の行動が気に障ったらしい。全くくそったれと詰ってやりたくなる。

そんな事を考えても、もう死ぬしかないんだろうとどこか諦めが顔をもたげていた。全くもって人生は何が起こるか分からないものだ。

「死にたくないなぁ…」
「…なら何が何でも生きる気概を見せるんだな、signorina」

コツコツと高そうな革靴の底が石畳を叩く音が最後に聞こえ、私は意識を手放す。
さっきまでアスファルトの上だったのに、いつの間に石畳に変わったんだろう、と一瞬だけ不思議に思った。

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